「社員にAI研修を受けさせたいけど、1人あたり数十万円もかかるのか…」。そんな悩みを抱える中小企業の経営者は多いはずです。
人材開発支援助成金を使えば、AI研修やDXリスキリング研修の費用の最大75%が助成されます。さらに研修中の賃金も1時間あたり1,000円が別途支給されるため、「研修を受けさせている間、給料だけ払って生産性ゼロ」という不安も軽減できます。
2026年3月2日には制度が大幅に改正され、対象となる訓練の範囲が広がり、分割での支給申請も可能になりました。ただし、「人への投資促進コース」と「事業展開等リスキリング支援コース」は2026年度が最終年度の予定です。活用するなら今年度中に計画届を出す必要があります。
人材開発支援助成金の仕組みと助成額
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 人材開発支援助成金 |
| 所管省庁 | 厚生労働省 |
| 助成率(中小企業) | 訓練経費の45%〜75%(コースによる) |
| 賃金助成(中小企業) | 1人1時間あたり800円〜1,000円 |
| 年間上限額 | コースにより異なる(事業展開等リスキリング: 1億円、人への投資促進: 2,500万円、人材育成支援: 1,000万円) |
| 対象者 | 雇用保険適用事業所の事業主 |
| 対象経費 | 外部研修の受講料、講師謝金、教材費、施設使用料 等 |
| 申請方法 | 管轄の労働局に計画届を提出(訓練開始1ヶ月前まで) |
| 公式サイト | 厚生労働省 人材開発支援助成金 |
※ 上記は2026年3月19日時点の公表情報に基づきます。最新情報は公式サイトをご確認ください。
各補助金制度の補助率・上限額の比較は、AI導入に使える補助金5選 徹底比較でも詳しくまとめています。
AI研修で使える4つのコース — どれを選ぶべきか
人材開発支援助成金には複数のコースがありますが、AI研修・DXリスキリングに直結するのは主に4つ。それぞれ助成率と使い方がまったく違います。
事業展開等リスキリング支援コース(最もおすすめ)
DX推進や新規事業のために社員に新しいスキルを習得させる訓練が対象。2026年3月2日の改正で、将来の配置転換を見据えた訓練も対象に加わり、使い勝手が大幅に向上しました。
| 項目 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 経費助成率 | 75% | 60% |
| 賃金助成 | 1人1時間あたり1,000円 | 1人1時間あたり500円 |
| 1人あたり経費上限(10〜100h未満) | 30万円 | 20万円 |
| 1人あたり経費上限(100〜200h未満) | 40万円 | 30万円 |
| 1人あたり経費上限(200h以上) | 50万円 | 40万円 |
| 年間上限 | 1億円 | 1億円 |
AI研修での活用例: 3日間のAI活用研修(20時間・受講料25万円)を社員5名に受講させた場合 → 経費助成: 25万円 × 75% × 5名 = 93.75万円、賃金助成: 20h × 1,000円 × 5名 = 10万円、合計 約103万円の助成。
人への投資促進コース — 高度デジタル人材訓練
ITスキル標準(ITSS)レベル3・4相当の高度なデジタルスキルを習得させる訓練が対象。ITストラテジスト、データサイエンティスト、AIエンジニアなどの育成に。
| 項目 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 経費助成率 | 75% | 60% |
| 賃金助成 | 1人1時間あたり1,000円 | 1人1時間あたり500円 |
正直、「ITスキル標準レベル3・4」と聞くとハードルが高く聞こえますが、認定された研修機関のカリキュラムを受講すれば自動的に要件を満たすケースが多いです。なお、賃金助成は2025年4月に960円から1,000円に引き上げられました。研修会社に「この研修は高度デジタル人材訓練の対象ですか?」と確認しましょう。
人への投資促進コース — 定額制訓練
Udemy BusinessやSchooなどのサブスクリプション型研修サービスを利用する場合に使えます。
- 助成率(中小企業): 60%(賃金要件達成で+15%、最大75%)
- 経費上限: 受講者1人1ヶ月あたり2万円
「まずはサブスク型でAIの基礎を学ばせたい」という企業に向いています。ただし月額上限が2万円と低いため、本格的なAI研修には事業展開等リスキリング支援コースの方が使いやすいでしょう。
人材育成支援コース
汎用的な職業訓練全般が対象。AI研修にも使えますが、助成率は45%〜60%と他コースより低め。
- 助成率(中小企業): 45%(賃金要件達成で60%)
- 賃金助成: 1人1時間あたり800円(賃金要件達成で1,000円)
事業展開等リスキリング支援コースの要件に当てはまらない一般的なIT研修は、こちらで申請することになります。
2026年3月2日の制度改正 — 何が変わったのか
今回の改正は、ぶっちゃけ「かなり使いやすくなった」と言っていいレベルです。主な変更点を整理します。
変更1: 事業展開等リスキリング支援コースの対象拡大
これまで: 新規事業を実際に始める、または開始予定であることが前提
改正後: おおむね3年以内の人事配置計画に基づく訓練も対象に
「今すぐ新規事業を始めるわけじゃないけど、将来のDX推進に備えて社員にAIスキルを身につけさせたい」。こういうケースでも使えるようになりました。
変更2: 分割支給申請の導入
長期間にわたる研修プログラムの場合、訓練の途中段階で助成金の支給申請ができるようになりました。半年〜1年かけてAIエンジニアを育成するような計画で、キャッシュフローの負担が軽くなります。
変更3: 設備投資助成の新設(2026年4月〜)
事業展開等リスキリング支援コースで訓練を修了した後、学んだスキルを活かすための機器・設備を導入すると、設備費用の1/2(上限: 受講者1人15万円 × 人数、最大150万円)が追加で助成されます。AI研修後にAIツールを導入する場合に活用できます。
変更4: 中高年齢者実習型訓練の新設(2026年4月〜)
45歳以上の社員を対象に、OJTとOFF-JTを組み合わせた訓練が新たに対象に。中小企業は経費助成60%(賃上げ要件達成で75%)です。
申請で失敗する企業に共通する4つのパターン
失敗1: 計画届を出す前に研修を始めてしまう
❌ 「来月の研修に申し込んでから、助成金の手続きを調べよう」
⭕ 「まず労働局に計画届を提出し、受理されてから研修に申し込む」
なぜ致命的か: 計画届の提出は訓練開始日の1ヶ月前までが期限です。これを過ぎたら、どんなに良い研修でも1円も助成されません。補助金全般に言えることですが、「先に手続き、後から実施」が鉄則です。
失敗2: 勤務時間外に研修を実施してしまう
❌ 土曜日にAI研修を入れて「業務に支障がない形で実施した」
⭕ 就業時間内に研修を設定し、業務命令として参加させる
なぜ重要か: 賃金助成は所定労働時間内の訓練が対象です。勤務時間外の研修は賃金助成の対象外になり、助成額が大幅に減ります。
失敗3: 受講者が研修を途中で脱落する
❌ 10名で計画届を出したが、3名が業務都合で受講を中断
⭕ 受講者の業務スケジュールを事前に調整し、代替要員も確保
なぜ問題か: 中途脱落した受講者分は助成対象外になります。それだけでなく、計画と実績の乖離が大きいと、次回以降の申請時に不利に働く可能性があります。
失敗4: 対象外の経費を計上してしまう
❌ 研修会場までの交通費や宿泊費を経費として申請
⭕ 受講料・教材費・講師謝金など、対象経費だけを正確に計上
なぜ重要か: 交通費・宿泊費・食費は原則として助成対象外です。対象外の経費を含めて申請すると、最悪の場合、申請全体が不受理になります。
計画届の提出から助成金受給までの流れ
Step 1: 職業能力開発推進者の選任(所要: 1日)
助成金を受けるには、社内に「職業能力開発推進者」を選任する必要があります。人事担当者や総務担当者を選任するケースが一般的。選任届は労働局で受け付けています。すでに選任済みの企業はスキップ可能。
Step 2: 事業内職業能力開発計画の策定(所要: 1〜2週間)
社員の職業能力開発に関する計画書を策定します。大仰に聞こえますが、A4で2〜3枚程度の書類です。「なぜこの研修が必要か」「研修後にどの業務に活かすか」を明確に書きましょう。
Step 3: 職業訓練実施計画届の提出(所要: 1日 / 訓練開始1ヶ月前まで)
管轄の労働局に計画届を提出します。訓練開始日の1ヶ月前が締切(6ヶ月前から提出可能)。2026年3月2日以降の改正に対応した新様式は、厚生労働省HPからダウンロードできます。
注意: 2026年3月時点では、拡充された対象訓練や分割支給の電子申請は準備中です。紙申請(労働局への持参 or 郵送)で対応してください。
Step 4: 研修の実施(計画通りに)
計画届に記載した内容に沿って研修を実施します。出席記録・研修日報・教材のコピーなど、証拠書類は確実に保管してください。支給申請時に提出を求められます。
Step 5: 支給申請(訓練終了後2ヶ月以内)
研修が終わったら、2ヶ月以内に支給申請書を労働局に提出します。必要書類: 支給申請書、出席簿の写し、経費の領収書、賃金台帳の写し等。分割支給を選択した場合は、訓練途中でも申請可能です。
Step 6: 審査・支給決定(約2〜4ヶ月)
労働局による審査の後、支給決定通知が届き、指定口座に助成金が振り込まれます。審査期間は地域や時期により異なりますが、おおむね2〜4ヶ月程度です。
→ 申請全般のコツは補助金の加点項目を確実に押さえる6ステップも参考にしてください。
AI研修で助成対象になる経費の具体例
「うちの研修内容は対象になるのか?」という質問が一番多いので、具体的に整理します。
助成対象になるAI関連の研修テーマ
- 生成AI活用研修: ChatGPT・Claude等の業務活用スキル(プロンプトエンジニアリング、業務自動化)
- AIリテラシー研修: 非エンジニア向けのAI基礎知識、AI導入プロジェクトの進め方
- データ分析・AI開発研修: Python、機械学習、データサイエンスの実践スキル
- DX推進リーダー研修: DX戦略の立案、デジタルツール導入の実務
- AI-OCR・RPAの操作研修: 業務自動化ツールの具体的な操作スキル
助成対象になる経費
- 外部研修機関への受講料
- 講師謝金(社外講師を招く場合)
- 教材費・テキスト代
- 外部研修施設の利用料
- eラーニングの受講料(定額制訓練の場合は月額2万円上限)
助成対象にならない経費(注意)
- 受講者の交通費・宿泊費
- 食費・懇親会費
- 社内講師の人件費(社内講師の場合、講師謝金は対象外)
- PCやタブレットなどのハードウェア購入費
- 汎用ソフトウェアのライセンス料
他の補助金とどう使い分けるか
AI導入に使える補助金は人材開発支援助成金だけではありません。「研修」と「ツール導入」で制度を分けて考えると整理しやすくなります。
| 目的 | 最適な制度 | 助成率 | 上限額 |
|---|---|---|---|
| AI研修・リスキリング | 人材開発支援助成金 | 最大75% | 1人30〜50万円 |
| AIソフトウェア導入 | デジタル化・AI導入補助金 | 最大4/5 | 最大450万円 |
| AI+設備投資 | ものづくり補助金(新事業進出・ものづくり補助金) | 最大2/3 | 最大1,250万円 |
| AI事業で新規進出 | 新事業進出補助金 | 最大2/3 | 最大4,000万円 |
併用のポイント: 人材開発支援助成金で社員のAIスキルを育成し、デジタル化・AI導入補助金でAIツールを導入する——この組み合わせが最も実践的です。研修費と設備費は別の経費なので、同一経費の二重計上にはなりません。
2026年度が最終年度 — 今やるべきこと
「人への投資促進コース」と「事業展開等リスキリング支援コース」は、2022年度〜2026年度の期間限定で設けられた助成制度です。2027年度以降も継続されるかは未定で、仮に継続されても助成率が下がる可能性があります。
今のうちにやっておくべきことは3つ。
- 今週中: 社内でAI研修が必要な部署・人数を洗い出す
- 今月中: 研修会社に「人材開発支援助成金に対応した研修プログラムはありますか?」と問い合わせる。多くの研修会社が助成金申請のサポートも行っています
- 研修予定日の1ヶ月前まで: 管轄の労働局に職業訓練実施計画届を提出する
AI導入の計画策定やどの助成金が自社に合うか分からない場合は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
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この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
免責事項
本記事の情報は2026年3月19日時点の厚生労働省の公表資料に基づく参考情報です。人材開発支援助成金の制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず厚生労働省の公式サイトで最新の要件をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
参考・出典
- 人材開発支援助成金 — 厚生労働省(参照日: 2026-03-19)
- 人材開発支援助成金 詳細版パンフレット — 厚生労働省(参照日: 2026-03-19)
- 人材開発支援助成金 令和8年3月2日改正案内 — 厚生労働省(参照日: 2026-03-19)
- 人への投資促進コース 申請書類 — 厚生労働省(参照日: 2026-03-19)
- デジタル推進人材育成の取組 — 内閣官房デジタル田園都市国家構想(参照日: 2026-03-19)