デジタル化・AI導入補助金は、採択されて終わりではありません。ITツールの契約・納品・支払いをすべて終えたあと、「実績報告」を期限内に提出できて初めて補助金が振り込まれます。実は、この段階でつまずく事業者が少なくありません。請求書の値引き表記、支払証憑の不足、口座名義の不一致――どれも細かいルールがあり、1つのミスが不備訂正の差し戻しや、最悪の場合は交付決定の取消しにつながります。
この記事では、事務局が公開している「事業実施・実績報告マニュアル」(2026年6月12日更新版)をもとに、実績報告の提出手順・必要書類21点・不備になりやすいポイントを整理します。第1次締切(2026年8月25日締切)の交付決定を受けた事業者にとって、これから半年ほど先に必要になる作業を先取りして把握するための記事です。
実績報告とは?対象者・提出先・現行公募の期限
実績報告とは、交付決定を受けた事業(契約・発注、納品、請求・支払い)が完了した内容を事務局へ報告する手続きです。実績報告が承認されると「確定検査」を経て、補助金額が確定し、交付されます。まず制度全体の位置づけを確認しておきましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金) |
| 所管 | 中小企業庁(事務局:中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局/独立行政法人中小企業基盤整備機構) |
| 対象手続き | 交付決定後、事業完了から速やかに行う「実績報告」(確定検査前の手続き) |
| 提出方法 | 補助事業者は「申請マイページ」、IT導入支援事業者は「IT事業者ポータル」を使い、両者共同で作成・提出 |
| 第1次締切分の交付決定 | 2026年10月7日(水)予定(通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠) |
| 第1次締切分の事業実施期間 | 交付決定〜2027年3月31日(水)17:00予定 |
| 第1次締切分の実績報告期限 | 2027年3月31日(水)17:00予定(全枠共通・現時点で確定している回のみ公表) |
| 根拠資料 | 「事業実施・実績報告マニュアル」通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠共通版(2026年6月12日更新) |
制度全体の補助率・上限額の比較は、【完全比較】中小企業向け補助金5制度 早見表もあわせてご覧ください。ここから先は「交付決定を受けたあと、何をどう報告すれば補助金が振り込まれるのか」に絞って解説します。
なお、実績報告と混同されやすい手続きに「事業実施効果報告」があります。これは補助金交付後に生産性向上の数値目標などを最大3年間報告し続ける別の義務で、実績報告(振込前の一度きりの報告)とは目的も時期も異なります。詳しくはデジタル化・AI導入補助金 事業実施効果報告とは|3年間の提出義務と返還リスクで解説しています。
まずこれだけ確認|実績報告に入る前の3条件
- 交付決定通知を受けたあとに契約・発注しているか:交付決定前の契約・発注・納品・請求支払いは補助対象外です。
- 全てのITツールで「支払い・検収」と「利用・運用の開始」が終わっているか:実績報告は事業が完全に終わった状態で提出します。提出後に未利用が発覚すると交付決定の取消しリスクがあります。
- 契約・発注、納品、請求・支払いに関する証憑をすべて保管しているか:契約書、注文書、納品書、導入通知書、請求書、振込受領書、領収書等は、確定検査で追加提出を求められる場合に備えて保管しておく必要があります。
交付決定から補助金振込までの9ステップ
実績報告は、補助事業者だけで完結する作業ではありません。IT導入支援事業者との共同作業として、以下の順序で進みます。
- 実績報告の開始(補助事業者):申請マイページから実績報告を開始します。
- 各種証憑類の添付(補助事業者):請求書・支払証憑等を添付します。添付ファイルは10MB未満の.jpg/.jpeg/.png/.pdf形式のみ対応です。
- 補助金受取口座情報の入力・添付(補助事業者)
- 実績報告内容の確認(補助事業者)
- 契約・納品・支払情報の入力(IT導入支援事業者):IT事業者ポータルから、補助事業者の入力内容の確認・修正依頼、契約情報、納品情報、支払情報を入力します。
- 実績報告内容の確認(IT導入支援事業者)
- 補助事業者へ提出依頼(IT導入支援事業者):複数者連携枠の場合、この提出依頼はコンソーシアム幹事社のみが行えます。
- 実績報告内容の最終確認(補助事業者):入力項目を修正する場合はステップ1まで戻る必要があります。
- SMS認証・実績報告の提出(補助事業者)
提出後は事務局による「確定検査」に進みます。ここまでの流れを見ると分かる通り、実績報告はIT導入支援事業者側の入力(契約・納品・支払情報)が完了しないと補助事業者側も先に進めません。事業完了後は早めにIT導入支援事業者へ連絡し、並行して証憑の準備を進めるのが実務上のコツです。
ステータスと通知メールで今どこまで進んだか確認する
実績報告は「補助事業者→IT導入支援事業者→事務局」と手続きが行き来するため、いま自分が何をすべき段階なのか分かりにくくなりがちです。申請マイページでは、進捗が次のようなステータスで自動的に遷移します。
- 補助事業者の対応待ち:「補助事業者 実績報告 入力中」「補助事業者 実績報告 提出待ち」等
- IT導入支援事業者の対応待ち:「IT導入支援事業者 実績報告 入力」
- 事務局の処理中:「実績報告済」(確定検査中)「口座情報確認中」「補助金 確定済」「補助金 交付済」
不備があった場合は「補助事業者 実績報告 訂正中」→「IT導入支援事業者 実績報告 訂正・確認中」→「補助事業者 実績報告 再提出待ち」の順で戻ります。あわせて、事務局からは「事業実績報告入力完了メール」「実績報告内容確認・指摘事項メール」「確定内容承認依頼メール」「振込完了メール」等が段階ごとに届く仕組みです。事務局の通知メールアドレス(@it-shien.smrj.go.jp、@shinsei.it-shien.smrj.go.jp)を受信拒否設定にしていないか、事前に確認しておくと通知の見落としを防げます。
提出が必要な書類21点|枠ごとに異なる一覧
必要書類は申請枠・申請類型や導入したITツールの種類によって異なります。主な書類と対象枠を一覧にしました(○=提出対象)。
「21点」の内訳は、事務局の事業実施・実績報告マニュアル「3-4 必要書類一覧」で(1)〜(21)として項番管理されている次の書類です。支払証憑は支払方法別に5種類に分かれており、実際に提出するのは自社の支払方法に該当する分だけです。(16)〜(18)も該当ケースがある場合のみ対応します。
- 請求書(請求明細書)
- 支払証憑(銀行振込)
- 支払証憑(ATM振込)
- 支払証憑(金融機関の窓口振込)
- 支払証憑(インターネットバンキング振込)
- 支払証憑(クレジットカード払い)
- ソフトウェアの導入・利用確認
- 実施実態資料(大分類Ⅲの役務を導入し、事務局から指示があった場合のみ)
- ハードウェアの納品書(ハードウェア導入時のみ)
- ハードウェアの写真(ハードウェア導入時のみ)
- 補助金受取口座
- 契約書又は利用申込書
- 取引先アカウント一覧
- アカウントを供与された中小企業・小規模事業者等情報
- ITツールを利用した実態が確認できる書類
- 交付申請時に申告されていない取引先の必要書類
- 支払証憑が複数枚ある場合の対応方法
- 請求書・支払証憑が複数枚ある場合の対応方法
- 取得財産等管理台帳
- 従業員一覧(小規模事業者のみ)
- インボイス登録通知書(加点を希望する場合のみ)
次の表は、上の21点のうち同じ種類の書類をまとめて12分類にした早見表です。どの枠・類型で何が必要かの当たりを付けるのに使ってください。
| 提出書類 | 通常枠 | インボイス対応類型 | 電子取引類型 | セキュリティ対策推進枠 |
|---|---|---|---|---|
| 請求書(請求明細書) | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 支払証憑(銀行振込/ATM振込/窓口振込/インターネットバンキング振込/クレジットカード払い) | ○ | ○ | ○ | ○ |
| ソフトウェアの導入・利用確認 | ○ | ○ | ○ | − |
| 実施実態資料(大分類Ⅲ役務導入時、事務局から指示があった場合のみ) | ○ | ○ | − | − |
| ハードウェアの納品書・写真(ハードウェア導入時のみ) | − | ○ | − | − |
| 補助金受取口座 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 契約書又は利用申込書 | − | − | − | ○ |
| 取引先アカウント一覧/アカウント供与先の画面キャプチャ | − | − | ○ | − |
| ITツールを利用した実態が確認できる書類 | − | − | ○ | − |
| 取得財産等管理台帳 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 従業員一覧(小規模事業者のみ) | − | ○ | − | ○ |
| インボイス登録通知書(加点希望時のみ) | − | ○ | − | − |
このうち「取得財産等管理台帳」は、単価50万円以上の設備等を対象に別途作成が必要な書類で、様式や記載例は取得財産等管理台帳の作り方|様式第7・50万円基準・記載例で具体的に解説しています。実績報告の準備と並行して確認しておくとスムーズです。
注意点として、財産保護・個人情報保護の観点から、支払証憑(銀行振込/ATM振込/窓口振込/インターネットバンキング振込/クレジットカード払い)と補助金受取口座、取引先アカウント一覧などはIT導入支援事業者から閲覧できない設定になっています。補助事業者自身が申請マイページから直接添付する書類です。
支払い方法のルール|銀行振込とクレジットカード1回払いだけが対象
実績報告の不備の多くは、証憑の書き方以前に「支払い方法そのもの」が対象外だったというケースです。マニュアルでは支払い方法について、次のルールが明示されています。
- 決済方式は「銀行振込」または「クレジットカード1回払い」のみ:現金の引き出しによる振込、リボ払い・分割払いは補助対象経費として認められません。
- 振込は補助事業者の口座からIT導入支援事業者の口座へ:金融機関の窓口やATMからの現金振込は対象外です。
- 法人は法人名義の口座、個人事業主は本人名義の口座から:法人が代表者個人名義の口座で支払った場合や、個人事業主が家族名義の口座で支払った場合は対象外になります。
- 複数のIT導入支援事業者への支払いをまとめられない:担当者が同一人物であっても、1つの法人口座から複数社分をまとめて支払うことはできません。各法人口座からそれぞれ支払う必要があります。
- クレジットカードは法人・事業主本人名義のカードのみ:法人ならビジネスカード等の法人名義口座決済、個人事業主なら本人名義かつ補助事業者名義口座決済のカードに限られます。家族名義のカードは対象外です。
振込手数料をIT導入支援事業者が負担する場合は、請求書にその旨を明示し、1件あたりの手数料額が明確に分かる証憑を用意してください。月次の振込合計額しか分からない証憑では、本事業にかかった手数料が特定できず、補助対象として認められません。
ハードウェアを導入した場合の追加ルール
PC・タブレット・プリンター・スキャナー・複合機やPOSレジ等のハードウェア(カテゴリー8・9)を導入した場合は、ソフトウェアと異なる追加ルールがあります。
- 現物へのシール・ラベル貼付が必須:導入したハードウェア本体に「デジタル化・AI導入補助金2026」の対象製品であることが分かるシールやラベルを貼付します。文字が読み取れるサイズで、表面(貼付困難な場合は裏面)の常に見える位置に貼ります。複数台導入した場合は番号を付けて管理します。
- 付属品も同様に管理:貼付が困難な付属品は、シールの代わりに管理簿等で補助対象製品であることを管理します。
- 対象は「継続利用に必要な最低限の機器一式」のみ:「会計」「受発注」「決済」のいずれかの機能を含むカテゴリー1(ソフトウェア)とあわせて導入する場合に限り対象となり、レジ以外用途のPC・タブレット・プリンター・スキャナー・複合機の本体費用と運搬費が該当します。
- 設定費用・消耗品は対象外:ハードウェアの設定費用、ロール紙・インク等の消耗品、3Dプリンター等の特殊印刷用プリンターは補助対象になりません。
支払証憑・請求書でつまずきやすい5つの不備
マニュアルで明示されている、実務でよく発生する不備パターンを整理しました。
不備1:請求書の値引きを合計金額から一括で引いている
❌ 合計金額から「値引き -180,000円」のように一括で差し引く
⭕ 各製品の単価ごとに値引き後の単価が分かるように記載する
一括値引きは、どの製品にいくら値引きが適用されたのか読み取れないため不備となります。値引きがある場合は、製品ごとの単価欄に反映してもらうよう、契約時点でIT導入支援事業者に依頼しておくと安心です。
不備2:IT導入支援事業者の口座情報や書類を提出してしまう
❌ IT導入支援事業者の口座情報・取引ページのスクリーンショットを添付する
⭕ 補助事業者自身の口座情報・取引証憑のみを添付する
支払証憑として認められるのは、あくまで補助事業者が振込を行った際の書類です。「IT導入支援事業者の口座情報を添付する」は明確な不備例としてマニュアルに記載されています。
不備3:口座名義人が振込元情報から確認できない
❌ ATMの利用明細や振込依頼書の「依頼人名」欄だけを提出する
⭕ 通帳の表紙(口座名義人が分かるページ)もあわせて添付する
個人事業主の場合は、代表者名義であることが確認できる必要があります。屋号名義の口座だけでは不足になり得るため注意してください。
不備4:振込予約日を迎える前に実績報告してしまう
❌ インターネットバンキングで振込を「予約」した時点で実績報告を提出する
⭕ 振込指定日を迎え、振込が完了したことを証憑で確認してから提出する
「承認待ち」「未完了」「作成中」等のステータスは支払い完了とみなされません。振込完了後に取引状況照会画面等を出力し直す必要があります。
不備5:法人格や振込精査表を証憑として提出してしまう
❌ 「株式会社」等の法人格を省略した名称で証憑を作成する/振込精査表を支払証憑として提出する
⭕ 契約書・請求書・支払証憑すべてで法人格を正式名称のまま統一する/振込精査表ではなく通帳や振込完了画面を提出する
証憑に記載の事業者名に法人格がないと、交付決定を受けた事業者と同一かどうか事務局側で判断できません。また振込精査表は、マニュアル上「支払証憑として認められません」と明記されています。
確定検査と不備訂正|提出後に起きること
実績報告を提出すると、事務局が「確定検査」を行います。確認事項や不備項目があれば、事務局から不備訂正の差し戻しが行われます。指示された期間内に対応できないと、交付決定の取消しとなる可能性がある点は明確にマニュアルに記載されています。不備訂正は申請マイページの「実績報告情報編集」から行い、IT導入支援事業者側の入力が必要な項目がある場合は、そちらの対応が完了したあとに補助事業者が再度確認する流れになります。
確定検査が完了すると、事務局から「補助金確定内容の承認」が依頼されます。申請マイページで確定検査の結果と補助金交付決定額を確認し、SMS認証のうえ承認しないと補助金額が確定しません。承認後、補助金の交付は補助金額確定からおおむね1か月程度で行われる見込みです。
よくある質問
Q1. 実績報告は自分(補助事業者)だけで提出できますか?
いいえ。実績報告は補助事業者とIT導入支援事業者の共同作業です。契約・納品・支払情報の入力はIT導入支援事業者側の担当であり、双方の入力が揃わないと提出できません。事業完了後は早めにIT導入支援事業者へ連絡してください。
Q2. 添付書類はどんな形式で提出すればいいですか?
10MB未満の.jpg/.jpeg/.png/.pdfのいずれかです。書類は可能な限りスキャンしてPDFで提出し、スマホ撮影の場合は歪みや反射がないよう書類全体を撮影する必要があります。
Q3. 複数の請求書・支払証憑がある場合はどう提出しますか?
発行日の古い順に番号を付け、1つのファイルにまとめて提出します。各書類のタイトルの向きは統一してください。
Q4. 証憑にマイナンバーが記載されている場合はどうすればいいですか?
原則としてマイナンバーや保険者番号等の個人情報が記載されていない書類を提出してください。記載がある場合は、該当箇所を黒塗りにするなど判別できないようにする必要があります。
Q5. 実績報告の期限に間に合わなさそうな場合はどうすればいいですか?
実績報告の期間中に正しく報告が行われなかった場合、補助金の交付を受けられなくなる可能性があります。期限に不安がある場合は、早めにIT導入支援事業者や事務局へ相談することが重要です。
実績報告でつまずかないために今日やること
- 今日やること:導入したITツールについて「利用・運用が始まっているか」を担当者と確認する。
- 今週中:契約書・請求書・支払証憑(振込完了画面や通帳の取引ページ)をひとつのフォルダにまとめ、法人格や口座名義に誤記がないか見直す。
- 事業完了後すぐ:IT導入支援事業者へ連絡し、契約・納品・支払情報の入力を依頼する。取得財産等管理台帳が必要な場合はあわせて準備を始める。
実績報告の準備は、他の補助金でも共通するポイントが多くあります。あわせてものづくり補助金 実績報告書の書き方|様式6号と不備5選、持続化補助金 実績報告8/10締切|差し戻し事例3つの回避術もご覧ください。
執筆:株式会社Uravation 補助金ナビ編集部
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免責事項
本記事の情報は2026年8月2日時点で公表されている「事業実施・実績報告マニュアル」(2026年6月12日更新)および事務局公式サイトの情報に基づく参考情報です。実績報告の手続き・必要書類・期限は申請枠や締切回によって異なり、予告なく変更される場合があります。実際の提出にあたっては、必ず交付決定通知に記載の内容と、事務局が公開する最新のマニュアル・公募要領をご確認ください。本記事の情報に基づく手続きの結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
参考・出典
- 事業スケジュール|デジタル化・AI導入補助金2026 — 中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局(参照日: 2026-08-02)
- 資料ダウンロード(交付規程・公募要領・実績報告マニュアル)|デジタル化・AI導入補助金2026 — 同事務局(参照日: 2026-08-02)
- 事業実施・実績報告マニュアル(通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠共通版) — 同事務局(2026年6月12日更新、参照日: 2026-08-02)
- 事業実施・実績報告における注意ポイント — 同事務局(参照日: 2026-08-02)
- 中小企業施策利用ガイドブック・補助金一覧 — 中小企業庁(参照日: 2026-08-02)
