雇用管理制度・雇用環境整備助成コースを使うと、人事評価制度やメンター制度などを整備して離職率を下げた中小企業に、最大100万円(賃金要件達成時)の助成が受けられます。厚生労働省が所管する「人材確保等支援助成金」のうち、現在も活用できるコースです。
令和6年3月31日に廃止された「介護福祉機器助成コース」と混同されることが多いですが、本コースは令和8年4月時点で継続しています。令和8年4月8日に支給要領が改訂されており、最新版の内容を本記事でお伝えします。
助成額と上限をひと目で確認
まず金額から把握しておきましょう。制度の区分は大きく「雇用管理制度(A)」と「雇用環境整備(B)」の2つです。
| 区分 | 対象 | 助成額 | 賃金要件(3%以上)達成時 |
|---|---|---|---|
| A. 雇用管理制度 | 賃金規定制度・諸手当等制度・人事評価制度 | 1制度につき40万円 | 1制度につき50万円 |
| A. 雇用管理制度 | 職場活性化制度(メンター制度・エンゲージメントサーベイ・1on1等)・健康づくり制度 | 1制度につき20万円 | 1制度につき25万円 |
| 上限(複数制度導入時) | 80万円 | 100万円 | |
| B. 雇用環境整備 | 業務負担を直接軽減する機器・設備等の購入 | 対象経費の1/2、上限150万円 | 62.5/100〜75/100、上限187.5万円〜225万円 |
(出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)」2026年6月13日参照)
賃金要件は「3%以上の賃上げ」が基本ですが、7%以上の引き上げは業務負担軽減機器等(B区分)の導入に限定されます。また3%要件については別途一定の条件を満たす必要があります。詳細はパンフレットで確認してください。
他の補助金との違いを知りたい方は、AI導入に使える補助金5選 徹底比較も参考にしてください。
この制度が対象にする「雇用管理制度」とは
5種類あります。どれか1つを導入するだけでも助成対象になります。
- 賃金規定制度:職種・経験・成果などに応じた賃金規定を新たに設ける
- 諸手当等制度:住宅手当・家族手当・資格手当など、基本給以外の手当を新設する
- 人事評価制度:社員の業績・行動を評価する仕組みを整備する
- 職場活性化制度:メンター制度、エンゲージメントサーベイ(従業員調査)、1on1ミーティングのいずれかを導入する
- 健康づくり制度:定期健診以外の健康診断や医療費補助など、社員の健康管理を支援する仕組みを整備する
「どれが一番手間が少ないか」と聞かれると、正直、企業の状況によります。人事担当が少ない小規模企業なら、1on1ミーティングの制度化(職場活性化制度)が比較的取り組みやすいケースが多いです。
一方で助成額が大きい賃金規定制度・人事評価制度は、社会保険労務士と相談しながら設計するケースが一般的です。これらをきっかけに賃上げも組み合わせると賃金要件を満たして助成額が増えます。
受給するための3つの条件
厚生労働省の公式サイトに示された主な受給要件を整理します。
1. 雇用管理制度等整備計画の認定
まず「どの制度を導入するか」を記載した計画書を作成し、管轄の都道府県労働局に認定を受けます。計画書は申請書類ダウンロードページ(厚生労働省 各様式ダウンロードページ)から取得できます。
2. 計画期間内の制度導入
認定を受けた計画書の内容に沿って、実施期間内に実際に制度を導入します。「計画書を出しただけで助成が出る」わけではありません。導入した証拠書類(就業規則の改定、社内周知記録など)を後で添付します。
3. 離職率の低下目標を達成する
これが最も重要なポイントです。計画期間終了後1年以内の離職率を、「計画提出前1年間の離職率より1ポイント以上低下」させる必要があります。
ただし、雇用保険の一般被保険者が9人以下の事業所の場合は「提出前1年間の離職率を上回らないこと」が条件になります。つまり小規模事業所は「現状維持以上」でOKです。
なお、採択率・支給件数の公式統計は現時点(2026年6月)で厚生労働省から公表されていないため、本記事では記載しません。
AI・DXツールで雇用管理制度を整備するシナリオ
本助成金の目的は「制度を整備して離職率を下げること」です。つまり制度の中身に何を使うかは問われません。AIツールやSaaSを活用して制度を整備することも、もちろん可能です。
人事評価制度 × 評価ダッシュボード
評価基準があいまいで「なぜその評価なのか分からない」という不満は離職に直結します。KPI管理SaaSや評価ダッシュボードで評価の透明性を高めると、従業員の納得感が上がります。ツール導入費用は「雇用環境整備(B区分)」の助成対象(対象経費の1/2)になる場合があります。
職場活性化制度 × 1on1 / エンゲージメントサーベイ
1on1ミーティングを制度として社内規程に明記し、記録を残す運用を整えると職場活性化制度の要件を満たしやすくなります。エンゲージメントサーベイツール(年1回の従業員調査)を導入して離職要因を把握するアプローチも同様です。
AI研修の組み合わせ効果
社員がAIツールを使えるようになると業務効率が上がり、「この会社で働き続けたい」というエンゲージメントにつながることがあります。リスキリング研修は人材開発支援助成金(人への投資促進コース)と組み合わせると、研修費用にも助成が得られます。本助成金(雇用管理制度コース)とは別制度のため、要件を満たせば併用可能です。
健康づくり制度 × 健康管理アプリ
法定健診の費用補助や医療費補助を就業規則に盛り込むことが健康づくり制度の典型ですが、法人向け健康管理アプリを導入して記録する仕組みを作る企業も増えています。
申請の全ステップを実務ベースで解説
厚生労働省のパンフレットと支給要領(令和8年4月8日版)をもとに、申請の流れを整理します。
Step 1: 制度の選定と社労士への相談(1〜2ヶ月)
まず「どの雇用管理制度を導入するか」を決めます。就業規則の変更が伴うため、社会保険労務士と相談しながら設計するのが現実的です。特に賃金規定・人事評価制度は設計ミスが後々のトラブルの原因になります。
Step 2: 雇用管理制度等整備計画書の作成・認定申請
様式ダウンロードページから「計画届関係チェックリスト」と計画書様式を取得します。計画書には「導入する制度の内容」「実施期間」「離職率の目標」を記載します。管轄の都道府県労働局(またはハローワーク)に提出し、認定を受けます。
Step 3: 計画期間内に制度を実際に導入(2〜12ヶ月程度)
認定を受けた計画内容に沿って制度を導入します。就業規則を改定し、全従業員に周知します。周知の記録(署名・回覧記録)は後の証拠書類として保管してください。
Step 4: 離職率の測定(計画期間終了後1年間)
計画期間が終了した後、1年間の離職率を測定します。「計画提出前1年間の離職率より1ポイント以上低下」しているかを確認します。目標を達成できない場合は助成を受けられません。
Step 5: 支給申請
離職率の目標を達成したら、支給申請書を管轄の都道府県労働局に提出します。チェックリスト(支給申請関係)を活用して書類に漏れがないか確認してください。
Step 6: 審査・助成金の受給
都道府県労働局が審査を行い、支給が決定されると口座に振り込まれます(後払い)。
よくある申請ミス:これで助成が受けられなくなる
ミス1:計画認定前に制度を先行導入してしまう
❌ 「計画書の手続きが面倒だからすぐに就業規則を変えた」
⭕ 「まず計画書を提出して労働局の認定を受け、認定後に制度を導入する」
認定を受ける前に制度を導入しても対象になりません。交付決定前に発注してしまう補助金の失敗パターンと同じ構造です。手続きの順序を守ることが前提です。
ミス2:離職率の計算期間を誤る
❌ 「導入してすぐ離職率が下がったから申請した」
⭕ 「計画期間終了後1年間の離職率で判定する。早期申請は不可」
この制度の「離職率測定期間」は計画終了後1年間です。「採択されたらすぐ助成金が出る」と思っていると、受給タイミングが想定より遅くなります。資金繰りの見通しを立てておくことが重要です。
ミス3:制度導入の証拠が残っていない
❌ 「口頭でメンター制度を始めたが記録がない」
⭕ 「就業規則に規定し、全社員に周知した記録(署名・議事録等)を保管する」
特に職場活性化制度(1on1・エンゲージメントサーベイ)は「形だけ導入」と見なされないよう、実施記録を残すことが重要です。
ミス4:「介護福祉機器助成コース」で申請しようとする
❌ 「介護業界の事業者なので介護福祉機器コースを申請したい」
⭕ 「介護福祉機器助成コースは令和6年3月31日に廃止。現行で使えるのは雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」
廃止コースへの問い合わせは今でも発生しています。現行制度であるかどうかを確認してから申請準備を始めてください。
業務改善助成金・働き方改革助成金との使い分け
似たような制度が複数あるため、どれを使えばいいか迷う方が多いです。整理します。
| 制度名 | 主な目的 | 助成の軸 |
|---|---|---|
| 人材確保等支援助成金(本制度) | 離職率を下げて人材を定着させる | 雇用管理制度の「整備」と「離職率低下」 |
| 業務改善助成金 | 最低賃金の引き上げ・設備投資 | 機器購入費と賃上げのセット |
| 働き方改革推進支援助成金 | 労働時間短縮・休日増加 | 勤務間インターバル・時間短縮のための取り組み |
「社員の定着が目的」なら本制度、「賃上げと機器購入をセットで行う」なら業務改善助成金、「残業削減・休日取得促進」なら働き方改革推進支援助成金が起点になります。
要件が異なるため、1つの企業が目的別に複数を活用することも可能ですが、同一の経費を複数の助成金で重複申請することはできません。
申請前に確認しておくこと
支給申請の詳細は毎年更新されます。本記事の情報は2026年6月13日時点の公式資料をもとにしていますが、令和8年度のパンフレット(令和8年4月8日版)の内容を必ず確認してください。
- 雇用関係助成金の共通要件(過去2年に重大な労働関係法令違反がないかなど)を満たしているか
- 雇用保険適用事業所であるか
- 計画期間の設定は妥当か(短すぎると離職率測定が困難になる)
- 賃金要件を狙う場合、3%以上の賃上げを実施できるかを先に試算する
詳細は厚生労働省「雇用関係助成金パンフレット」でも確認できます。制度全体の位置づけを知りたい場合は人材確保等支援助成金コース一覧ページも参照してください。
まとめ:最初に取り組むべきアクション
人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)は、「制度を整備して離職率を下げる」という取り組みに対して最大100万円が助成される制度です。
- まず「どの雇用管理制度を導入するか」を決める。取り組みやすい1on1制度・エンゲージメントサーベイから始めるか、効果の大きい人事評価制度・賃金規定制度から着手するかを検討する
- 計画書を認定申請する前に、社会保険労務士に制度設計の相談をする
- 様式ダウンロードは厚生労働省の申請書類ダウンロードページから取得する(令和8年4月8日版が最新)
AI研修で社員のリスキリングを進めながら、本助成金で雇用管理制度も整備すると、人材の定着と能力開発の両面に取り組める体制ができます。どの助成金が自社の状況に合うか整理したい場合は、株式会社Uravationのお問い合わせフォームからご相談ください。
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この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
参考・出典
- 厚生労働省「人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)」(2026年6月13日参照)
- 厚生労働省「人材確保等支援助成金 コース一覧・廃止コース注記」(2026年6月13日参照)
- 厚生労働省「各様式ダウンロードページ(令和8年4月8日版)」(2026年6月13日参照)
- 厚生労働省「人材確保等支援助成金のご案内」(2026年6月13日参照)
- 厚生労働省「雇用関係助成金パンフレット」(2026年6月13日参照)
免責事項
本記事の情報は2026年6月13日時点の厚生労働省の公表資料に基づく参考情報です。助成金の制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず厚生労働省の公式サイトで最新情報をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
