パートやアルバイトを含めて、社内で一番低い時給を50円以上引き上げる。それに合わせてPOSレジや送迎用のリフト付き車両、業務システムなどを入れる——この2つをセットで計画すると、設備投資にかかった費用の最大4/5が国から戻ってきます。これが厚生労働省の業務改善助成金です。令和8年度(2026年度)は90円コースで助成上限最大600万円まで設定されています。
使えるのは、事業場内最低賃金が令和8年度の地域別最低賃金を上回っていない中小企業・小規模事業者。最低賃金の引き上げが毎年続くいま、「どうせ賃金を上げるなら、設備投資の費用も取り戻したい」という会社にとって、知らないと損をする制度です。ただし令和8年度は申請の受付期間が大きく変わり、令和8年9月1日からの短期受付になりました。ここを外すと1年待つことになります。
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令和8年度に戻ってくる金額——コース別の助成上限額
業務改善助成金は「いくら賃金を上げるか(引上げ額)」と「何人の賃金を上げるか(引上げる労働者数)」の組み合わせで助成上限額が決まります。令和8年度は50円・70円・90円の3コース体制です。令和7年度まであった30円コース・45円コースは廃止され、最低でも50円の引き上げが必要になった点が最大の変更です。
下表は厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」(令和8年4月版)の助成上限額です。「事業場規模30人未満の事業者」は上限が優遇される区分があります。
| コース (引上げ額) |
引き上げる 労働者数 |
上限額 (30人以上) |
上限額 (30人未満) |
|---|---|---|---|
| 50円 コース |
1人 | 30万円 | 40万円 |
| 2〜3人 | 40万円 | 70万円 | |
| 4〜5人 | 70万円 | 70万円 | |
| 6〜7人 | 90万円 | 90万円 | |
| 8人以上 | 110万円 | 110万円 | |
| 10人以上※ | 130万円 | 130万円 | |
| 70円 コース |
1人 | 40万円 | 50万円 |
| 2〜3人 | 50万円 | 100万円 | |
| 4〜5人 | 130万円 | 130万円 | |
| 6〜7人 | 180万円 | 180万円 | |
| 8人以上 | 230万円 | 230万円 | |
| 10人以上※ | 300万円 | 300万円 | |
| 90円 コース |
1人 | 90万円 | 100万円 |
| 2〜3人 | 150万円 | 240万円 | |
| 4〜5人 | 270万円 | 270万円 | |
| 6〜7人 | 360万円 | 360万円 | |
| 8人以上 | 450万円 | 450万円 | |
| 10人以上※ | 600万円 | 600万円 |
※「10人以上」の上限額区分は、後述する特例事業者が10人以上の労働者の賃金を引き上げる場合に対象となります。
助成率は、引き上げ前の事業場内最低賃金の水準で2段階に分かれます。
| 引上げ前の事業場内最低賃金 | 助成率 |
|---|---|
| 1,050円未満 | 4/5 |
| 1,050円以上 | 3/4 |
令和7年度まで「1,000円未満」だった高い助成率(4/5)の基準が、令和8年度は「1,050円未満」に引き上げられました。最低賃金の全国的な上昇に合わせて、より多くの事業場が4/5の対象に入るよう調整されています。なお、令和5年度などに一部であった補助率9/10といった高率区分は現行制度にはありません。「最大でも4/5」と覚えておくのが正確です。
もう一点、令和7年度に廃止された変更を確認しておきましょう。かつては「過去3年度の付加価値が年6%以上向上した事業場」であれば助成率を上乗せする生産性要件がありました。複雑な計算書の作成が負担でしたが、令和7年度にこの要件は廃止され、令和8年度も廃止が継続しています。申請時に付加価値向上の証明書類を準備する必要はなく、シンプルに「事業場内最低賃金の水準」だけで助成率が決まります。
実際にいくら出るのか——計算の考え方
助成額は「設備投資などにかかった費用 × 助成率」と「コース別の助成上限額」を比べて、安いほうの金額になります。両方の上限にぶつかるイメージです。厚生労働省のリーフレットに載っている計算例で見てみましょう。
- 事業場内最低賃金が1,040円 → 助成率は4/5
- 8人の労働者を1,130円まで引き上げ(90円コース)→ 助成上限額は450万円
- 設備投資などの額は600万円
このとき「600万円 × 4/5 = 480万円」と「90円コースの上限450万円」を比べ、安いほうの450万円が支給されます。設備に600万円かけても、上限額の壁で450万円が天井になる、という関係です。逆に言えば、上限いっぱいまで取りに行くなら「引き上げる人数」と「設備投資額」のバランス設計が肝になります。
ここで一番大事な注意点を1つ。業務改善助成金は後払いです。先に賃金を上げて設備を導入し、代金を支払い、実績を報告したあとに振り込まれます。「申請したらすぐもらえる」制度ではないので、資金繰りは自己資金や融資で先に回す前提で計画してください。
対象になる経費——AI・DX投資はどこまで使えるか
助成の対象は「生産性向上に資する設備投資等」です。賃上げの原資を生み出すための投資、という建て付けなので、単なる備品買い替えではなく「これで生産性が上がる」と説明できるものが対象になります。厚生労働省が挙げている対象経費の例は次のとおりです。
| 経費区分 | 対象経費の例(公式リーフレット) |
|---|---|
| 機器・設備の導入 | POSレジシステム導入による在庫管理の短縮/リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮 |
| 経営コンサルティング | 国家資格者による、顧客回転率の向上を目的とした業務フロー見直し |
| その他 | 顧客管理情報のシステム化 |
AI・DXの文脈で言えば、在庫や需要を予測するシステム、AI-OCRによる帳票自動読み取り、予約・顧客管理のシステム化などは「顧客管理情報のシステム化」「生産性向上に資する設備投資」として組み立てやすい領域です。ただし、何が対象として認められるかは事業場の状況と計画の説明次第なので、迷う経費は申請前に管轄の労働局へ確認するのが確実です。
注意したいのが、パソコン・スマホ・タブレットは原則として対象外という点です。汎用性が高い端末は通常対象になりません。例外として、後述する「物価高騰等要件」に該当する特例事業者に限り、PC・スマホ・タブレット等の新規導入も対象に加わります。
また令和8年度(令和7年度からの変更)で、これまで対象になっていた自動車(特殊用途自動車を除く)が助成対象外になりました。送迎などで車両を考えている場合、リフト付き特殊車両のような「特殊用途」に当たるかどうかがポイントになります。
特例事業者なら上限も対象経費も広がる
次の要件に当てはまる事業者は「特例事業者」として扱われ、助成上限額の優遇(前掲表の10人以上区分など)を受けられます。
- 賃金要件:申請事業場の事業場内最低賃金が1,050円未満である事業者
- 物価高騰等要件:原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、申請前最近6か月間平均の利益率が前年同期と比べて3%ポイント以上低下している事業者
このうち②の物価高騰等要件に該当する場合は、助成対象経費が拡充され、通常は対象外のPC・スマホ・タブレット等の端末も新規導入なら対象になります。物価高で利益が削られている会社ほど、デジタル投資の幅が広がる設計です。
なお令和8年度は、物価高騰等要件の利益率の見方が「最近3か月間のうち任意の1月」から「最近6か月間平均」に変わりました。一時的に落ち込んだ1か月で判定する形ではなくなったので、申告書を作るときは直近6か月をならして計算します。
うちは対象?——申請の前提条件
申請できるのは、次をすべて満たす事業者です。「事業所(工場や事務所などの労働者がいる単位)ごと」に申請する点に注意してください。本社と工場が別なら、別々に申請します。
- 中小企業・小規模事業者であること(大企業と密接な関係を有する「みなし大企業」でないこと)
- 事業場内最低賃金が、令和8年度の地域別最低賃金を上回っていない(=地域別最低賃金未満)であること
- 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと
「賃金を引き上げる対象労働者」にも条件があります。令和8年度(令和7年度からの変更)で、引き上げの対象労働者は週所定労働時間20時間以上の雇用保険被保険者であることが要件になりました。雇用保険に入っていない短時間のパートだけを引き上げても、引上げ人数にカウントされない点に気をつけてください。
「引き上げる労働者数」の数え方も独特です。事業場内最低賃金そのものの労働者に加え、その人の賃金を引き上げた結果、賃金額が追い抜かれる労働者も——申請コースと同額以上(70円コースなら70円以上)を引き上げていれば——カウントできます。逆に、引き上げ後の事業場内最低賃金額を最初から上回っている人や、コース額未満しか上げない人はカウントできません。ここは申請額に直結するので、人数の数え方を間違えないようにしましょう。
令和8年度の申請スケジュール——9月1日からの短期勝負
令和8年度で最も注意すべきは申請期間です。令和7年度までの「通年募集」から、短期集中型に変わりました。
| 項目 | 令和8年度の内容 |
|---|---|
| 申請期間 | 令和8年9月1日〜 (申請事業所の都道府県で適用される地域別最低賃金の発効日の前日 または 同年11月30日 のいずれか早い日) |
| 賃金引上げ期間 | 令和8年9月1日〜 申請事業所に適用される地域別最低賃金発効日の前日 |
| 事業完了期限 | 交付決定年度の1月31日 (やむを得ない理由がある場合は延長の取扱いあり) |
つまり、多くの地域では10月に新しい地域別最低賃金が発効するため、その発効日の前日までに賃金引き上げを完了させ、それまでに申請を済ませる必要があります。たとえば10月1日に新しい地域別最低賃金(1,040円→1,090円)が発効する地域なら、9月30日までに事業場内最低賃金の引き上げ(例:1,045円→1,100円)を完了し、就業規則等にもその額を定めておく、という段取りです。発効日当日に引き上げを実施しても対象外になるので、「前日まで」がデッドラインだと覚えてください。
さらに予算の範囲内で交付するため、申請期間内でも募集を終了する場合があります。「11月末まであるから」と油断せず、計画が固まったら早めに動くのが安全です。
申請から助成金受領までの流れ
業務改善助成金はjGrants(電子申請)ではなく、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局(雇用環境・均等部/室)に所定の様式で交付申請を行います。流れは次のとおりです。
- 交付申請:交付申請書・事業実施計画書(賃金引上げ計画と設備投資等の計画)を都道府県労働局に提出
- 交付決定:労働局が申請内容を審査し、交付決定を通知
- 事業の実施:交付決定後、計画に沿って賃金の引上げ・設備の導入・代金の支払を行う
- 事業実績報告:事業完了後、実績報告書と助成金支給申請書を労働局に提出
- 交付額の確定・支払:報告内容を審査し、適正と認められれば交付額を確定して助成金を支払
- 助成金の受領:指定口座に助成金が振り込まれる(後払い)
研修費を助成する人材開発支援助成金や、休業時に使う雇用調整助成金と違い、業務改善助成金は「賃上げ+設備投資」という前向きな投資に対する助成です。目的が違うので、自社の状況に合った制度を選びましょう。
よくある不備で対象外になるケース
業務改善助成金で「これで落ちた」「対象外になった」という典型的な失敗を、❌(NG)と⭕(OK)で整理します。
失敗1:交付決定の前に設備を発注・導入してしまう
❌ 計画ができた段階で、先にPOSレジや車両を発注して導入する
⭕ 労働局からの交付決定通知を受け取ってから発注・契約・導入する
交付決定前に導入した設備は一切対象になりません。これは公式リーフレットでも赤字で強調されている、最も多い失敗です。
失敗2:地域別最低賃金の発効日「当日」に賃金を引き上げる
❌ 新しい地域別最低賃金の発効日当日に事業場内最低賃金を引き上げる
⭕ 発効日の前日までに引き上げを完了し、就業規則等にも定める
1日ズレるだけで対象外です。発効日が読みにくい地域では、余裕を持ったスケジュールを組みましょう。
失敗3:賃金を複数回に分けて引き上げる
❌ 「まず30円、あとで20円」のように分割して引き上げる
⭕ コースの引上げ額(50円なら50円以上)を一度に引き上げる
複数回に分けての事業場内最低賃金の引き上げは認められていません。
失敗4:雇用保険に入っていない労働者だけで人数を数える
❌ 週20時間未満・雇用保険なしのパートの賃金だけ上げて「3人引き上げた」と申請
⭕ 週所定労働時間20時間以上の雇用保険被保険者を対象に人数を数える
令和8年度から対象労働者の要件が明確になりました。人数の数え方は申請額に直結します。
まとめ:令和8年度の業務改善助成金で今やるべきこと
業務改善助成金は、最低賃金の引き上げが避けられないいま、「どうせ上げる賃金」を設備投資の費用回収につなげられる数少ない制度です。令和8年度は3コース体制(50/70/90円)・助成率最大4/5・上限最大600万円、そして9月1日からの短期受付がポイントでした。最後に、今日から動くための具体的なアクションを整理します。
- 今すぐ:自社の事業場内最低賃金(一番低い時給)と、地域別最低賃金との差を確認する。1,050円未満なら助成率4/5の対象
- 今月中:賃上げと同時に入れたい設備投資(POS・予約/顧客管理システム・特殊用途車両等)を洗い出し、「これで生産性がどう上がるか」を数字で書き出す
- 9月1日の受付開始前まで:厚生労働省の最新の交付要綱・要領で要件を確認し、管轄の都道府県労働局へ事前に相談しておく(予算枠で早期終了の可能性があるため)
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免責事項
本記事の情報は2026年6月21日時点の厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」(令和8年4月版)等の公表資料に基づく参考情報です。助成金の制度内容(上限額・助成率・コース・申請期間・対象経費・要件)は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず厚生労働省「業務改善助成金」公式サイトの最新の交付要綱・要領をご確認のうえ、管轄の都道府県労働局(業務改善助成金コールセンター 0120-366-440)へご相談ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。なお、業務改善助成金の申請書作成代行は行政書士の業務であり、当社が提供するのはAI導入のコンサルティング・研修です。
参考・出典
- 令和8年度業務改善助成金のご案内(リーフレット・令和8年4月版) — 厚生労働省(参照日: 2026-06-14)
- 業務改善助成金 — 厚生労働省(参照日: 2026-06-14)
- 最低賃金特設サイト — 厚生労働省(参照日: 2026-06-14)
- 業務改善助成金のご案内 — 福岡労働局(参照日: 2026-06-14)
