後継者が見つからない小規模事業者にとって、M&Aによる第三者への事業譲渡は現実的な選択肢だ。ところが、仲介会社やFAへの手数料が数百万円にのぼることもあり、「お金がないから相談にも行けない」という声は少なくない。
その壁を下げるべく、2026年の第15次公募から専門家活用枠に新たな類型が追加された。「小規模売り手支援類型」だ。仲介・FA費用を補助率2/3で、最大450万円まで補助する仕組みで、申請受付は2026年7月24日(金)17時まで——つまり今日から約6週間しかない。
制度の全貌、既存類型との違い、申請フロー、よくある落とし穴まで、この記事で一気に整理する。
「小規模売り手支援類型」が生まれた背景
中小企業の廃業問題は深刻で、経営者の高齢化と後継者不足が重なり、技術や雇用が失われ続けている。M&Aによる第三者承継は有効な解決策だが、長らく「大企業向けの手法」というイメージが拭えなかった。
その主因のひとつが費用だ。M&A仲介会社の報酬体系は「レーマン方式」(譲渡金額の数%)が主流で、着手金だけで100万円以上、成功報酬は数百万円に達するケースも珍しくない。売却金額自体が小さい小規模事業者にとっては、「手数料を払ったら手元にほとんど残らない」という状況になりうる。
事業承継・M&A補助金はもともと「専門家活用枠」の売り手支援類型として、こうした費用の補助を行ってきた。しかし従来の類型は中小企業全般を対象としており、小規模事業者の実態に十分マッチしていない面があった。第15次公募で「小規模売り手支援類型」として独立した背景には、こうした課題認識がある。
第15次公募「小規模売り手支援類型」の基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 事業承継・M&A補助金 専門家活用枠【小規模売り手支援類型】 |
| 公募回 | 第15次公募(令和7年度補正予算) |
| 所管 | 中小企業庁(事務局:中小機構) |
| 補助率 | 補助対象経費の2/3以内 |
| 補助上限額 | 450万円(単独申請)/廃業・再チャレンジ枠との併用申請時は小規模売り手支援類型分が150万円 |
| 補助下限額 | なし |
| M&A不成立時 | 補助上限が50万円に減額 |
| 対象者 | 小規模事業者等(業種別従業員数要件あり)の売り手のみ |
| 申請受付期間 | 2026年6月19日(金)〜7月24日(金)17:00 |
| 採択発表(予定) | 2026年9月中旬 |
| 公式サイト | 事業承継・M&A補助金(令和7年度補正) |
※ 上記は2026年5月22日に公表された第15次公募情報に基づく参考情報です。最新情報は公式サイトでご確認ください。
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対象となる小規模事業者の要件
この類型は「小規模事業者等」の売り手に限定されている。買い手は対象外だ。
業種別の従業員数要件
| 業種 | 従業員数(常時使用する従業員) |
|---|---|
| 製造業・その他 | 20人以下 |
| 商業(卸売業・小売業)・サービス業 | 5人以下 |
| 宿泊業・娯楽業 | 20人以下 |
法人・個人事業主のどちらも対象となる。法人は3期分の決算が完了していること、個人事業主は開業から5年以上が経過していることが求められる。
「他の類型との重複申請はできない」
同一公募回での複数類型への重複申請は認められない。また、過去の公募で同じ取り組みについて既に採択を受けている場合も原則として対象外となる。
補助対象となる経費の範囲
「仲介手数料さえ対象になればいい」という方は、以下の表で対象経費をチェックしてほしい。
| 費用の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 委託費 | FA・M&A仲介業者への着手金、中間金、成功報酬、企業価値算定費用、デュー・ディリジェンス費用 |
| 謝金 | 士業・大学教授等の専門家への相談謝礼 |
| 旅費 | M&A関連の国内出張費(日当・交通費・宿泊費)※上限あり |
| 外注費 | IM(企業概要書)作成、財務資料整備など |
| システム利用料 | マッチングサイトの利用料、M&A支援プラットフォーム費用 |
| 保険料 | 表明保証保険に係る保険料 |
| 廃業費(廃業併用申請時) | 廃棄費、解体費、原状回復費、リース解約費 等 |
「M&A支援機関登録制度」への登録が必須
FA・仲介費用を補助対象とする場合、利用する業者がM&A支援機関登録制度の登録事業者であることが要件だ。未登録の業者に支払った費用は補助対象にならないため、必ず登録状況を確認してほしい。
なお、デュー・ディリジェンスの実施は必須ではなく、DD未実施でも申請可能だ。
既存の「売り手支援類型」との違い
従来の専門家活用枠には「売り手支援類型」が存在していたが、第15次公募で「小規模売り手支援類型」が独立新設された。主な違いは以下のとおり。
| 比較項目 | 従来の売り手支援類型 | 新設:小規模売り手支援類型 |
|---|---|---|
| 対象者 | 中小企業全般(売り手) | 小規模事業者等(売り手)のみ |
| 補助率 | 1/2または2/3 | 2/3(固定) |
| 補助上限(単独) | 600万円〜800万円 | 450万円 |
| M&A不成立時の上限 | 100万円 | 50万円 |
| 廃業費の扱い | 廃業・再チャレンジ枠との併用申請 | 同様(小規模類型分の上限は150万円) |
要点を一言で言えば、「小規模事業者に絞って補助率を固定し、使いやすくした版」だ。補助上限こそ従来より低いが、そもそも小規模M&Aでは専門家費用が小さいケースが多く、実務上は450万円の上限を上回ることは稀だ。
申請から採択まで 5つのステップ
Step 1: GビズIDプライムの取得(所要:1〜3週間)
補助金の電子申請に必要な「GビズIDプライム」を取得する。法人は法務局発行の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)、個人事業主は確定申告書の控えなどが必要だ。
重要:GビズIDの取得審査は1〜3週間かかることがある。申請締切は7月24日なので、6月末には申請を完了しておきたい。すでに他の補助金でGビズIDを使っている場合は、既存のIDで申請可能だ。
→ GビズID登録完全ガイド(画像付きで手順を解説)
Step 2: M&A支援機関(FA・仲介業者)の選定と契約前準備(所要:1〜2週間)
登録M&A支援機関の中から候補を絞り、相見積もりを取得する(原則2者以上)。ただし、FA費用については一部例外的に1者の場合も認められる。
注意:交付決定通知書を受け取るまでは業者と正式契約してはいけない。交付決定前の契約・発注は補助対象外になる。相談・見積取得は問題ないが、契約締結は採択後の交付申請完了まで待つことが原則だ。
Step 3: jGrantsでの電子申請(2026年7月24日 17:00厳守)
GビズIDを使ってjGrants(補助金電子申請システム)から申請する。必要書類は以下のとおり。
- 事業計画書(M&Aの目的、実施体制、スケジュール等)
- 直近3期分の確定申告書または財務諸表(法人の場合)
- 従業員数を確認できる書類
- 登録M&A支援機関の確認資料
17:00を1分でも過ぎると受付外となる。余裕を持って前日までに提出することを強くお勧めする。
Step 4: 採択通知・交付申請(2026年9月中旬〜)
採択結果は2026年9月中旬ごろに発表される予定だ。採択後は交付申請を行い、交付決定通知書を受け取ってからM&A支援機関と正式契約・着手となる。
Step 5: 事業実施・実績報告・補助金受取
事業実施期間は交付決定日から最大14ヶ月以内。M&Aのクロージングを目指して活動し、終了後に実績報告書を提出する。審査通過後に補助金が後払いで交付される。
補助金は後払い(精算払い):一時的に立替が必要なため、費用を先払いできる資金繰りを確認しておくこと。
申請でよくある失敗パターン
失敗1:交付決定前にFA・仲介会社と正式契約した
❌ 採択通知が来たのでその日にM&A仲介会社と契約書にサインした
⭕ 採択後に交付申請を提出し、交付決定通知書を受け取ってから契約した
なぜ重大か:採択と交付決定は別物。「採択された=お金がもらえる」ではなく、交付決定後に着手することが必須条件だ。交付決定前の経費はすべて補助対象外になる。
失敗2:未登録のM&A仲介会社を使った
❌ 知り合いの紹介でM&A仲介を依頼したが、M&A支援機関登録制度に未登録だった
⭕ 事前に登録M&A支援機関のリストで業者の登録状況を確認した
なぜ重大か:費用の実態は適正でも、未登録業者への支払いは一切補助対象にならない。業者選定前に必ず登録状況を確認する。
失敗3:「M&A未成立のリスク」を事前に把握していなかった
❌ 申請時の計画ではM&Aが成立すると思っていたが、交渉が破断になった
⭕ 事前に「未成立の場合は補助上限が50万円に減額される」ことを把握し、それ込みで費用計画を立てていた
なぜ重大か:M&Aは交渉が決裂することも少なくない。着手金が100万円以上かかるケースでは、未成立時に補助額を大幅に上回る自己負担が生じる可能性がある。
失敗4:申請書の事業計画が「M&Aしたい」だけで終わっていた
❌ 「後継者がいないのでM&Aで売却したい」という1行の記述で事業計画を済ませた
⭕ 「事業の現状・課題、M&Aによって何を達成したいか、経営資源をどう引き継ぐか」を具体的に記述した
なぜ重大か:審査委員は申請書から「この事業承継が意味のあるものか」を評価する。目的・体制・スケジュールが具体的に書かれていない申請は審査で不利になりやすい。
廃業・再チャレンジ枠との併用申請について
M&Aによる部分的な事業譲渡を行いながら、残りの事業を廃業・清算する場合は、廃業・再チャレンジ枠との併用申請が可能だ。
この場合、小規模売り手支援類型の補助上限は150万円に変わる(廃業費用分は廃業枠として別途補助)。廃業費(設備廃棄費、解体費、原状回復費など)も補助対象となるため、「M&Aで一部を売りながら残りは畳む」というケースでは実質的な支援額が大きくなることがある。
なお、廃業・再チャレンジ枠のみの単独申請(M&Aなし)は今回の記事の対象外だ。
「後継者がいない」で諦める前に試してほしいこと
正直、小規模M&Aの現実は厳しい面もある。仲介会社が設定する最低報酬ラインが高く、小規模事業者では「交渉のテーブルにも上がれない」というケースも報告されている。
それでも、この補助金が使える意義は2つある。
ひとつは、「専門家に相談してみる」ハードルが下がること。着手金の一部が補助されると分かれば、とりあえず相談してみるという行動を後押しできる。
もうひとつは、M&A以外の選択肢を探す過程での費用も一部対象になること。表明保証保険料や専門家謝金なども含まれるため、M&Aを進める中で発生する様々なコストをカバーできる可能性がある。
よくある質問
- Q1. 個人事業主でも申請できますか?
- はい、対象です。ただし開業から5年以上経過していること、商業・サービス業では常時使用する従業員が5人以下であることが要件です。
- Q2. GビズIDを持っていません。今から間に合いますか?
- 7月24日の締切まで約6週間(2026年6月11日時点)あります。GビズIDの審査は通常1〜3週間かかるため、今すぐ申請すれば間に合う可能性が高いです。ただし、GビズIDは本人確認書類の郵送が必要で、処理に時間がかかることもあります。できるだけ早く着手することをお勧めします。
- Q3. M&Aが成立しなかった場合はどうなりますか?
- 補助上限が50万円に減額されます。着手金等で既に50万円超を支払っている場合は、超過分は自己負担となります。
- Q4. 従来の「売り手支援類型」と「小規模売り手支援類型」は同時に申請できますか?
- 同一公募回での重複申請は認められません。いずれか一方を選んで申請してください。
- Q5. 申請代行を業者に頼んでもいいですか?
- 補助金申請書類の有償代行は行政書士の独占業務です。行政書士以外の業者が報酬を取って代行することは行政書士法違反となり、採択後であっても交付決定取消のリスクがあります。申請の手続きについては、行政書士または事業承継・M&A補助金の公式コールセンター(050-3145-3812)にご相談ください。
参考・出典
- 事業承継・M&A補助金 令和7年度補正予算 公式サイト — 事業承継・M&A補助金 事務局(参照日:2026-06-11)
- 中小企業生産性革命推進事業「事業承継・M&A補助金」(十五次公募)の公募要領を公表します — 中小企業庁(参照日:2026-06-11)
- 第15次公募 専門家活用 よくある質問 — 事業承継・M&A補助金 事務局(参照日:2026-06-11)
- 事業承継・M&A補助金のご案内 — 補助金活用ナビ・中小機構(参照日:2026-06-11)
- jGrants(補助金電子申請システム) — デジタル庁(参照日:2026-06-11)
AI導入の計画策定や補助金活用について疑問がある方は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
免責事項
本記事の情報は2026年6月11日時点における中小企業庁・事務局の公表資料に基づく参考情報です。補助金・助成金の制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。本記事の情報に基づく申請結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
