人材開発支援助成金で最初に確認すべきなのは、助成率よりも「訓練経費を誰が、どのように負担したか」です。厚生労働省は令和8年8月3日版の案内で、申請事業主が訓練経費を全額負担することを要件として示し、返金・貸付・ギフト券などで実質的な負担を減らす申請を不正受給の事例として注意喚起しています。
AI・DX研修を検討する企業にとっても無関係ではありません。研修費用の一部が助成対象になり得る一方、「助成金を使えば無料になる」「受講料を後から返す」といった勧誘を受けた場合は、契約前に立ち止まる必要があります。ここでは、厚生労働省が公表した資料をもとに、返金ルール、対象経費、計画届と支給申請の時期、社内で残す記録を整理します。

2026年9月時点の制度条件を先に整理
厚生労働省の公式ページで確認できる令和8年8月3日版の資料では、人材開発支援助成金は、雇用する労働者に職務関連の専門的な知識・技能を習得させる訓練を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度と説明されています。
| 項目 | 2026年度の確認内容 |
|---|---|
| 制度名 | 人材開発支援助成金(令和8年度) |
| 本記事の対象 | 訓練経費の負担、返金・貸付・割引などの適正性 |
| 助成率 | コース・対象労働者・企業規模・賃金要件などで異なる。人材育成支援コースの人材育成訓練は、正規雇用労働者等では通常45%、賃金要件等を満たす場合は60%。有期契約労働者等では通常70%、要件を満たす場合は85% |
| 上限額 | コース・訓練時間で異なる。人材育成支援コースは1事業所・1事業年度の支給限度額1,000万円。1人1訓練あたりの経費助成限度額は訓練時間に応じて設定 |
| 対象経費の例 | 外部講師の謝金・旅費、施設・設備の借上げ費、教科書・教材費、外部教育訓練機関の受講料など |
| 固定の公募回・締切 | 補助金のような全国一律の公募回はない。コースごとに計画届と支給申請の期限が定められる |
| 人材育成支援コースの時期 | 計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前まで。支給申請は原則として訓練終了日の翌日から2か月以内 |
助成率や上限額は、コース名だけで判断できません。たとえば、AI・DX研修でも、職務に直接関連するOFF-JTなのか、定額制訓練なのか、事業展開等リスキリング支援コースに該当するのかで確認箇所が変わります。上表の数値は令和8年8月3日版の人材育成支援コース資料に基づく例であり、別コースへそのまま当てはめないでください。
なお、申請前に使う資料は、厚生労働省の制度一覧から対象コースの詳細版パンフレットと支給要領を選ぶのが安全です。公式ページはhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.htmlです。
公式資料が示す「全額負担」の意味
人材開発支援助成金では、支給申請までに申請事業主が訓練に要した経費を全て負担していることが基本になります。いったん請求書どおりに支払っていても、訓練機関や第三者から金銭を受け取り、申請事業主の実質的な負担が減っていれば、経費助成の対象にならない可能性があります。
- 対象になり得る流れ:申請事業主が訓練機関と契約し、受講料等を自社の資金で支払い、支給申請まで支払記録を保管する。
- 注意が必要な流れ:訓練機関が紹介した会社から訓練費用相当の貸付を受け、その資金で支払う。
- 注意が必要な流れ:訓練後に返金、営業協力金、キャンペーン特典、ギフト券などを受け取る。
- 注意が必要な流れ:助成金を申請する企業だけ受講料が高く設定され、通常料金との差額に合理的な説明がない。
重要なのは、請求書と振込記録だけをそろえれば足りる、という意味ではないことです。契約書、見積書、受講案内、訓練実施記録、領収書、返金や特典の有無を確認できる資料まで、取引全体の整合性が見られます。
厚生労働省が公表した不正受給の事例3つ
令和8年8月3日付の厚生労働省リーフレット「人材開発支援助成金 不正受給」には、訓練経費を申請事業主が全額負担していない例が掲載されています。以下は特定企業の実績紹介ではなく、公式資料に記載された注意事例の要約です。
事例1:訓練費用相当の貸付を受けて支払う
事例区分:厚生労働省の公式注意事例
訓練機関から紹介された事業者が訓練費用分を貸し付け、その資金で訓練費用を支払うよう案内。貸付契約が訓練経費を実質的に減額する趣旨だと知りながら、全額負担したとして申請するケース。
見かけ上の振込だけではなく、貸付契約や返済条件まで確認されます。「いったん自社から振り込めばよい」という理解は危険です。
事例2:ギフト券や宣伝協力の対価を受け取る
事例区分:厚生労働省の公式注意事例
訓練契約を結ぶとキャンペーンとしてギフト券を渡す、受講後の感想・インタビューなどの宣伝協力の対価として不相当な金銭を渡す、といった誘いを受け、訓練経費を全額負担したとして申請するケース。
訓練そのものと無関係に見える特典でも、申請事業主の負担を減らす性質があれば問題になります。契約前に、特典の有無と条件を書面で確認してください。
事例3:無料・利益が出ると説明され、返金や割引を受ける
事例区分:厚生労働省の公式注意事例
「訓練の負担は発生しない」「助成金を申請すれば利益が出る」と説明され、訓練前後に金銭を受け取る、または製品を無料・割引で受け取るケース。
助成金は、要件を満たして支払った訓練経費の一部などを助成する制度です。訓練契約だけで利益が生じる仕組みではありません。営業資料に「必ず得をする」「負担ゼロ」などの表現がある場合は、契約を急がず管轄労働局へ相談するのが適切です。
3事例の原文は、厚生労働省が公開するhttps://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731928.pdfで確認できます。


AI・DX研修で対象になり得る経費と対象外の線引き
令和8年8月3日版の人材育成支援コース資料では、対象経費として、部外講師の謝金・旅費、施設・設備の借上げ費、教科書・教材の購入・作成費、外部教育訓練機関の受講料・教科書代などが示されています。AI活用研修やデータ分析研修でも、職務に直接関連する訓練としてコース要件を満たすかが前提です。
| 確認項目 | 記事作成時点の整理 | 確認資料 |
|---|---|---|
| 研修費 | 外部教育訓練機関への入学料・受講料・教科書代等が対象になり得る | 受講案内、請求書、領収書、訓練内容 |
| AIツール利用料 | 研修を受講するための費用と、通常業務で使うツール導入費は分けて整理する | 見積書、契約書、カリキュラム |
| 訓練内容 | 対象労働者の職務に直接関連すること。一般的な概念理解だけでは判断が分かれる | カリキュラム、対象者の職務記述 |
| 受講形態 | 通学制、同時双方向型、eラーニング等で要件・時間数の扱いが異なる | 実施方法、実訓練時間、標準学習時間 |
| 負担関係 | 申請事業主が支給申請までに全額負担し、受講者にも経費を負担させない | 会社口座の振込記録、社内精算記録 |
特にAI関連では、研修費とAIツールの導入費が同じ見積書にまとめられることがあります。研修カリキュラムに含まれる受講料なのか、通常業務で継続利用するソフトウェアの導入費なのかを区分し、対象経費として申請する範囲を事前に労働局へ相談できる形にしておくと、後の説明がしやすくなります。
人材育成支援コースの詳細版では、eラーニング・通信制訓練は経費助成の扱いが異なるほか、標準学習時間や標準学習期間の要件も示されています。eラーニングを検討する場合は、別記事の人材開発支援助成金のeラーニング要件も参照してください。
もう1つの入口が、訓練時間数です。人材育成支援コースの人材育成訓練では、実訓練時間数が10時間以上であることが基本要件です。eラーニングや通信制では、1コースの標準学習時間が10時間以上、または標準学習期間が1か月以上であることが基準になります。動画を視聴できる状態にしただけでは、対象となる訓練として扱われるとは限りません。
そのため、研修会社から受け取るカリキュラムには、実施方法、実訓練時間数または標準学習時間、受講期間、修了条件、対象者の職務との関係を明記してもらいましょう。AIツールの操作説明を含む場合も、営業・経理・製造など、誰のどの職務に必要な技能なのかを説明できる形にしておくことが重要です。単なる一般教養としてのAI紹介と、特定業務に直接使う技能訓練では、確認すべきポイントが変わります。
計画届から支給申請までの実務フロー
訓練費用の適正性は、申請直前に整えるものではありません。人材育成支援コースを例に、準備の順番を並べます。ほかのコースを利用する場合は、対象コースの詳細版パンフレットと支給要領に読み替えてください。
- コースと訓練内容を選ぶ:対象労働者の職務、訓練の目的、実施方法、受講料の内訳を整理する。
- 職業能力開発推進者を選任する:研修・人事担当の部課長など、社内の人材育成を進められる担当者を置く。
- 事業内職業能力開発計画を策定・周知する:経営方針と育成方針を結び、労働者へ周知する。
- 計画届を提出する:人材育成支援コースでは、訓練開始日の6か月前から1か月前までの期間が基本。提出前に訓練を始めない。
- 訓練を計画どおり実施する:出席、受講、実施時間、講師、カリキュラム変更を記録する。変更があれば定められた期限で届出する。
- 支給申請を行う:原則として訓練終了日の翌日から2か月以内。受講料等の支払い、訓練実施、賃金、対象者の要件をそろえる。
- 書類を保存する:支給決定後も審査に必要な関係書類を5年間保存する。
申請書類の全体像は人材開発支援助成金の申請書類チェックリスト、支給申請の記入項目は支給申請書の書き方で確認できます。
社内では、担当者を一人に集中させないことも実務上のポイントです。研修担当はカリキュラムと受講記録、経理担当は請求書と振込記録、人事担当は対象者・賃金・出勤の記録をそれぞれ確認し、支給申請前に突合します。返金や特典の有無は、営業担当が受け取った提案書やメールも含めて確認しましょう。記録が分散していると、申請時に「誰が何を確認したか」を説明しにくくなります。

契約前に確認したい不備パターン
不備1:研修機関の営業資料だけで対象と判断する
❌ 「助成対象」と書かれた営業資料だけで、コース・対象者・実施方法の要件まで満たすと判断する。
⭕ 公募資料ではなく、厚生労働省のコース詳細版と支給要領で要件を照合し、必要に応じて労働局へ相談する。
不備2:契約後にカリキュラムや受講者を変更する
❌ 研修開始後に対象者や実施方法を変え、変更届を出さない。
⭕ 変更の内容と期限を確認し、必要な届出を済ませてから実施する。
不備3:受講料の一部を労働者が負担する
❌ 受講者から受講料の一部を徴収し、会社が残りを支払う。
⭕ 原則として申請事業主が負担し、給与控除や社内請求の扱いも含めて事前に労働局へ確認する。
不備4:返金や特典を契約書に書かない
❌ 「口頭のサービスだから記録はいらない」と考える。
⭕ 返金、貸付、ギフト券、製品提供、宣伝協力など、受講料と関連する提案があれば契約前に書面で確認し、助成金の利用を前提にしない判断も含めて検討する。
不正受給が疑われるときの連絡先と対応
厚生労働省は、令和8年8月3日以降の支給申請について、不正受給に関する公表の特例を案内しています。支給決定前であっても、調査前の自主申告をしていない場合は原則として公表対象となる旨が示されています。特に重大または悪質な場合などは扱いが異なるため、個別事情を自己判断しないことが大切です。
返金や貸付を含む提案を受けた、契約後に特典を受け取った、申請前に要件への不適合に気づいた、といった場合は、証拠を削除せず、契約書・請求書・メール・振込記録を保全したうえで、管轄の都道府県労働局へ相談してください。申請手続きの代理や書類作成の可否は、社会保険労務士法などの専門家領域が関係するため、必要に応じて提携社労士への相談・紹介を検討します。
不正受給防止リーフレットの原文はhttps://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731928.pdf、人材育成支援コースの令和8年8月3日版詳細資料はhttps://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731967.pdfです。
判断に迷う企業向けの確認リスト
- □ 訓練機関から返金、貸付、ギフト券、製品提供の提案を受けていない
- □ 受講料と通常料金の差額に合理的な説明がある
- □ 会社が訓練経費を支給申請までに負担する
- □ 受講者に経費を負担させない
- □ 対象者の職務と訓練内容が直接つながっている
- □ 計画届、変更届、支給申請の期限をカレンダーに登録している
- □ 契約書、請求書、振込記録、受講記録、賃金記録を保存できる
1つでも説明がつかない項目があれば、受講契約や申請を先に進めるのではなく、公式資料を読み直し、管轄労働局へ相談してください。契約条件を変更できない場合は、別の研修機関を含めて比較する選択肢もあります。
AI研修の助成金活用で押さえる結論
人材開発支援助成金は、AI・DX研修の費用を一定の要件のもとで助成する制度ですが、訓練経費を実質的に減らす返金や特典とセットで使う制度ではありません。厚生労働省の公式資料が示すポイントは、次の3つです。
- 支払った経費の流れを透明にする:会社から訓練機関へ支払った事実だけでなく、第三者からの貸付や返金がないことを説明できるようにする。
- 研修の業務関連性を整理する:AIツールの一般紹介ではなく、対象者の職務に直接関係するカリキュラムとして確認する。
- 期限と資料を先に管理する:計画届を訓練前に出し、変更と支給申請の期限、5年間の保存を社内で分担する。
制度の比較から検討したい場合は、中小企業向け補助金5制度の比較も参考になります。ただし、補助金と助成金では申請方式・対象経費・支給時期が異なるため、同じルールとして扱わないでください。
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参考・出典
- 厚生労働省「人材開発支援助成金 制度一覧」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html(参照日:2026年9月16日)
- 厚生労働省「人材開発支援助成金 不正受給」:https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731928.pdf(令和8年8月3日以降の支給申請に関する注意)
- 厚生労働省「令和8年度版 人材育成支援コースのご案内」:https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731967.pdf(令和8年8月3日版)
- 厚生労働省「令和8年度版 教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コースのご案内」:https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731970.pdf(令和8年8月3日版)
- 雇用関係助成金ポータル:https://www.esop.mhlw.go.jp/
公式情報リンク集(申請前に最新資料を確認してください)
制度内容、助成率、上限額、対象経費、提出期限は改正される場合があります。申請前に、厚生労働省と管轄労働局の最新資料を確認してください。
- 厚生労働省 人材開発支援助成金:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
- 不正受給防止リーフレット:https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731928.pdf
- 人材育成支援コース詳細版:https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731967.pdf
- 教育訓練休暇等付与コース詳細版:https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731970.pdf
免責事項:本記事は2026年9月16日時点で取得した厚生労働省の公表資料をもとにした参考情報です。制度の適用可否は、コース、企業規模、訓練内容、提出時期、個別の取引関係などで変わります。申請前に最新の支給要領を確認し、必要に応じて管轄労働局や提携社労士へ相談してください。本記事の情報に基づく申請結果について、当サイトは責任を負いません。
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。AI導入・DX研修の計画策定や制度選びについての相談は、お問い合わせフォームからご連絡ください。
