デジタル化・AI導入補助金

デジタル化・AI導入補助金 事業実施効果報告とは|3年間の提出義務と返還リスク

デジタル化・AI導入補助金 事業実施効果報告とは|3年間の提出義務と返還リスク

この記事の結論

デジタル化・AI導入補助金は交付後も最長3年間、生産性向上の数値を報告する義務がある。賃上げ目標未達なら最大全額返還、辞退手続きを怠っても返還対象に。提出時期と証憑保管ルールを公募要領から整理。

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デジタル化・AI導入補助金は、交付決定を受けて終わりではない。実績報告を提出し、補助金が入金された後も、事業者には「事業実施効果の報告」という義務が待っている。生産性向上の数値目標がどこまで達成できたかを、最長で交付から数年間にわたって報告し続ける仕組みだ。この報告を軽視すると、賃上げ目標が未達だった場合に補助金の全部または一部の返還を求められることがある。この記事では、中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局が公開している2026年度(通常枠)公募要領にもとづき、事業実施効果報告の中身、提出時期、賃上げ未達時の返還率、そして書類保管のルールを整理する。

正直なところ、「実績報告を出して補助金を受け取ったら手続きは終わり」だと思い込んでいる事業者は少なくない。だが実際には、そこからが本当のスタートに近い。効果報告は事業年度単位で複数回にわたって求められ、途中でITツールを解約すれば辞退の手続きが必要になり、辞退のタイミングを誤ると賃上げ目標未達とみなされて全額返還になるケースもある。

基本データ|事業実施効果報告の全体像

項目 内容
制度名 デジタル化・AI導入補助金2026(通常枠)
所管 中小企業庁(事務局: 中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局)
報告義務の名称 事業実施効果の報告(効果報告)
報告内容 営業利益・人件費・減価償却費・総労働時間・1人当たり給与支給総額・事業場内最低賃金等の数値目標、およびITツールを継続活用していることを証する書類
報告回数 事業計画期間前を含め、最大4回(事業計画期間前・1年度目・2年度目・3年度目)
提出方法 申請マイページ(本事業のポータルサイト)経由
未達時のリスク 賃上げ目標が必須の申請区分で、事業場内最低賃金または1人当たり給与支給総額の増加目標が未達の場合、補助金の全部または一部の返還
公式サイト デジタル化・AI導入補助金2026 公募要領(通常枠)

制度の補助率・上限額そのものを他の制度と比較したい場合は、補助金ナビ|完全比較 中小企業向け補助金5制度 早見表【2026年】も参考にしてほしい。なお本記事の内容は「通常枠」の公募要領にもとづくもので、他の申請枠では細部の記載が異なる可能性がある。自社が申請した枠の公募要領で最終確認することをおすすめする。

効果報告で何を報告するのか|実績報告とはまったくの別物

「実績報告書はもう出したのに、なぜまた報告が必要なのか」という疑問を持つ事業者は多い。両者は根本的に別の手続きだ。実績報告書は事業完了後30日以内などの期限内に一度だけ提出し、補助金額を確定させるための書類(会計書類・証拠書類一式)。差し戻しを避けるための実務は補助金採択後の実績報告書の書き方 差し戻し回避の完全ガイドで解説している。

一方、効果報告は補助金の交付を受けた後、事業年度をまたいで複数回提出する「その後の成果」の報告だ。公募要領は、報告すべき情報として次を挙げている。

  • 営業利益
  • 人件費
  • 減価償却費
  • 事業者当たりの総労働時間
  • 1人当たり給与支給総額(非常勤を含む全従業員)
  • 事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)
  • ITツールを継続的に活用していることを証する書類等

また、これらの数値目標の根拠として、決算書および関係書類の提出も求められる。ただし「事業計画期間前」の効果報告では、ITツールを継続活用していることを証する書類等の提出のみでよく、数値目標の報告はまだ求められない。

効果報告のスケジュール|事業計画期間前〜3年度目まで

効果報告対象期間(何年分の実績を見るか)と効果報告期間(いつ提出するか)は別の概念として整理されている。公募要領の記載を表にまとめた。

年度 効果報告対象期間 効果報告期間
事業計画期間前 ITツール導入後〜 2027年3月〜(受付スケジュールは事業ホームページ上に順次公表)
1年度目 交付申請時点の翌事業年度 2028年4月〜2029年1月
2年度目 前年度の効果報告対象期間の翌事業年度 2029年4月〜2030年1月
3年度目 前年度の効果報告対象期間の翌事業年度 2030年4月〜2031年1月

賃上げ要件の効果報告では、報告した数値とあわせて賃金台帳等、事実確認ができる書類の提出を求められる場合がある。また、1〜3年度目について、効果報告対象期間が効果報告期間中に終了せず報告ができない場合でも免除されるわけではなく、別途事務局が案内する期間内に、対象期間の実績値を必ず報告する必要がある。公募要領には「制度内容・スケジュール等は変更する場合がある」との注記もあるため、実際の受付開始時期は事業ホームページで都度確認したい。

賃上げ目標が未達だった場合の返還率|具体例で確認する

デジタル化・AI導入補助金には、賃上げ計画の表明が申請要件になっている区分がある。この賃上げ目標を効果報告時点で達成できていないと、返還を求められる仕組みだ。公募要領は2つのケースを分けて説明している。

ケース1: 事業場内最低賃金の増加目標が未達の場合

効果報告時の直近月時点で、事業場内最低賃金の増加目標を達成できていないと判定された場合、未達となった年度以降に応じて返還額が変わる。補助金交付額が450万円のケースでの返還額は次のとおりだ。

未達が判明した年度 返還額(交付額450万円の場合) 返還率
1年度目で未達 450万円 全額(3/3)
2年度目で未達 300万円 2/3
3年度目で未達 150万円 1/3

返還額は「補助金の額を労働生産性の計画目標年数である3年で除した金額」に、「目標未達となった年を含む、未達年以降の年数」を乗じて算出する。なお、いったん未達で返還を行うと、翌年度以降の効果報告や、その後の未達に対する追加返還は求めないとされている。ただし、付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)の増加率が年平均1.5%に達しない場合や、天災など事業者の責めに帰さない理由がある場合は、この返還を求めないとの例外規定もある。

ケース2: 1人当たり給与支給総額の増加目標が未達の場合

事業計画終了時点(3年度目)で、1人当たり給与支給総額(非常勤を含む全従業員)の年平均成長率が3%(日本銀行の「物価安定の目標」+1%)以上に達していない場合、補助金の全部の返還を求められる場合がある。なお、旧・IT導入補助金2022〜2025で交付決定を受けた事業者は、この基準が年平均成長率3.5%(同+1.5%)以上となる。ただし、付加価値額が増加しておらず、かつ3年の事業計画期間のうち過半数が営業利益赤字だった場合や、天災等やむを得ない理由がある場合は返還を求めないとされている。

賃上げ目標を含む申請要件の全体像や、加点を得るための実務はデジタル化・AI導入補助金の加点項目一覧【2026】採択に近づく取り方で整理している。

ITツールを解約するときは「辞退」の手続きが必要になる

効果報告が完了する前に、次のいずれかに該当した場合は辞退の手続きを行う必要がある。

  • 本事業で導入したITツールを解約・利用停止した場合(複数のITツールを導入し、そのうち一部だけを解約する場合でも、実施している補助事業の辞退とみなされることがある)
  • 廃業、倒産、事業廃止、事業譲渡、吸収合併等により補助事業を取りやめた場合

辞退した場合、交付規程にもとづき、交付された補助金の全部または一部の返還が必要になることがある。さらに返還が必要な場合は、補助金受領の日から返還金納付の日までの日数に応じた加算金の納付が必要で、納付が遅れると延滞金も発生する。ここで特に注意したいのが、賃上げ目標が必須の事業者(一部の申請要件を除く)だ。効果報告前、かつ賃上げ目標の達成状況判定前に辞退すると、賃上げ目標の要件未達成とみなされ、補助金の全額返還になるとされている。「一部のツールだけ解約するつもりだったのに、結果的に全額返還になった」という事態を避けるには、解約を検討する前に事務局への確認を挟むのが実務的だ。交付決定前の発注が対象外になる境界線については交付決定前の発注はなぜ補助対象外?境界線と例外制度も参考になる。

効果報告が未報告・内容に疑義がある場合はどうなるか

公募要領は、返還を求めるケースをもう2つ挙げている。1つは、賃上げ目標が必須の申請で、効果報告期間内に効果報告そのものが提出されなかった場合。もう1つは、賃上げ目標が必須の申請で、申請要件の一部を満たしていないことが効果報告において事務局に確認された場合だ。

さらに、効果報告の内容そのものに疑義がある場合、つまり「事業実態がない」「ITツールが導入されていない」等の疑いが生じた場合は、事務局から確認の連絡が入ることがある。確認の結果、補助事業が遂行されていないことが発覚すれば(やむを得ないと事務局が判断した場合を除く)、交付決定の取消しやそれに伴う補助金の返還、是正措置要求などの対応が取られる場合がある。不採択・再申請の場面での注意点はデジタル化・AI導入補助金に不採択だったら|原因と再申請の立て直し方【2026】にまとめているので、これから申請する事業者はあわせて確認しておきたい。

加点を受けて採択された場合の別ルール|18カ月の減点措置

加点を受けたうえで採択されたにもかかわらず、申請した加点要件を達成できなかった場合は、追加のペナルティがある。効果報告において未達が報告されてから18カ月の間、中小企業庁が所管する他の補助金(2026年1月時点では、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金、小規模事業者持続化補助金、事業承継・M&A補助金、成長型中小企業等研究開発支援事業〈Go-Tech事業〉、事業再構築補助金〈中小企業省力化投資補助事業を含む〉)への申請にあたって、正当な理由が認められない限り大幅に減点されるという規定だ。ただし、震災・風水害・火災・盗難など、事業者の責めに帰さない理由でやむを得ず達成できなかった場合は、効果報告の提出時にその理由を説明すれば、事務局が認めた場合に限り減点を免除される。加点狙いで無理な数値目標を掲げると、この記事で紹介している返還リスクに加えて、他の補助金への申請にも尾を引く可能性がある点は覚えておきたい。

証憑は「補助事業完了年度の翌年度から5年間」保管する

効果報告や事務局・中小機構が行う検査、会計検査院による会計検査に備えて、補助対象事業に関わる全ての書類等の情報は、補助事業の完了(廃止の場合を含む)の日が属する年度の終了後5年間、保管し、閲覧・提出に協力する必要がある。公募要領が例示する対象書類は次のとおりだ。

  • 交付決定通知
  • 契約書
  • 注文書
  • 納品書
  • 導入通知書
  • 請求書
  • 振込受領書
  • 領収書
  • 役務の実施実態資料(業務日誌、勤怠管理簿等)

実績報告の時点でも、請求に係る書類・支払いに係る書類(銀行振込またはクレジットカード)・補助金の交付を受ける口座情報・ITツールの利用を証する資料の提出が求められる。振込明細書や通帳の表紙といった証憑は、支払いのたびにその場でスキャンしておくと、後から慌てて探す事態を防げる。実績報告と確定検査で見られる証憑の詳細は、ものづくり補助金の事例だが補助金の確定検査で見られる5つの証憑と減額回避術でも整理しているので、証憑管理の考え方として参考にできる。

効果報告でつまずきやすい3つのパターン

❌ 実績報告書を提出した時点で「もう補助金の手続きは終わった」と考え、その後のスケジュール管理をやめてしまう

⭕ 効果報告は交付から最大3年度分、複数回にわたって続く。効果報告期間(2028年4月〜2029年1月等)をカレンダーに登録し、担当者の異動があっても引き継げるよう社内で共有しておく

❌ 複数のITツールを導入したうち、使わなくなった一部だけを自己判断で解約し、辞退の手続きをしないまま放置する

⭕ 導入したITツールのいずれかを解約・利用停止する場合は、それが「補助事業の辞退」とみなされる可能性があることを前提に、解約前に事務局へ確認する。特に賃上げ目標が必須の場合は、辞退のタイミング次第で全額返還になり得る

❌ 賃上げ目標の達成状況を、事業計画終了時点までまったく確認せず、効果報告の直前になって初めて給与支給総額を集計する

⭕ 事業場内最低賃金・1人当たり給与支給総額の実績値は、賃金台帳から年度ごとに集計しておく。未達の兆候が早い段階で分かれば、付加価値額の増加率など返還が免除される例外規定に該当するかどうかも、事前に事務局へ相談できる

よくある質問

Q. 事業実施効果報告と実績報告書はどう違いますか?

実績報告書は事業完了後に一度だけ提出し、補助金額を確定させるための会計書類・証拠書類一式の報告だ。これに対して効果報告は、補助金の交付を受けた後、事業計画期間前を含めて最大4回、事業年度をまたいで複数回にわたり、生産性向上の数値目標の達成状況とITツールの継続活用状況を報告する制度で、性質がまったく異なる。

Q. 効果報告を1回でも忘れたらすぐ返還になりますか?

公募要領上、返還を求められると明記されているのは「賃上げ目標が必須となる申請」で効果報告期間内に提出がなかった場合、または賃上げ目標を含む申請要件を満たしていないことが効果報告で確認された場合だ。賃上げ目標が必須ではない申請区分の扱いは公募要領のこの箇所には明記されておらず、疑義がある場合は事務局に個別に確認するのが確実だ。

Q. ITツールを1つだけ解約したい場合も辞退の手続きは必要ですか?

必要になる可能性が高い。公募要領は「複数のITツールを導入し、そのうちの一部を解約する場合であっても、実施している補助事業の辞退とみなす場合がある」と明記している。解約を検討する段階で、必ず事務局に辞退の要否を確認したい。

Q. 賃上げ目標が未達でも返還を求められないケースはありますか?

ある。事業場内最低賃金の目標未達については、付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)の増加率が年平均1.5%に達しない場合や、天災など事業者の責めに帰さない理由がある場合は返還を求めないとされている。1人当たり給与支給総額の目標未達についても、付加価値額が増加しておらず、かつ事業計画期間の過半数が営業利益赤字だった場合等は、返還を求めないとの例外規定がある。該当するかどうかの判断は、決算内容をもとに事務局・顧問税理士へ確認するのが望ましい。

Q. 効果報告に必要な書類はどこに提出しますか?

本事業の申請マイページ(ポータルサイト)から提出する。実績報告や交付申請と同じマイページ上で、通知の確認や変更申請も行える仕組みになっている。

まとめ|効果報告は「交付後3年間の宿題」として管理する

デジタル化・AI導入補助金の事業実施効果報告は、実績報告書とは別の、交付後に続く長期の報告義務だ。1つ目のポイントは、効果報告は事業計画期間前を含め最大4回に分かれ、2028年度以降は毎年4月〜翌年1月が提出の目安になるということ。2つ目は、賃上げ目標が必須の区分では、事業場内最低賃金または1人当たり給与支給総額の目標未達により、未達年度に応じて最大全額の返還を求められるということ。3つ目は、ITツールの解約は「辞退」とみなされる場合があり、タイミングを誤ると賃上げ目標未達扱いで全額返還になり得るということだ。交付決定を受けた段階で、効果報告のスケジュールと賃金台帳の集計体制を先に整えておくことが、後からの返還リスクを避ける一番の近道になる。

参考・出典

執筆:株式会社Uravation 補助金ナビ編集部

監修:佐藤 傑(さとう・すぐる)
株式会社Uravation代表取締役。早稲田大学法学部在学中に生成AIの可能性に魅了され、100社以上の企業向けAI研修・導入支援を展開。X(@SuguruKun_ai)フォロワー10万人超。AI導入×補助金活用の実務経験をもとに、中小企業のDX推進をサポートしています。

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本記事の情報は2026年7月31日時点で公表されている、中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局および中小企業庁の公表資料(デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠 公募要領)に基づく参考情報です。他の申請枠では細部の取り扱いが異なる場合があります。補助金・助成金の制度内容や手続きは予告なく変更される場合があります。実際の対応にあたっては、必ず事務局からの案内および公式サイトで最新情報をご確認ください。本記事の情報に基づく手続きの結果について、当サイトは一切の責任を負いません。

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