静岡県には全国屈指の製造業集積があります。お茶の世界的産地・牧之原、国内シェアほぼ100%を誇る楽器メーカーが集まる浜松、オートバイ部品サプライヤーが点在する磐田・掛川、カツオ水揚げ日本一の焼津、そして熱海・伊豆の温泉観光地。それぞれの産業がDXの恩恵を受けやすい構造を持っているにもかかわらず、「どの補助金を使えばいいのか分からない」という声を現場でよく耳にします。
正直、静岡の制度は「県の制度」「静岡市の制度」「浜松市の制度」「国の制度」が複数重なっていて、整理しないと何が自社に使えるのか判断しにくい。この記事では2026年度(令和8年度)時点で申請できる5制度を、業種別の活用シナリオと合わせて解説します。申請の前提条件の確認から書類作成の失敗パターンまで一通り押さえてあるので、最後まで読めば「次に何をすべきか」が分かります。
各補助金制度の全国的な比較はAI導入に使える補助金5選 徹底比較もあわせてご覧ください。
まずこれだけ確認——申請できる会社の前提条件
補助金の詳細を読み込む前に、自社が対象かどうかを確認しましょう。ここをクリアしていないと、どの制度を選んでも門前払いになります。
中小企業・小規模事業者であること
国の補助金(デジタル化・AI導入補助金、省力化投資補助金、ものづくり補助金など)は中小企業基本法上の「中小企業者」または「小規模事業者」が対象です。業種ごとに資本金・従業員数の上限が異なります。
| 業種 | 資本金上限 | 従業員数上限 |
|---|---|---|
| 製造業・建設業・運輸業 | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業(旅館含む) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
農業・漁業は原則として資本金・従業員数の要件がなく、法人格を持つ農業経営体や漁業協同組合の構成員が申請できる場合があります。ただし制度ごとに細かく異なるため、各公募要領で確認してください。
GビズIDの取得が必要な制度
国の補助金(デジタル化・AI導入補助金、省力化投資補助金など)はjGrantsによる電子申請が必要です。jGrantsを使うためにはGビズID(プライム)が必要で、取得には印鑑証明書の郵送確認を含め1〜2週間かかります。締切ギリギリで気づいても間に合わない場合があるので、今すぐ取得状況を確認してください。
静岡県・静岡市・浜松市独自の補助金は電子申請フォームや郵送で対応している場合が多く、GビズIDが不要なケースもあります。
静岡県で使える5制度の早見表(2026年度版)
| 制度名 | 主体 | 補助率 | 上限額 | 静岡ならではの活用先 | 公募状況(2026年6月時点) |
|---|---|---|---|---|---|
| ①中小企業等収益力向上補助金(DX枠) | 静岡県(運営:静岡県産業振興財団) | 1/2(賃上げ要件で2/3) | 700万円(賃上げで1,000万円) | 茶農家の生産管理DX、焼津水産加工、楽器製造ERP | 第2次公募:2026年6月1日〜6月30日 |
| ②静岡市中小企業等デジタル活用事業補助金 | 静岡市 | 2/3 | 50万円 | 静岡市内の飲食・小売・観光事業者 | 2026年5月15日〜7月3日 申請受付中 |
| ③デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金) | 中小企業庁 | 1/2〜4/5 | 最大450万円 | 全業種・AI・クラウド・システム導入 | 通年公募中(第3次締切:2026年7月頃) |
| ④省力化投資補助金(一般型) | 中小企業庁 | 1/2(賃上げで2/3) | 従業員規模に応じ最大1億円 | オートバイ・楽器・農産物加工の自動化設備 | 第7回公募:2026年6月〜 |
| ⑤人材開発支援助成金(人への投資促進コース) | 厚生労働省 | 最大75%(中小企業) | 上限なし(訓練内容による) | AI・DXリスキリング研修 | 通年受付(訓練開始前に申請必須) |
「県の制度は知らなかった」という声が圧倒的に多い。静岡県独自の①は国の補助金と組み合わせるとさらに効果的です。
Step 1: 静岡県の看板制度「中小企業等収益力向上補助金・DX枠」を理解する
制度の概要
正式名称は「中小企業等収益力向上(賃上げ環境整備)事業費補助金」。運営は公益財団法人静岡県産業振興財団(通称:ric-shizuoka)です。令和8年度から従来の「DX推進枠」が「DX枠」に名称変更され、補助上限が強化されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 中小企業等収益力向上(賃上げ環境整備)事業費補助金 DX枠 |
| 運営 | 公益財団法人 静岡県産業振興財団(経営革新支援チーム) |
| 補助率(基本) | 補助対象経費(税抜)の1/2以内 |
| 補助率(賃上げ要件) | 補助対象経費(税抜)の2/3以内 |
| 補助下限額 | 50万円 |
| 補助上限額(基本) | 700万円 |
| 補助上限額(賃上げ要件) | 1,000万円 |
| 事業計画期間 | 最長2年間 |
| 第2次公募期間 | 令和8年6月1日(月)10時〜6月30日(火)17時 |
| 対象者 | 静岡県内に主たる事務所または主たる事業所を有する中小企業者等 |
| 公式サイト | 静岡県産業振興財団 収益力向上補助金ページ |
DX枠の対象となる事業
「付加価値向上を目標とした最長2年間の事業計画」を策定したうえで、以下のいずれかに該当する事業が対象です。
- 経営革新計画承認ルート:静岡県知事の承認を受けた経営革新計画に基づく事業
- 自社新規事業ルート:収益力や生産性の向上を図る「自社にとって新たな事業」であり、AI・ICT・IoT・ビッグデータ・RPA等のデジタル技術を活用するもの
「自社にとって新たな事業」という表現が分かりにくいですが、要するに「これまでやっていなかった取り組み」であれば認められます。たとえば「農業法人が初めてクラウド型生産管理システムを導入する」「水産加工業者がAIによる品質検査を初めて採用する」といったケースが典型的です。
数値目標の設定が必須
計画終了時点(最長2年後)に「付加価値額の年率3%以上増加」という数値目標が必要です。「売上が少し増える見込み」ではなく、付加価値額(売上高から原材料費等を差し引いた金額)で計算して提示する必要があります。ここが他の補助金との大きな違いで、計画書の作り込みが採否を分けるポイントになります。
賃上げ要件で補助上限が1,000万円に
一定の賃上げを実施する事業者は補助率が2/3に引き上げられ、上限も1,000万円まで拡充されます。賃上げ要件の詳細(引き上げ幅・対象期間)は公募要領で確認が必要ですが、賃上げ計画のある事業者は積極的に活用したい特例です。
Step 2: 静岡市内の事業者は「デジタル活用事業補助金」も確認する
制度の概要
静岡市が独自に設けている補助金です。市内中小企業等の経営効率化・生産性向上を目的に、デジタル活用事業を支援します。県の収益力向上補助金と比べると規模は小さいですが、補助率が2/3と高く、手続きも比較的シンプルです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 中小企業等デジタル活用事業補助金 |
| 実施主体 | 静岡市(産業振興課) |
| 補助率 | 2/3(千円未満切り捨て) |
| 補助上限額 | 50万円 |
| 令和8年度申請受付期間 | 2026年5月15日(金)〜7月3日(金)23:59 |
| 採択発表予定 | 2026年7月中旬 |
| 交付決定予定 | 2026年7月下旬 |
| 事業実施期間 | 交付決定日〜2027年2月12日 |
| 対象者 | 静岡市内に主たる事業所(法人)または事業場(個人)を有する中小企業等 |
| 問い合わせ | 静岡市産業振興課 054-354-2058 |
| 公式サイト | 静岡市公式ホームページ |
対象となる取り組みの例
- 電子商取引(EC)の導入・拡大
- 非対面ビジネスモデルへの転換
- 業務効率化のためのクラウドシステム・RPAの導入
- 販売管理・在庫管理・顧客管理システムの導入
補助対象経費は謝金・リース料・器具備品費・消耗品費・委託外注費です。ハードウェア単体(PC、タブレット)は対象外になる場合があるため、購入前に産業振興課に相談することをすすめます。
なお浜松市については、「浜松市中小事業者等デジタル化支援事業費補助金」として過去に上限30万円・バックオフィス業務デジタル化を対象に募集実績がありますが、令和8年度の公募は2026年6月時点で発表されていません。浜松市産業振興課(053-457-2303)に最新情報をご確認ください。
Step 3: 全国共通・使いやすさで選ぶ「デジタル化・AI導入補助金2026」
制度の概要
旧IT導入補助金を大幅に改編した2026年度版の国の主力補助金です。補助率が最大4/5(小規模事業者のインボイス枠)、通常でも最大3/4という高い補助率が特徴で、AIやクラウドサービスの月額利用料も対象になる点が実務者から評価されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | デジタル化・AI導入補助金2026 |
| 所管 | 中小企業庁(実施:中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局) |
| 補助率(通常) | 50万円以下の部分:3/4以内、50万円超〜350万円:2/3以内 |
| 補助率(小規模・インボイス枠) | 最大4/5 |
| 補助上限額 | 最大450万円 |
| 公募方式 | 通年公募(約1〜2ヶ月に1回締切) |
| 申請方法 | jGrants電子申請(GビズIDプライム必須) |
| 公式サイト | 中小企業デジタル化・AI導入支援事業ポータルサイト |
静岡の事業者が使いやすい理由
「登録されたITツール・AIツール」を選んで申請する方式のため、どのツールが使えるかを事前にポータルサイトで確認できます。静岡県内の農業・水産業向けクラウド管理ツールや、楽器製造・部品メーカー向けの生産管理システムなども登録されていることが多い。登録ツールの一覧は事務局ポータルで検索できます。
また、IT導入支援事業者(代理申請できるITベンダー)を通じて申請するため、申請書の作成負担が軽減されます。「自分でjGrantsを操作するのが不安」という経営者でも進めやすい仕組みです。
Step 4: 設備投資を伴うDX化には「省力化投資補助金(一般型)」
制度の概要
人手不足解消に向けた省力化・自動化設備の導入を支援する補助金で、2024年度に新設された比較的新しい制度です。カタログに掲載された機器・設備(IoTセンサー、自動検査装置、協働ロボットなど)を導入する場合に適用されます。補助上限が従業員規模に応じて最大1億円と大型であることが特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 中小企業省力化投資補助金(一般型) |
| 所管 | 中小企業庁(実施:省力化投資補助金事業事務局) |
| 補助率(基本) | 1/2(小規模事業者・再生事業者は2/3) |
| 補助率(大幅賃上げ特例) | 2/3(給与支給総額年平均6%以上増・最低賃金+50円以上) |
| 補助上限額(従業員1〜20人) | 1,500万円 |
| 補助上限額(従業員21〜50人) | 3,000万円 |
| 補助上限額(従業員51〜100人) | 5,000万円 |
| 補助上限額(従業員101人以上) | 最大1億円 |
| 公式サイト | 省力化投資補助金 一般型公式サイト |
カタログ掲載製品が対象
省力化投資補助金(一般型)は、あらかじめ事業事務局に認定された「カタログ製品」を導入する場合に申請できます。自社オリジナルのシステム開発や、カタログ未掲載の設備は対象外になります。まず事業事務局のサイトでカタログを確認し、「これを入れたい」という機器がリストにあるかどうかを確認するのが最初のステップです。
Step 5: 研修・人材育成なら「人材開発支援助成金」
制度の概要
従業員へのAI・DX研修にかかる費用(研修費・受講者の賃金相当額)を助成する厚生労働省の制度です。補助金と違って「採択」という審査がなく、要件を満たせば受給できる「助成金」であるため、確実性が高いことが特徴です。静岡県内の楽器メーカーや自動車部品サプライヤーで、社員のAIリテラシー向上研修に活用する事例が増えています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 人材開発支援助成金(人への投資促進コース) |
| 所管 | 厚生労働省(申請:静岡労働局 雇用環境・均等室) |
| 助成率(中小企業) | 訓練経費の60%〜75%(訓練内容・時間数による) |
| 賃金助成(中小企業) | 1時間あたり960円〜 |
| 対象訓練 | DX・AI関連の社内訓練・外部研修(高度デジタル人材コース等) |
| 受付 | 通年(訓練開始前に申請が必須) |
| 公式サイト | 厚生労働省 人材開発支援助成金 |
訓練開始前に「訓練実施計画書」をハローワーク(静岡労働局各所)に届け出る必要があります。訓練開始後に申請しても受け付けてもらえないので注意が必要です。
静岡代表産業別 DX補助金活用シナリオ
シナリオ1:牧之原・掛川のお茶農家・茶業法人
静岡茶は県内産業の象徴です。しかし、収穫時期の労働力確保、天候に依存した摘採タイミングの判断、煎茶・抹茶・荒茶の品質グレーディングなど、DX化の余地が豊富にあります。
事例区分: 想定シナリオ
以下は100社以上の支援経験をもとに構成した典型的な活用シナリオです。
課題:茶葉の収穫量と品質を目視・経験値で管理。年産80トン規模の農業法人だが、生産記録はExcelと手書き台帳の二重管理で作業効率が悪い。また、直販ECの注文管理と在庫管理が別システムで手作業の転記ミスが月10件以上発生。
選択補助金:①収益力向上補助金DX枠 + ③デジタル化・AI導入補助金2026の2段階活用
活用フロー:
- デジタル化・AI導入補助金2026(第3次締切)でクラウド型農業管理システムと直販EC連携ツールを導入(総費用150万円→補助後75万円程度)
- 翌年度に収益力向上補助金DX枠でセンサーによる茶畑環境モニタリングと収量予測AIシステムを導入(総費用800万円→補助後400万円)
- ②の賃上げ要件を満たすことで補助率2/3に引き上げ(→補助後533万円に圧縮)
期待効果:転記作業の削減で月20時間の工数を解放、収量予測精度の向上で廃棄ロスを推定15%削減。
シナリオ2:焼津・牧之原の水産加工業者(カツオ・マグロ)
焼津港はカツオ水揚げ全国屈指の港です。水産加工業では、品質検査の目視作業負荷、冷蔵・冷凍倉庫の温度管理コスト、輸出向け衛生証明書類の作成工数が課題として挙がります。
事例区分: 想定シナリオ
課題:切り身・フィレの品質検査を熟練工が目視で担当。1日6時間の作業を3名が担当しているが、高齢化で後継者確保が難しい。また輸出向けHACCP関連書類の作成に月40時間以上費やしている。
選択補助金:④省力化投資補助金(一般型)
活用フロー:
- カタログ掲載のAI画像検査装置(異物検知・サイズ選別)を選定
- 省力化投資補助金(一般型)で申請(設備費2,000万円→補助後1,000万円)
- 運用後は⑤人材開発支援助成金でAI装置の操作研修と品質管理データ分析研修を実施(研修費の75%を助成)
期待効果:検査工程の省人化で3名分の工数を他工程に振り向け可能。HACCP書類作成のシステム化で月40時間の工数を削減。
シナリオ3:浜松・磐田の楽器・音響機器メーカー(中小部品サプライヤー)
浜松市はヤマハ・カワイのお膝元として楽器産業が集積しています。中小サプライヤーレベルでは、精密部品の受発注管理、品質トレーサビリティの整備、設計変更への追従が課題です。
事例区分: 想定シナリオ
課題:大手親事業者から仕様変更の連絡がFAXと電話で届き、図面管理がフォルダ分けだけで最新版がどれか混乱しやすい。従業員40名・製造業。品質データはExcelで管理しており、出荷後のトレーサビリティ確認に毎回2〜3時間かかっている。
選択補助金:③デジタル化・AI導入補助金2026 + ①収益力向上補助金DX枠
活用フロー:
- デジタル化・AI導入補助金2026で受発注・図面管理クラウドシステムを導入(総費用200万円→補助後100万円程度)
- 収益力向上補助金DX枠で、生産工程のIoTセンサーと品質管理AIシステムを導入(総費用1,400万円→補助後700万円)
期待効果:図面版数管理エラーゼロ化、品質トレーサビリティ確認時間を月20時間削減。
シナリオ4:熱海・伊豆の温泉旅館・観光事業者
熱海市・伊豆半島は東海随一の温泉観光地です。旅館・ホテルのDXは予約管理、フロント業務効率化、外国人観光客対応の多言語化が急務です。
事例区分: 想定シナリオ
課題:熱海市内の旅館(30室・従業員15名)。予約はじゃらん・楽天・公式サイトの3チャネルだがシステム連携がなく、二重予約ミスが年3〜5件発生。チェックイン業務は全員が対応できるわけではなく、繁忙期に手が回らない。外国語対応はほぼゼロで、外国人客の獲得機会を逸失している。
選択補助金:③デジタル化・AI導入補助金2026 + ②静岡市デジタル活用事業補助金(熱海市は静岡市ではないため静岡市補助金は対象外・同様の検討は熱海市の独自制度を確認)
活用フロー:
- デジタル化・AI導入補助金2026でチャネルマネージャー・AIチャットボット(多言語対応)・セルフチェックインシステムを導入(総費用180万円→補助後90万円程度)
- ⑤人材開発支援助成金でフロントスタッフのDX研修を実施
期待効果:二重予約ゼロ化、チェックイン業務時間50%削減、多言語AIチャットで外国人予約の問い合わせ対応を自動化。
シナリオ5:磐田・掛川のオートバイ部品・精密製造業
ホンダ・スズキのサプライチェーンを支える部品メーカーが静岡西部に多数存在します。EV化への対応と生産自動化が喫緊の課題です。
事例区分: 想定シナリオ
課題:EV向けモーター部品への切り替えに対応するため、製造ラインの柔軟性を高める必要がある。従業員65名・精密部品加工。検査工程に3名配置しているが、目視検査の精度にばらつきが出ており不良品流出が年間数十件発生。
選択補助金:④省力化投資補助金(一般型)+ ①収益力向上補助金DX枠
活用フロー:
- 省力化投資補助金(一般型)でAI外観検査装置(カタログ掲載品)を導入(設備費3,000万円・従業員51〜100人枠→補助後1,500万円)
- 収益力向上補助金DX枠で生産管理システムのERP化とIoTによる設備稼働可視化を実施(総費用1,200万円・賃上げ要件適用→補助後800万円)
申請で落とす4つの典型的な失敗パターン
失敗1: 交付決定の前に契約・発注してしまう
❌ 採択通知が届いたその日に業者に発注メールを送った
⭕ 交付決定通知書が届いてから業者との正式契約・発注を行う
静岡県の収益力向上補助金も、国のデジタル化・AI導入補助金も、「採択」と「交付決定」は別のプロセスです。採択後に交付申請を行い、審査を経て「交付決定通知」が届いて初めて事業開始(発注・契約)が認められます。焦って動くと100万円単位の補助金が丸ごと対象外になります。
失敗2: 付加価値額の計算を間違える(収益力向上補助金特有)
❌ 「売上が伸びれば条件を満たす」と考えて計画書を書いた
⭕ 付加価値額(=売上高−外注費・仕入・材料費)で年率3%以上増加を計算して示す
静岡県の収益力向上補助金は「付加価値額の年率3%以上増加」が要件です。売上高そのものではなく付加価値ベースで計算します。製造業では材料費が大きいため、売上が5%増でも付加価値額は3%を下回るケースがあります。事業計画を書く前に直近3年の付加価値額の推移を計算しておくことが必要です。
失敗3: 数値目標が「努力目標」の域を出ない
❌ 「業務効率を大幅に改善します」「生産性が向上する予定です」
⭕ 「受注処理工数:現在の月120時間→導入後45時間(62.5%削減)、測定は社内業務日報データで確認」
収益力向上補助金でも、デジタル化・AI導入補助金でも、審査委員が最も重視するのは「数値目標の具体性」です。Before(現状)とAfter(導入後の目標値)を、どのデータで測定するかまでセットで記載しましょう。「売上10%増」より「特定業務の工数を定量的に削減」の方が審査では伝わりやすいことが多いです。
失敗4: カタログ未掲載の設備で省力化投資補助金に申請する
❌ 「うちの工場に入れたい装置があるから省力化投資補助金で申請しよう」と申請直前に確認した
⭕ 申請前にカタログサイトで当該製品が掲載済みかどうかを確認し、なければ別の補助金を検討する
省力化投資補助金(一般型)は、事業事務局が公認した「カタログ製品」の導入が前提です。独自仕様の設備やカタログ未掲載のシステムは対象外です。特殊な機械加工装置や特注ロボットを入れたい場合は、ものづくり補助金(省力化枠)の方が適している場合があります。
申請から補助金受取までの全工程(共通フロー)
Phase 1:事前準備(申請の1〜2ヶ月前)
-
GビズIDプライムの取得申請(国の補助金利用者のみ)
法人の場合は印鑑証明書の郵送確認があり、1〜2週間かかります。まずここから動いてください。
→ GビズID取得の完全ガイド -
制度の絞り込み・事前相談
収益力向上補助金は公募前に静岡県産業振興財団(054-275-2345)に相談することを強くすすめます。「経営革新計画ルート」か「自社新規事業ルート」かの選択も含め、担当者に確認するのが最短ルートです。 -
ITツール・設備のリストアップ
デジタル化・AI導入補助金はポータルで登録ツールを確認。省力化投資補助金はカタログで対象製品を探す。
Phase 2:書類作成(申請の2〜4週間前)
-
事業計画書の作成
収益力向上補助金の計画書は「付加価値額目標」を軸に設計します。デジタル化・AI導入補助金はIT導入支援事業者と共同で申請書を作成します。 -
添付書類の収集
決算書(直近2〜3期)、確定申告書、登記事項証明書(法人の場合)が主な共通書類です。制度によって追加書類が異なるため、各公募要領の「提出書類一覧」で確認してください。 -
数値目標の設定・検証
Before/After の数字を根拠データとセットで用意する。根拠データは業務日報・売上台帳・在庫管理記録など自社が保有するデータで構いません。
Phase 3:申請・採択
-
申請書の提出
jGrants(国の制度)または各制度の申請フォーム・郵送で提出。締切当日の駆け込み申請は不備が多くなりがちなため、1週間前を目標に提出準備を完了させる。 -
採択通知の受領
審査期間は制度によって2〜4週間程度。採択通知が来ても、この時点ではまだ発注・契約をしてはいけません。
Phase 4:交付申請・交付決定
-
交付申請の提出
採択後に「交付申請書」を提出します。内容が採択申請と大きく乖離していると再審査・不承認になる場合があります。 -
交付決定通知の受領
この通知が届いたら初めて発注・契約が可能になります。
Phase 5:事業実施・実績報告・補助金交付
-
システム・設備の導入・支払い
交付決定日以降に発注・支払いを行います。補助金は後払い(先払いして後から振り込まれる)なので、一時的な資金繰りに注意してください。 -
実績報告書の提出
事業完了後に実績報告書と証拠書類(契約書・請求書・振込明細等)を提出します。 -
補助金の交付
実績報告の審査後、補助金が指定口座に振り込まれます。
制度の組み合わせで負担をさらに圧縮する
「1つの事業に2つの補助金を使えるか」という質問をよく受けます。同一の補助対象経費に複数の補助金を使うことは原則禁止(二重計上禁止)です。ただし以下のような組み合わせは可能です。
| 組み合わせ | 可否 | ポイント |
|---|---|---|
| ①収益力向上補助金DX枠 + ③デジタル化・AI導入補助金 | 条件付き可 | 対象経費が重複しない(システムAは①、システムBは③)ように設計する |
| ④省力化投資補助金 + ⑤人材開発支援助成金 | 可 | 設備費は④、研修費は⑤。経費が明確に分離されているためOK |
| ③デジタル化・AI導入補助金 + ⑤人材開発支援助成金 | 可 | ツール導入費は③、社員研修費は⑤で対応 |
| ①収益力向上補助金 + ④省力化投資補助金(同一経費) | 不可 | 同一設備費への二重申請は規則違反 |
「どの経費をどの制度で賄うか」の設計が重要です。計画段階から補助金ごとの経費区分を明確にしておくことで、後で申請不備になるリスクを避けられます。
よくある質問(FAQ)
Q1: 静岡県の収益力向上補助金は経営革新計画がないと申請できませんか?
いいえ、経営革新計画がなくても申請できます。「自社にとって新たな事業」として収益力・生産性向上を図るデジタル技術活用事業であれば、自社新規事業ルートで申請できます。ただし、事業の新規性と数値目標の説得力が採否に影響します。不安な方は公募開始前に静岡県産業振興財団の相談窓口に連絡することをすすめます。
Q2: 農業法人や漁業法人は静岡県の補助金を申請できますか?
収益力向上補助金の対象者は「中小企業者等」であり、農業・漁業を営む法人も対象に含まれる場合があります。ただし業種や法人形態によって要件が異なるため、公募要領の「対象者の定義」を確認するか、静岡県産業振興財団に事前に問い合わせてください。農協・漁協の場合は組合員向けの別制度が適用される可能性があります。
Q3: 浜松市内の企業は「静岡市デジタル活用事業補助金」を申請できますか?
申請できません。静岡市の補助金は静岡市内に主たる事業所を置く事業者が対象です。浜松市の事業者は浜松市独自の補助金(「浜松市中小事業者等デジタル化支援事業費補助金」等)をご確認ください。令和8年度の浜松市独自制度の詳細は浜松市産業振興課(053-457-2303)にお問い合わせください。
Q4: デジタル化・AI導入補助金の「通年公募」とはどういう意味ですか?
「通年公募」とは、1年を通じて複数回の締切(第N次)が設けられており、いずれかの締切に合わせて申請できる仕組みです。通常、1〜2ヶ月に1回の頻度で締切が設定されます。ただし、締切を逃すと次の締切まで待つことになるため、「次の締切はいつか」を事務局ポータル(it-shien.smrj.go.jp)で定期的に確認することをすすめます。
Q5: 補助金申請の書類作成を代行してもらえますか?
補助金申請書の作成代行は行政書士の独占業務です。当サイト(補助金ナビ)では申請代行は行いません。ただし、AI導入の計画策定・DX戦略の立案については、株式会社Uravationがお手伝いできます。「どの制度が自社に合うか分からない」「事業計画の骨子を一緒に考えたい」という場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。
Q6: 人材開発支援助成金は「採択」という審査がありますか?
人材開発支援助成金は「助成金」のため、補助金のような審査選考(採択)はありません。要件(雇用保険適用事業所であること、訓練計画の事前届出など)を満たしていれば原則として受給できます。ただし、書類不備や要件未達の場合は不支給になります。申請前にハローワーク(管轄の静岡労働局各所)に相談することを強くすすめます。
静岡県で補助金を使うなら、今月やるべき3つのこと
- 今すぐ確認:GビズIDプライムの取得状況を確認し、未取得なら即申請してください(取得に1〜2週間かかります)。静岡県産業振興財団の第2次公募(2026年6月30日締切)を狙うなら今週中に動くことが必要です。
- 今週中:自社が「県の収益力向上補助金」「静岡市デジタル活用補助金」「国のデジタル化・AI導入補助金」「省力化投資補助金」のどれに最も合致するかを、上記の早見表と自社の投資規模・業種で絞り込む。
- 今月中:直近2〜3期の決算書から付加価値額を計算し、県補助金の数値目標が設定できるかを確認する。あわせて、お問い合わせフォームからAI導入の計画策定についてご相談ください。
あわせて読みたい:
- GビズID登録の完全ガイド:申請の第一歩を画像付きで解説
- AI導入に使える補助金5選 徹底比較:全国の主要補助金を横断比較
免責事項
本記事の情報は2026年6月6日時点の各省庁・事務局・自治体の公表資料に基づく参考情報です。補助金・助成金の制度内容・公募期間・補助率・上限額は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず各制度の公式サイトおよび最新の公募要領をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
参考・出典
- 令和8年度 中小企業等収益力向上(賃上げ環境整備)事業費補助金について——公益財団法人 静岡県産業振興財団(参照日:2026-06-06)
- 【補助金】「令和8年度 中小企業等収益力向上(賃上げ環境整備)事業費補助金」の募集について——オープンイノベーション静岡(参照日:2026-06-06)
- 中小企業等デジタル活用事業補助金——静岡市 産業振興課(参照日:2026-06-06)
- デジタル化・AI導入補助金2026 公式ポータルサイト——中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局(参照日:2026-06-06)
- 中小企業省力化投資補助金(一般型)公式サイト——省力化投資補助金事業事務局(参照日:2026-06-06)
- 人材開発支援助成金——厚生労働省(参照日:2026-06-06)
- 中小企業等収益力向上事業費補助金(通常枠及びDX推進枠)——静岡県 産業振興局(参照日:2026-06-06)
