障害福祉サービス事業所を対象にした「障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業」をご存じだろうか。ICT機器だけでなく、防犯・虐待防止・事故防止を目的としたAIカメラの導入まで補助対象になる、意外と知られていない国庫補助の制度だ。補助率は4分の3、事業所区分によって上限は100万円から210万円まで幅がある。
正直に言うと、この制度は「知っていれば使えたのに」というケースが多い。取材ベースで確認できた札幌市・大阪府では、令和8年度分の受付はすでに終了している。制度自体がなくなるわけではなく、多くの自治体で年度ごとに新しい公募が行われる仕組みなので、今回は現時点の受付状況を整理したうえで、次の公募に向けて何を準備しておくべきかをまとめる。
障害福祉版の介護テクノロジー導入支援事業とは何か
この事業は、厚生労働省の国庫補助を財源に、都道府県・政令市・中核市が実施主体となって運営している。介護保険サービス(高齢者施設向け)にも同名の「介護テクノロジー導入支援事業」があるが、これとは別枠で、障害福祉サービス事業所を対象にした事業が用意されている。目的は、障害福祉現場の職員の介護業務の負担軽減、労働環境の改善、業務効率化だ。
制度は大きく3つの支援メニューに分かれる。ICT機器(情報端末・ソフトウェア・AIカメラ等)を導入する「ICT導入支援」、介護ロボット等を導入する「介護ロボット等導入支援」、両者を組み合わせて導入する「介護テクノロジーパッケージ型導入支援」だ。AI導入に使える補助金5選 徹底比較でも触れているとおり、国の補助金は制度ごとに対象者・対象経費が細かく分かれているため、まず自社(自事業所)がどの区分に該当するかを確認する必要がある。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業(ICT導入支援/介護ロボット等導入支援/介護テクノロジーパッケージ型導入支援) |
| 所管 | 厚生労働省(国庫補助)、実施主体は都道府県・政令市・中核市 |
| 補助率 | 4分の3(事業者負担4分の1) |
| 補助対象者 | 障害福祉サービス事業者、障害者支援施設事業者、一般相談支援事業者、特定相談支援事業者(ICT導入支援)/上記に加え障害児入所施設・障害児通所支援・障害児相談支援事業者(介護ロボット等導入支援) |
| ICT導入支援の上限額 | 1施設・事業所あたり100万円 |
| 介護ロボット等導入支援の上限額 | 障害者支援施設210万円/共同生活援助(グループホーム)150万円/その他事業所120万円(1台あたりは移乗介護・入浴支援100万円、それ以外30万円) |
| パッケージ型導入支援の上限額 | 1施設・事業所あたり1,000万円 |
| 令和8年度の受付状況 | 札幌市・大阪府では令和8年5月時点で受付終了を確認。自治体ごとにスケジュールが異なる |
| 申請方法 | 各都道府県・政令市・中核市の障害福祉担当部局への協議申請(電子申請または電子メール) |
※上記は札幌市および大阪府が公表している令和8年度の実施要綱に基づく参考情報です。数値・対象は自治体により運用が異なる場合があるため、最新情報は必ず所在地の自治体窓口でご確認ください。
AIカメラは何が対象で、何が対象外なのか
この制度でとくに知っておきたいのが「AIカメラ等」の取り扱いだ。ICT導入支援の対象機器には、情報端末(タブレット・スマートフォン等)、ソフトウェア、AIカメラ等、通信環境機器等、保守経費等が並ぶ。ここでいうAIカメラとは、防犯・虐待防止・事故防止など利用者の安心安全のために活用するカメラで、AIを使って映像や画像の分析ができるものに限定される。単なる録画用の防犯カメラではなく、「AIによる分析機能」があることが条件だ。
設置場所にも条件がある。居室等の生活空間ではなく、共用スペースや建物内外の死角となる場所に設置することが前提になっている。また、訪問系サービス事業(居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援事業)、就労定着支援事業、一般相談支援事業、特定相談支援事業は、このAIカメラの補助対象から外れる。事業所に出向いて支援するタイプのサービスは対象外、というのが実務上の線引きだ。
ソフトウェアについても要件がある。記録業務・情報共有業務・請求業務を転記なしで一気通貫できるもの、あるいは勤怠管理やシフト作成などバックオフィス業務を効率化できるものが対象で、研究開発段階の製品ではなく企業が商用として提供している製品であることが求められる。
介護ロボット等導入支援で使える機器の具体例
ICT導入支援とは別枠の「介護ロボット等導入支援」では、次の7つの場面で使用され、介護従業者の負担軽減効果があるロボット技術を用いた機器が対象になる。
- 移乗介護:装着型・非装着型のパワーアシスト機器
- 移動支援:外出時の荷物運搬をサポートする歩行支援機器
- 排泄支援:設置位置調整が可能なトイレ、排泄タイミングを予測する装着型デバイス
- 見守り・コミュニケーション支援:センサーや外部通信機能を備えた見守り機器・コミュニケーション支援機器
- 入浴支援:入浴時のケア・動作を支援する機器
- 機能訓練支援:アセスメント・計画作成・訓練実施を支援する機器
- 食事・栄養管理支援:周辺業務を支援する機器
単に「便利そうだから」という理由だけでは通らない。販売価格が公表されて一般に購入できる状態にあること、PSE認証やSマークなど製品レベルの安全性が確保されていること、導入時にメーカー等による研修体制が用意されていることが条件になる。利用者のプライバシーに配慮されていない監視目的のカメラ、設置に工事を伴う機器、補装具に相当する機器は対象外だ。
申請の流れ(協議申請〜交付までの実務)
この事業は通常の補助金と異なり「協議申請」という形式を取る自治体が多い。以下は札幌市の運用を例にした一般的な流れだ。自治体ごとに細部は異なるため、詳細は必ず所在地の窓口で確認してほしい。
Step 1: 対象区分の確認(所要:数日)
自事業所がICT導入支援・介護ロボット等導入支援・パッケージ型のどれに該当するか、どのサービス種別が対象になるかを確認する。政令市・中核市の指定を受けている施設は、都道府県ではなく政令市・中核市が窓口になる点に注意。
Step 2: 導入機器の選定と見積取得(所要:2〜4週間)
複数(2者以上)の業者から見積書を取得し、最低価格を補助対象経費とする。カタログのメーカー希望小売価格やAmazon等の販売サイト価格をそのまま見積価格にすることはできない。
Step 3: 事業計画書・積算内訳書の作成
導入によってどのような効果が見込めるか、具体的に短縮される時間や工数を数字で示す。自治体は「過去に本事業の利用実績がない事業所を優先する」運用を取ることが多く、計画の具体性が採否に影響する。
Step 4: 協議申請の提出
国庫補助協議の総表、事業計画書、積算内訳書、製品カタログ・仕様書、見積書2者以上を提出する。自治体の審査を経て、国と協議のうえ補助内示が出る。
Step 5: 内示後に発注・導入・実績報告
補助内示前に発注・契約した経費は補助対象外になる。内示を受けてから機器を導入し、年度末までに支払いを完了、実績報告書を提出する流れだ。
受付終了・不採択でよくある失敗パターン
失敗1:内示前に発注してしまう
❌ 見積が固まったら早めに発注してしまう
⭕ 補助内示を受け取ってから発注・契約する
ほかの国庫補助と同様、内示前の発注は補助対象外になる。「早く導入したい」気持ちが先走ると、数十万円単位の補助を丸ごと失うリスクがある。
失敗2:単なる防犯カメラをAIカメラとして申請する
❌ 録画機能だけの防犯カメラをAIカメラ枠で申請する
⭕ AIによる映像・画像分析機能があることを製品仕様書で明示する
「AI」という名称がついていても、実際にAI分析機能を持たない製品は対象外と判断される可能性がある。カタログ・仕様書に分析機能の記載があるかを事前に確認しておきたい。
失敗3:訪問系サービス事業所がAIカメラを申請する
❌ 居宅介護・重度訪問介護などの訪問系サービスがAIカメラ導入を申請する
⭕ 訪問系サービスはAIカメラの対象外であることを前提に、情報端末やソフトウェアなど他の対象機器を検討する
訪問系サービス事業者、就労定着支援事業者、一般相談支援事業者、特定相談支援事業者はAIカメラの補助対象から明確に除外されている。事業所種別によって使える枠が変わる点は見落としやすい。
失敗4:受付終了に気づかず準備を進めてしまう
❌ 前年度の情報のまま「まだ間に合う」と思い込む
⭕ 申請前に必ず所在地の自治体(都道府県・政令市・中核市)の最新の受付状況を確認する
この制度は自治体ごとに公募期間が異なり、しかも年度によって開始・締切が変動する。札幌市・大阪府では令和8年5月時点で受付を終了しているが、公募期間が異なる自治体もある。「去年こうだったから」で動くと、締切を過ぎていて申請できないというケースが起きやすい。
令和8年度の受付が終了していたら、今から何をすべきか
受付が終了していたとしても、来年度に向けてやれることはある。まず、所在地の自治体(都道府県または政令市・中核市)の障害福祉担当部局に、次回公募の見込み時期を問い合わせておくこと。この事業は年度予算に基づくため、次年度も同様の枠組みで実施される可能性が高い。
次に、導入したい機器の候補を今のうちに絞り込んでおくことだ。AIカメラであれば分析機能の仕様書、介護ロボット等であればPSE認証・Sマークの有無を確認し、複数業者から参考見積を取っておけば、公募開始後の準備期間を大幅に短縮できる。
また、介護保険サービス(高齢者施設)向けの一般的な「介護テクノロジー導入支援事業」は、自治体によっては令和8年7月〜8月でも受付中のところが複数ある。障害福祉分野と介護保険分野は別制度なので、自事業所がどちらに該当するかを最初に確認したい。高齢者施設での導入事例は介護テクノロジー導入支援事業の事例|夜間巡視60分減の2施設で紹介しているので、あわせて参考にしてほしい。
参考・出典
- 障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業(ICT導入支援) — 札幌市(更新日:2026年5月29日、参照日:2026-07-16)
- 障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業(介護ロボット等の導入支援・介護テクノロジーパッケージ型導入支援) — 札幌市(更新日:2026年5月29日、参照日:2026-07-16)
- 大阪府障がい福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業について — 大阪府(更新日:2026年5月22日、参照日:2026-07-16)
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
AI導入の計画づくりでお悩みの方へ
- 今日やること:自事業所の所在地を管轄する自治体(都道府県または政令市・中核市)の障害福祉担当部局に、令和8年度の受付状況と次回公募の見込みを問い合わせる
- 今週中:ICT導入支援・介護ロボット等導入支援・パッケージ型のうち、自事業所の課題に合う区分を整理する
- 今月中:導入候補機器の仕様書・参考見積を2者以上から取得しておく
障害福祉現場でのAI・ICT活用の進め方や、業務効率化の計画策定についてお悩みの場合は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
免責事項
本記事の情報は2026年7月16日時点で確認できた各自治体の公表資料に基づく参考情報です。障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業は自治体ごとに実施内容・公募スケジュールが異なり、予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず所在地の自治体(都道府県・政令市・中核市)の障害福祉担当部局で最新の実施要綱をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
