「見守りセンサーを入れたら本当に夜勤が楽になるのか」——介護テクノロジー導入支援事業の相談で、いちばん多く聞かれる質問です。実際に群馬県が2025年9月に公表した「介護テクノロジー導入プロセス事例集」には、機器選定から導入後の数値評価まで一気通貫で追った2つの社会福祉法人の記録が載っています。
本記事では、社会福祉法人マグノリアニセン(高崎市)と社会福祉法人邦知会(桐生市)の事例を軸に、令和8年度・介護テクノロジー導入支援事業の使い方と、機器選定でつまずかないためのポイントを整理します。数字はいずれも公開資料に基づくもので、施設規模や運用体制によって効果は変わる点はあらかじめお断りしておきます。
介護テクノロジー導入支援事業の基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 介護テクノロジー導入支援事業(地域医療介護総合確保基金・介護従事者確保分) |
| 所管 | 厚生労働省(実施は都道府県単位、基金の国負担割合は2/3) |
| 対象者 | 都道府県内の介護保険サービス事業所・施設 |
| 補助率 | 基本1/2、パッケージ導入等の要件を満たすと最大3/4(条件により4/5) |
| 補助上限額(機器単体) | 移乗・入浴支援機器: 1台100万円/その他機器: 1台30万円が目安 |
| 補助上限額(ICT・介護記録ソフト等) | 職員数に応じ100万円〜250万円(端末・Wi-Fi整備で15万円上乗せ) |
| 補助上限額(パッケージ型導入) | 400万円〜1,000万円(上限は都道府県ごとに設定) |
| 公募時期 | 都道府県ごとに異なる(2026年度は5月〜8月頃に順次開始する自治体が多い) |
| 申請窓口 | 各都道府県の介護保険担当課(jGrantsではなく都道府県の公募要領に基づく) |
この制度の使い方をもう少し体系的に知りたい場合は、AI導入に使える補助金全体の位置づけを整理したAI導入に使える補助金5選 徹底比較もあわせて確認してみてください。
社会福祉法人マグノリアニセン(群馬県高崎市)の事例
事例区分: 公開事例
群馬県「介護テクノロジー導入プロセス事例集」(2025年9月・介護テクノロジー導入モデル事業 取組結果報告)で公表されている内容です。
導入前の課題
特別養護老人ホーム「シェステさとの花」を中心に4つの施設・事業所を運営する同法人は、事業展開が一段落したタイミングで介護テクノロジーの検討に着手しました。課題は「職員の身体的・心理的負担が大きい」「記録業務に要する時間が長い」「事故原因の分析がしづらい」の3点。特に小規模多機能・グループホームでは、記録の転記作業が多く、外国人スタッフが手書きの記録を読み取りにくいという固有の悩みも抱えていました。
導入した機器と選定の進め方
見守りセンサー・カメラ計111台、インカム10台、介護記録入力端末21台のほか、全自動体位交換マットレス5台、排泄予測機器1台を導入。ポイントは、機器選定を現場スタッフに任せたことです。3社を比較検討し、デモンストレーションを経てから決定するというプロセスを、事業所ごとに繰り返しました。
導入後の成果を機器ごとに見る
| 導入機器 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 介護記録ソフト | 紙媒体中心・外国人スタッフは記録不可 | 紙媒体70%削減、記録時間20%削減、外国人スタッフも記録可能に |
| 見守りセンサー | 夜間訪室1回/時間、22時就寝 | 訪室時間60分削減、訪室回数半減、19時就寝可能に |
| 見守りカメラ | 夜間巡視のみの時間がある | 夜間巡視時間15分削減(特に上下フロア)、事故原因の明確化 |
| インカム | スタッフを探しに行く/大声で呼ぶ | 探す時間30秒〜2分に削減、業務しながら申し送り可能 |
| 全自動体位交換マットレス | 2時間毎の体交、オムツ交換平均66分 | 4時間毎で対応可能、オムツ交換平均53分、重度褥瘡3ヶ所中2ヶ所治癒 |
| 排泄予測機器 | 1週間で7回の尿漏れ | 尿漏れは1週間で1回のみ、業務時間週60分削減 |
2025年4月からは特別養護老人ホーム部門で生産性向上推進体制加算Ⅰの算定を開始し、グループホームでは加算Ⅱの算定に進んでいます。機器導入で生まれた時間を、より介助が必要な利用者への対応に振り向けたことが、目標だった「職員の負担軽減と個別ケアの質の向上」の両立につながったと報告されています。
社会福祉法人邦知会(群馬県桐生市)の事例
事例区分: 公開事例
同じく群馬県「介護テクノロジー導入プロセス事例集」に基づく内容です。
導入前の課題と機器選定の考え方
「ユートピア広沢」「リバーサイド広沢」を運営する同法人が最初に手をつけたのは、既に使っていた介護記録ソフト(ワイズマンシステムSP)と連携できる機器を選ぶことでした。見守りセンサー「aams」(バイオシルバー社)とナースコール「CICSS」(ケアコム社)を組み合わせ、記録・アラート・呼出をひとつのシステムに集約する設計です。導入は一度にまとめず、平成14年の記録システムから令和7年の記録用スマートフォンまで、段階を踏んで進めた点も特徴です。
邦知会の成果まとめ
- 夜間の定期巡視を2回/夜から0回へ廃止し、モニターでの確認に切り替え。職員の身体的・精神的負担が軽減し、利用者の睡眠の質も向上
- 離床センサーやカメラのアラート機能で、転倒・急変の兆候を早期に察知できるように
- スマートフォンでのその場入力により記録業務が効率化。外国人職員にとっても操作しやすく、業務の標準化に寄与
- 生産性向上推進体制加算Ⅱを算定開始し、上位区分の加算Ⅰ取得に向けた準備を進行中
担当した中村相談員は「持続可能な介護サービスの提供体制を構築するとともに、業務プロセスの見直しを通じて介護現場全体の生産性向上を目指す」ことを取り組みの狙いとして挙げています。
2つの事例に共通する成功パターン
規模も導入機器の組み合わせも異なる2法人ですが、報告書を読み比べると共通点が見えてきます。
- 機器選定を現場スタッフに任せる——マグノリアニセンは見守り機器の台数・種類まで含めて現場に一任、邦知会も既存システムとの連携可否を現場担当者が確認してから機器を絞り込んでいます
- いっぺんに導入しない——邦知会は10年以上かけて段階導入。マグノリアニセンも事業所ごとに委員会・分科会を設けて進めています
- 導入前後で数値評価をする——両法人とも訪室回数・記録時間・アンケート等の評価指標を機器導入前に設定し、3ヶ月後・1年後に効果測定を実施
もう一つ見逃せないのは、両法人とも「導入して終わり」にしていない点です。マグノリアニセンは推進委員会・分科会を月1回開催し続け、邦知会は導入機器のヒヤリハット・活用事例を共有する会議を年1回設けています。介護テクノロジーは導入した瞬間に効果が出るわけではなく、運用ルールを現場で磨き続けることで初めて数値に表れる——この2つの報告書を読むと、そのことがよく分かります。
対象となる機器・経費の具体例
実際に助成対象となった機器を整理すると、以下のようなカテゴリに分かれます。
- 見守り機器: センサー型・カメラ型の見守りシステム(マグノリアニセンではあわせて111台、邦知会では既存ナースコールと連携するタイプを採用)
- インカム・情報伝達機器: スタッフ間の呼び出し・申し送りを効率化する機器。PHSからの置き換えとして導入されるケースが多い
- 介護記録ソフト・入力端末: タブレットやスマートフォンでその場入力できるソフト。既存システムとの連携可否が選定の分かれ目になる
- その他(体位交換支援・排泄予測機器): 職員の身体的負担軽減と利用者の生活の質向上を両立させる機器として位置づけられる
いずれの機器も、単体で導入するよりも既存システムと連携させたほうが効果が出やすい、というのが2事例に共通する示唆です。マグノリアニセンは見守りセンサー・ナースコール・介護記録ソフトを一つのシステムイメージ図としてまとめ、通信経路を可視化したうえで導入しています。邦知会も同様に、見守りシステム→ナースコール→介護記録システムという情報の流れを事前に設計してから機器を選定しました。導入予算を検討する際は、機器単体の価格だけでなく、Wi-Fi工事やナースコール連動工事など周辺のシステム構築費用も見込んでおく必要があります。
【要注意】申請・導入でよくある失敗パターン
失敗1: 交付決定前に機器を発注してしまう
❌ 「せっかく採択されたのだから」と交付決定通知の前に業者へ発注する
⭕ 交付決定通知を受け取ってから発注・契約する
交付決定前の経費は補助対象になりません。採択と交付決定は別のステップだという点は、他の補助金と同じく注意が必要です。
失敗2: 都道府県の公募期間を見落とす
❌ 「介護テクノロジー導入支援事業」を全国一律の制度だと思い込み、いつでも申請できると考える
⭕ 事業所が所在する都道府県の公募要領・公募期間を毎年確認する
この事業は国の予算を都道府県が基金として受け取り、各都道府県が独自に公募する仕組みです。実施時期・上限額・対象機器の細目は都道府県ごとに異なります。
失敗3: 現場の声を聞かずに機器を決めてしまう
❌ 導入担当者だけで機器のカタログを見比べて発注する
⭕ ヒアリング・アンケートで現場の課題を可視化してから機器を選定する
2つの事例とも、現場スタッフの意見聴取を機器選定の起点にしていました。「介護ロボット・ICT機器の導入を前提にしないこと」という群馬県の資料の注意書きは、目的と手段を取り違えないための重要な指摘です。
失敗4: 全ての機器を一度に導入しようとする
❌ 予算が確保できたタイミングで全機器を一斉導入する
⭕ 段階的に導入し、現場が慣れてから次の機器に進む
邦知会の事例では、記録システム→見守りセンサー→記録用スマートフォンという順で、十年単位で段階導入していました。一時的な効率低下(U字の法則)を織り込んで計画を立てることが、定着につながります。
介護テクノロジー導入支援事業とIT導入補助金の使い分け
「AIやITを使った業務効率化」という点では、IT導入補助金(デジタル化・AI導入補助金)と対象が重なるように見えます。ただし実際には申請ルート・対象経費の考え方が大きく異なります。
| 比較項目 | 介護テクノロジー導入支援事業 | IT導入補助金(デジタル化・AI導入補助金) |
|---|---|---|
| 申請窓口 | 都道府県(jGrantsは使わない) | 国のjGrants経由・IT導入支援事業者との連携が必須 |
| 対象機器の性質 | 見守りセンサー・介護ロボット・介護記録ソフトなど介護現場特有の機器 | 汎用のITツール・ソフトウェア全般 |
| 公募スケジュール | 都道府県ごとに異なる(毎年変わる) | 年4回程度、国が全国一律で締切を設定 |
| 補助率の目安 | 基本1/2、条件により最大3/4〜4/5 | 類型により1/2〜3/4 |
介護記録ソフトや見守り機器のように「介護保険サービス事業所向け」に設計された機器を導入するなら、まず介護テクノロジー導入支援事業を検討するのが基本です。一方で、請求書のOCR化や社内向けAIチャットボットなど、介護業務に限らない汎用ITツールを導入する場合はIT導入補助金の対象になり得ます。両方の対象になりそうな経費は、二重に補助を受けられない点に注意してください。
群馬県以外の事業所が公募情報を調べる手順
今回紹介した2事例はいずれも群馬県の取り組みですが、介護テクノロジー導入支援事業そのものは全都道府県で実施されています。他県の事業所が最新の公募情報を調べる場合は、次の手順が確実です。
- 都道府県名+「介護テクノロジー導入支援事業」で検索——多くの都道府県が福祉・介護保険担当課のページに専用ページを設けています
- 介護保険担当課(高齢福祉課・介護保険課等)に直接問い合わせる——ウェブサイトが更新される前に窓口で最新の予定を教えてもらえることがあります
- 地域の介護事業者向け説明会・セミナーの案内をチェックする——公募開始前に説明会が開かれる都道府県が多く、早めに動きを把握できます
制度自体の仕組み(補助率・対象機器の全体像)を先に押さえておきたい場合は、【令和8年度】介護テクノロジー導入支援事業とは?ICT最大250万円で整理しています。群馬県の企業でDX・AI活用に使える他の補助金もあわせて検討したい場合は、群馬県のDX・AI補助金まとめも参考になります。
介護テクノロジー導入後にAI・DX研修を組み合わせる選択肢
機器を導入しても、現場が使いこなせなければ効果は出ません。マグノリアニセンの事例でも「機器導入後、実際に使用しながらスタッフの声を聴いて随時見直す」プロセスが明記されています。導入直後の研修だけでなく、AI・DXの基礎知識を継続的に学べる体制をあわせて検討すると、機器の活用度は上がりやすくなります。人材開発支援助成金を使ったAI・DX研修の選び方は、AI・DX研修に使える人材開発支援助成金|コース別の助成率と選び方で整理しています。
自施設で検討を始めるための次の一手
2つの事例を踏まえると、まず着手すべきは「機器を探す」ことではなく「現場の課題を洗い出す」ことです。
- 今週中: 夜間巡視・記録業務・申し送りなど、現場の負担が大きい業務を職員へのヒアリングで洗い出す
- 今月中: 事業所が所在する都道府県の介護テクノロジー導入支援事業の公募要領を確認し、公募時期・上限額を把握する
- 導入前に: 導入前の状態(訪室回数、記録時間など)を数値で記録しておく。効果測定の比較基準になる
どの機器から着手すべきか判断が難しい場合や、導入後のAI活用研修についてのご相談は、お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
よくある質問
Q1. 介護テクノロジー導入支援事業はどの介護施設でも申請できますか?
都道府県内の介護保険サービス事業所・施設が対象ですが、対象機器や要件は都道府県ごとの公募要領で定められています。まずは事業所が所在する都道府県の担当窓口・公募要領を確認してください。
Q2. 見守りセンサーだけを単体で導入することはできますか?
可能です。今回紹介した2事例でも、見守り機器・記録ソフト・インカムをそれぞれ別のタイミングで段階的に導入しています。ただし、パッケージ型導入(複数機器の組み合わせ)の方が補助率が高くなる場合があるため、都道府県の公募要領で条件を確認することをおすすめします。
Q3. 補助金の交付は導入前・導入後どちらですか?
補助金は原則として、機器導入・実績報告のあとに交付される後払いです。交付決定前に発注・契約すると補助対象外になるため、必ず交付決定通知を受け取ってから発注してください。
Q4. AI・DXの研修費用もこの補助金でまかなえますか?
介護テクノロジー導入支援事業自体は機器導入が中心で、研修費用は対象外となる場合が多い制度です。研修費用を補助対象にしたい場合は、人材開発支援助成金など別制度の活用を検討してください。
Q5. 都道府県ごとに補助率や上限額は違いますか?
基本的な補助率・上限額の枠組みは国の実施要綱に基づきますが、実際の公募要領・対象機器の細目・優先順位は都道府県ごとに設定されます。必ず該当都道府県の最新の公募要領で確認してください。
Q6. 見守りセンサーと介護記録ソフト、どちらから導入するべきですか?
絶対の正解はありませんが、今回の2事例では「まず記録システムを整え、そこに見守り機器を連携させる」順番が共通していました。既存の記録システムと連携できる機器を選ぶと、後から機器を増やす際の負担が小さくなります。導入前に、現場でどの業務の負担が最も大きいかをヒアリングし、優先順位を決めることをおすすめします。
Q7. 補助金の申請書類はどこで入手できますか?
各都道府県の介護保険担当課(高齢福祉課・介護保険課など、名称は自治体により異なります)が公募要領・申請様式を公表します。多くの自治体では都道府県公式サイトの介護保険・高齢福祉ページからPDFでダウンロードできる形式になっています。
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
免責事項
本記事の情報は2026年7月16日時点の公表資料(群馬県「介護テクノロジー導入プロセス事例集」2025年9月、厚生労働省公表情報)に基づく参考情報です。介護テクノロジー導入支援事業の補助率・上限額・対象機器・公募時期は都道府県により異なり、予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず事業所が所在する都道府県の最新の公募要領をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
参考・出典
- 介護テクノロジー導入プロセス事例集(介護テクノロジー導入モデル事業 取組結果報告) — 群馬県健康福祉部福祉局地域福祉課福祉人材確保対策室(2025年9月・参照日: 2026-07-16)
- 介護テクノロジーの利用促進 — 厚生労働省(参照日: 2026-07-16)
- 介護テクノロジー導入支援事業 実施主体・補助構造資料 — 厚生労働省(参照日: 2026-07-16)
