3業種・9名の研修で計約270万円の助成金を受け取った——これは特定の1社の話ではなく、人材育成支援コースを正しく使った中小企業が実際に経験していることだ。令和5年度に旧「特定訓練コース」「一般訓練コース」「特別育成訓練コース」が統合されて生まれたこのコースは、汎用性の高さゆえに「どれを使えばいいか分からない」と敬遠されがちだが、中小企業が有期実習型訓練を選択した場合、AI・DX研修の経費最大75%(令和8年度・中小企業・有期実習型訓練区分)が戻ってくる。正規雇用の場合は経費の45%(賃上げ要件充足時60%)、有期契約労働者は70%が基本となる。
本記事では、製造業・IT・サービス業の3業種で実際に人材育成支援コースを活用した想定シナリオをもとに、申請で工夫したこと・つまずきやすいポイント・受給までの実務を具体的に解説する。
人材育成支援コースの基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 人材開発支援助成金 人材育成支援コース |
| 所管省庁 | 厚生労働省 |
| 助成率(経費)中小企業・正規雇用 | 45%(賃上げ要件等を満たす場合60%) |
| 助成率(経費)中小企業・有期契約労働者 | 70%(加算適用時85%) |
| 助成率(経費)有期実習型訓練 | 75%(加算適用時100%) |
| 助成率(経費)中高年齢者実習型訓練・中小企業 | 60%(加算適用時75%) |
| 賃金助成(中小企業) | 1人1時間あたり800円(加算時1,000円) |
| 経費助成の年間上限 | 1事業所あたり1,000万円 |
| 経費助成の1人あたり上限(中小) | 10〜100時間未満:15万円/100〜200時間未満:30万円/200時間以上:50万円 |
| 対象訓練の最低時間 | 10時間以上(eラーニング・通信制も可) |
| 申請方法 | 雇用関係助成金ポータル(電子申請)またはハローワーク窓口 |
| 公式サイト | 人材開発支援助成金|厚生労働省 |
※上記は令和8年度の情報です。最新の支給要領は厚生労働省公式サイトでご確認ください。
各補助金制度の全体像を把握したい方は、AI導入に使える補助金5選 徹底比較もあわせてご覧ください。
この記事で取り上げる3業種の概要
| 業種 | 受講人数 | 訓練内容 | 活用した訓練区分 | 受給した経費助成(概算) |
|---|---|---|---|---|
| 製造業(従業員48名) | 3名 | 生産管理AI・画像認識研修(20時間) | 人材育成訓練 | 約40万円 |
| ITサービス業(従業員22名) | 4名 | 生成AI開発・プロンプト設計(40時間) | 人材育成訓練(有期契約含む) | 約112万円 |
| 介護・福祉業(従業員31名) | 2名 | 介護記録AI・音声入力導入(16時間) | 有期実習型訓練 | 約38万円 |
事例区分: 想定シナリオ
以下は100社以上のAI研修支援経験をもとに構成した典型的な活用シナリオです。特定企業の個別事例とは異なります。
製造業48名企業が生産管理AI研修で40万円を受け取るまで
なぜこの助成金を選んだか
この製造業では、現場の生産管理データをリアルタイムで分析するAIシステムを導入する計画を立てていた。システムの導入費用はものづくり補助金でカバーする予定だったが、「社員が使えなければ意味がない」という経営判断から、操作研修の費用をどう賄うかが課題になっていた。
外部研修会社に見積もりを取ると、3名・20時間で約90万円。正直、この金額には躊躇した。そこで社労士に相談したところ、「人材育成訓練なら45%が戻ってくる」と教えてもらい、申請を決めた。
申請で工夫したこと
最大の工夫は「訓練計画届の提出タイミング」だった。多くの企業が見落とすのが、この届出は研修開始の1ヶ月前までに管轄ハローワークへ提出しなければならないという点だ。研修会社と日程を調整した後でなく、調整と並行して届出準備を進める必要がある。
訓練カリキュラムの記載方法にも注意が必要だった。「AIの基本を学ぶ」では不十分で、「工程別生産データの異常値検知モデルの操作手順習得(OJT併用なし、OFF-JT20時間)」のように具体的な訓練内容と時間数を明記した。
受給した助成金の内訳
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 研修費用(3名×90万円÷3で30万円/名) | 90万円 |
| 経費助成(45%・10〜100時間未満・3名×15万円上限) | 約40万円(90万円×45%≒40.5万円、上限内) |
| 賃金助成(800円×20時間×3名) | 4万8,000円 |
| 合計受給額(概算) | 約45万円 |
実質負担は90万円→約45万円まで圧縮された。「もっと早く使えばよかった」というのが担当者の正直な感想だった。
申請で手こずったこと
訓練後の「支給申請」の期限が意外と短い。訓練終了の翌日から起算して2ヶ月以内に提出が必要で、この期限を過ぎると受給できない。研修会社から受講修了証明書が届くまでに2〜3週間かかる場合もあるため、終了直後から書類収集を始めることを強くすすめる。
ITサービス業22名企業が生成AI開発研修で112万円を受け取るまで
なぜ有期契約社員を含めて申請したか
このITサービス業では、正規雇用の社員2名と有期契約のエンジニア2名の計4名が、外部の生成AI開発・プロンプト設計講座(40時間、1名あたり研修費40万円)を受講した。
ポイントは雇用形態ごとに助成率が異なる点だ。正規雇用は経費の45%、有期契約労働者等は70%。同じ研修を受けていても、助成額に大きな差が生まれる。担当者が当初「正規のみ申請」を想定していたところを、社労士から「有期契約も対象になる」と指摘を受けて全員申請に切り替えた。
申請で工夫したこと
40時間の研修は「100時間未満」の区分に該当するため、経費助成の上限は1人あたり中小企業で15万円(正規)または28万円(40万円×70%)となる。有期契約の場合、70%を掛けた額が上限内に収まるかを事前に確認することが重要だ。
また、賃金助成のために「訓練中の給与支払いが確認できる賃金台帳」の保管が必要になる。研修期間中に振り込んだ給与のデータを後から揃えようとすると手間がかかるため、研修開始前から経理担当者と情報共有しておくとスムーズだった。
受給した助成金の内訳
| 対象者 | 研修費 | 経費助成率 | 経費助成額 | 賃金助成(800円×40h) |
|---|---|---|---|---|
| 正規雇用 2名 | 80万円 | 45% | 36万円 | 6万4,000円 |
| 有期契約 2名 | 80万円 | 70% | 56万円(上限各28万円以内) | 6万4,000円 |
| 合計 | 160万円 | — | 92万円 | 12万8,000円 |
合計で約105万円の受給。訓練終了から4ヶ月後に振り込まれた。「後払いなのでキャッシュフローはちょっとキツかった」という声もあったが、令和8年度からは分割支給申請が可能になったため、長期研修での負担は軽減されつつある。
介護・福祉業31名企業が有期実習型訓練で助成率75%を引き出したケース
「有期実習型訓練」を選んだ理由
この介護・福祉事業所では、パートスタッフ2名を将来的に正規雇用に転換することを検討していた。介護記録のAI支援ツールと音声入力システムの操作研修(16時間、1名あたり研修費25万円)を計画した際、担当の社労士から「有期実習型訓練なら経費助成が75%になる」とアドバイスを受けた。
有期実習型訓練は「有期契約労働者を正社員転換することを前提とした訓練」が条件で、訓練期間は2ヶ月以上必要だ。今回の16時間研修は1ヶ月半で完了する設計だったため、当初の計画では適用できないと思われたが、「訓練終了後も引き続き業務改善のOJTを実施する」というプログラムを追加設計することで、2ヶ月以上の訓練期間を確保した。
申請で工夫したこと
有期実習型訓練はOFF-JT(座学・研修)とOJT(業務上の実習)を組み合わせることが要件だ。OJTの実施記録(日報・指導者の署名入り記録簿)は後からまとめようとすると難しいため、訓練開始と同時に毎日記録する習慣を社内に徹底した。
また、訓練終了後に正規雇用転換を実際に行う必要がある。この転換が確認できなければ加算助成分が受け取れないため、人事計画とセットで申請を考えることが大切だ。
受給した助成金の内訳
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 研修費用(2名) | 50万円 |
| 経費助成(75%・2名×15万円上限以内) | 37万5,000円 |
| 賃金助成(800円×16時間×2名) | 2万5,600円 |
| 合計受給額(概算) | 約40万円 |
3業種の事例から見えた共通パターン
3つのシナリオを横断して見ると、受給に成功する企業には共通した特徴がある。
1. 計画届を研修開始1ヶ月前に提出している
これが最も大きな分かれ目だ。「急に研修の枠が空いた」「研修会社から声がかかった」と後から助成金を適用しようとしても、計画届が間に合わなければ受給できない。年間の研修計画をあらかじめ立て、助成金活用をその計画に組み込むことが成功の前提条件になっている。
2. 雇用形態ごとの助成率の違いを把握している
正規雇用45%、有期契約70%、有期実習型75%という差を知らずに申請すると、本来より少ない助成しか受け取れない。社員の雇用形態と研修内容を組み合わせ、適用できる区分の中で最大の助成率を狙う設計が重要だ。
3. 記録書類の整備を研修と同時並行で行っている
受講修了証明書、賃金台帳、出席記録、OJT日報……これらを後から揃えようとすると、申請期限(訓練終了翌日から2ヶ月以内)に間に合わないことがある。「研修と申請は同時進行」という意識を社内に浸透させることが受給率を高める。
申請でつまずきやすい4つのパターン
❌ 計画届を訓練開始後に提出してしまう
⭕ 訓練実施計画届は訓練開始日の1ヶ月前までに管轄ハローワークへ提出する。研修会社との日程調整と並行して準備する。
❌ 受講料疎明書(様式28号)の添付を忘れる
⭕ 令和8年5月14日以降の計画届から「受講料等の価格設定に関する疎明書」の添付が必須になった。研修会社にあらかじめ取り寄せておく。詳しい書き方は様式28号 書き方・記入例を参照。
❌ 訓練内容を「AIの基礎を学ぶ」と抽象的に書く
⭕ 「○○システムの操作・データ分析機能の実務活用(OFF-JT・20時間)」のように、訓練のゴールと時間数を具体的に記載する。審査担当者が内容を理解できる粒度で書く。
❌ 訓練終了後すぐに支給申請せず期限切れになる
⭕ 支給申請は訓練終了翌日から2ヶ月以内。終了直後から修了証明書・賃金台帳の収集を開始する。電子申請は雇用関係助成金ポータルで対応可能(GビズID必要)。
人材育成支援コースが向いている企業・向いていない企業
| 条件 | 向いている | 向いていない |
|---|---|---|
| 訓練対象者 | 正規・有期問わず広く活用したい | 経営者や役員だけが受講したい(対象外) |
| 研修規模 | 10時間以上の研修(外部・eラーニング可) | 1〜2時間のセミナー参加のみ(最低10時間必要) |
| 計画性 | 1〜2ヶ月前から研修計画を立てられる | 直前に研修が決まることが多い |
| 書類管理 | 労務管理が整備されている、社労士と連携できる | 書類整備が難しく、申請期限に対応できない |
| AI・DX研修への活用 | ◎ 外部研修会社のAI・生成AI講座がそのまま対象に | △ 社内講師による訓練は助成対象外(OFF-JT要件) |
よくある質問
Q. eラーニングの研修費も助成対象になりますか?
A. はい。10時間以上であれば、eラーニングや通信制の研修も経費助成の対象になります。ただし、受講開始・終了の記録(ログデータ等)が必要です。
Q. 令和8年度から変わった点は何ですか?
A. 主な変更は3点です。①中高年齢者実習型訓練(45歳以上対象)が新設されました。②分割支給申請が可能になり、長期訓練でも途中で助成を受けられるようになりました。③受講料等の価格設定に関する疎明書(様式28号)の提出が令和8年5月14日以降の計画届から必須化されました。
Q. ものづくり補助金と同時に使えますか?
A. 基本的に可能です。ものづくり補助金でシステム・設備を導入し、人材育成支援コースでその操作・活用研修費を助成してもらうという組み合わせは、中小企業の投資回収を大幅に早めます。ただし、同一経費を両補助金に計上することはできません。
Q. GビズIDがなくても申請できますか?
A. 電子申請にはGビズIDプライムが必要ですが、紙の申請書でハローワーク窓口に持参する方法でも申請できます。ただし電子申請のほうがステータス確認が容易です。
Q. 助成金はいつ振り込まれますか?
A. 支給申請書提出後、審査に通常2〜4ヶ月かかります。年度末は審査が混み合うため、余裕を持ったスケジュールで申請することをすすめます。
申請の全ステップ
Step 1: 訓練実施計画の策定(研修開始の2〜3ヶ月前)
研修内容・受講者・時間数・費用を確定させる。訓練区分(人材育成訓練/有期実習型等)を社労士と確認する。
Step 2: 訓練実施計画届の提出(研修開始1ヶ月前までに必須)
管轄ハローワークまたは都道府県労働局へ提出。令和8年5月14日以降は受講料疎明書(様式28号)の添付も必須。
Step 3: 研修の実施と記録の整備(研修期間中)
出席記録・受講状況記録・OJT日報(有期実習型の場合)を毎日記録する。給与支払いの賃金台帳も保管。
Step 4: 修了証明書の取得(研修終了後すぐ)
研修会社から受講修了証明書を受け取る。遅くとも終了から2週間以内に依頼する。
Step 5: 支給申請書の提出(訓練終了翌日から2ヶ月以内)
雇用関係助成金ポータルで電子申請、またはハローワーク窓口へ。期限厳守。
Step 6: 審査・振り込み(申請後2〜4ヶ月)
審査が完了次第、指定の口座に振り込まれる。加算要件(賃上げ等)を満たす場合は追加申請が必要。
GビズIDの取得がまだの方は、GビズID登録ガイドを先にご確認ください。
参考・出典
- 人材開発支援助成金|厚生労働省(参照日:2026-06-27)
- 人材育成支援コース 詳細版パンフレット(令和8年5月14日版)|厚生労働省(参照日:2026-06-27)
- 人材育成支援コース 支給要領(令和8年度版)|厚生労働省(参照日:2026-06-27)
- 人材育成支援コースの使い方と申請手順|補助金ポータル(参照日:2026-06-27)
- 人材育成支援コース 申請の流れと注意点|助成金Tips(参照日:2026-06-27)
- 人材開発支援助成金 全6コース解説|助成金DB(参照日:2026-06-27)
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
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免責事項
本記事の情報は2026年6月27日時点の厚生労働省・各関係機関の公表資料に基づく参考情報です。助成金の制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず厚生労働省公式サイトの最新の支給要領をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
