令和8年度から、情報通信業(IT企業)と宿泊業が業種別課題対応コースの対象に新たに追加された。中小のIT企業・Web制作会社・SaaS開発会社が「働き方改革推進支援助成金」を使えるようになったのは、実は今年度からだ。
長時間労働が常態化しているIT現場では、残業削減や所定外労働の圧縮が急務になっている企業も多い。設備投資や研修に取り組む企業に対して、費用の3/4(最大で4/5)を国が助成してくれるこの制度、11月30日が申請期限だが、実は準備期間が意外と短い。
業種別課題対応コースの基本データ(令和8年度)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース) |
| 所管省庁 | 厚生労働省 |
| 助成率 | 対象経費の3/4(常時使用30人以下かつ一部の改善事業で30万円超なら4/5) |
| 助成上限 | 成果目標ごとに異なる(下表参照) |
| 対象業種(令和8年度) | 建設業、運送業等、病院等、砂糖製造業、情報通信業(新)、宿泊業(新) |
| 申請期限 | 令和8年11月30日(月)午後5時まで(予算超過時は期前終了あり) |
| 申請窓口 | 各都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)、電子申請(Jグランツ) |
| 公式情報 | 厚生労働省 業種別課題対応コース |
各コースの比較はAI・DX研修に使える人材開発支援助成金|コース別の助成率と選び方もあわせて参考にしてください。
3つの成果目標から選ぶ — IT企業はどれを選ぶべきか
業種別課題対応コースでは、以下の成果目標のうち1つ以上を選択して取り組む。IT・情報通信業の場合、実務の状況に応じてこの3択が現実的だ。
| 成果目標 | 助成上限(成果1回あたり) | IT企業向き度 |
|---|---|---|
| 時間外・休日労働の上限設定(月60時間以下または80時間以下) | 150万円〜250万円(初回設定) | ★★★★★(最推奨) |
| 所定外労働時間の削減(1人あたり月5時間以上削減)※令和8年度新設 | 50万円(5時間以上)〜100万円(10時間以上) | ★★★★☆ |
| 年次有給休暇の計画的付与制度導入 | 25万円 | ★★★☆☆ |
| 勤務間インターバル制度の導入(9時間以上) | 120万円〜170万円(業種・規模による) | ★★★☆☆ |
エンジニアリング組織の多くで「月の残業が常時60〜80時間に張り付いている」という状態が珍しくない。そういった企業には「時間外・休日労働の上限設定」が最も助成額が大きく、効果も見えやすい。令和8年度に新設された「所定外労働時間の削減」は、既にある程度の上限設定が済んでいる企業が次のステップとして狙いやすい目標だ。
助成対象になる経費 — IT企業が実際に使えるもの
業種別課題対応コースで補助対象になる経費は以下のとおりだ。IT企業の文脈に引きつけて整理すると、使い勝手が見えやすい。
| 経費区分 | IT企業での具体例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 労務管理ソフト・勤怠管理システム | 勤怠管理ツール(例:KING OF TIME、ジョブカン)の導入費 | 単なる更新・同機種買い替えは対象外 |
| 労務管理担当者・労働者への研修 | 管理職向け労務研修、エンジニア向け労働時間管理セミナー | 社内研修も対象(外部講師費・会場費等) |
| 外部専門家コンサルティング | 社労士への就業規則改定・残業管理体制整備の依頼 | 助成額の半分を上限に設定されることが多い |
| 就業規則・制度整備 | 有給取得促進ルールの整備、深夜残業禁止規定の新設 | 既存ルールの形式変更では不可 |
| 労働能率増進設備 | 業務自動化ツール(RPA・営業管理システム)の導入 | 「残業削減につながる」効果を説明できること |
ポイントは「設備導入が成果目標の達成に直結していること」を証明できるかどうかだ。「テレワーク環境を整えたいからPC購入費を申請したい」という発想では通らない。あくまで「所定外労働を月○時間削減する目標を達成するために、この設備が必要」という論理が成立することが条件になる。
申請の流れと準備のタイムライン
申請期限は11月30日だが、交付決定が出るまで約1か月かかり、事業実施期間は令和9年1月31日までという制約がある。逆算すると、10月末以降に申請してしまうと「設備を入れて効果を証明する時間」がなくなる。
ステップ1: 現状の労働時間データを取得する(1〜2週間)
まず、直近3か月〜6か月の「労働者1人あたりの平均所定外労働時間」を数字で把握する必要がある。システム上の打刻データ、タイムシート、給与明細から抽出しよう。ここが「Before」になる。
ステップ2: 成果目標と実施事業の内容を決める(1〜2週間)
どの成果目標を選ぶかを決め、そのために導入する設備や実施する研修を具体化する。「月〇時間の所定外労働を、このシステムを入れることで月〇時間以下にする」という形で組み立てる。
ステップ3: 都道府県労働局へ交付申請を提出する
申請書類を準備し、管轄の都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)へ提出する。電子申請(Jグランツ)も利用可能。書類の不備で差し戻しになるケースが多いため、初めての場合は社労士に確認してもらうことを推奨する。
ステップ4: 交付決定を受けてから事業を開始する(重要)
交付決定前に設備を発注・購入した経費は、一切助成対象にならない。「交付決定=支出OKのスタート合図」だと理解する。約1か月かかるため、7〜8月中の申請を目指したい。
ステップ5: 事業実施・支給申請(令和9年1月31日まで)
設備導入・研修実施後、実績を証明する書類(タイムカード、購入領収書、就業規則変更証明等)をまとめて支給申請を提出する。支給決定まで約1か月。
よくある差し戻しと、IT企業が特にやらかすこと
差し戻し1: 交付決定前に設備を購入してしまった
採択の見込みが出た段階で先行発注してしまうパターン。
❌ 「採択されそうだから先にシステム契約した」
⭕ 交付決定通知書の日付以降に発注・契約・支払いをする
差し戻し2: 「設備導入」と「残業削減」のつながりが説明できない
IT企業でありがちなのが、「業務効率化ツールを入れました」だけでは審査が通らないことだ。
❌ 「Slackの有料プランを導入して業務連絡を効率化した」(汎用ツール、残業削減への直接効果が不明確)
⭕ 「受注・見積もり管理を自動化するシステムを導入し、受発注業務の月間工数を40時間から15時間に削減した結果、所定外労働時間が月10時間減った」(数字で因果を示す)
差し戻し3: 成果目標の達成期間中に労働時間を下げられなかった
所定外労働時間の削減を目標にした場合、交付申請後から事業実施期間の終期までに、いずれか1か月で労働者1人あたり月5時間以上の削減を証明しなければならない。
❌ 設備を入れたが成果測定方法が曖昧で証明できない
⭕ 導入前後の月次データをシステムログや勤怠記録で比較できる状態にする
差し戻し4: 既存ルールの「形式変更」しかしていない
年次有給休暇の計画的付与が既に就業規則に書いてあるのに、「新たに導入した」として申請するパターン。
❌ 既存就業規則の文言を微修正しただけ
⭕ 制度として実態のない新規設置であること、または対象労働者・日数を実質的に拡大していること
他のコースとの使い分け — 業種別課題対応コースを選ぶのはこのケース
| 状況 | おすすめのコース | 理由 |
|---|---|---|
| 月の残業が慢性的に60時間超のエンジニアがいる(情報通信業) | 業種別課題対応コース | 令和8年度から対象に追加。助成上限が高い |
| 全業種対象で残業削減ツールを入れたい | 労働時間短縮・年休促進支援コース | 業種問わず使える。上限は150万円(1企業あたり) |
| AI・DX研修費用を助成してほしい | 人材開発支援助成金(人材育成支援コース) | 研修費・賃金の助成。残業削減の目的ではない |
| テレワーク環境整備のためにPC・通信機器を導入したい | 働き方改革推進支援助成金テレワークコース | テレワーク専用コース。設備・通信費対象 |
業種別課題対応コースを選ぶ最大の理由は「情報通信業が対象業種に入ったこと」と「助成上限額の大きさ」だ。労働時間短縮コースが全業種対象でも上限150万円なのに対し、業種別課題対応コースは時間外・休日労働の上限設定だけで250万円まで取れる可能性がある。
令和8年度の新設ポイント — 変更点まとめ
令和8年度から変わった主な点を整理しておく。
| 変更点 | 内容 |
|---|---|
| 対象業種の追加 | 情報通信業・宿泊業が新たに対象業種に追加(令和8年度〜) |
| 新成果目標「所定外労働時間の削減」の追加 | 1人あたり月5時間以上削減で50万円、10時間以上削減で100万円 |
| 割増賃金率引上げ加算の新設 | 時間外割増賃金を法定(25%)超に設定した場合に追加助成 |
| 賃金引上げ加算の7%区分を新設 | 前年比7%以上の賃上げを行う場合に加算あり(他区分:3%・5%) |
| 令和8年度予算額 | 101億円(前年度比9億円増) |
「予算超過時は期前終了」という規定があるため、IT企業として令和8年度から初めて対象になった分、申請が集中する可能性がある。早めの着手が無難だ。
よくある質問
Q. IT企業でも「業種別課題対応コース」を使えますか?
令和8年度(2026年度)から、日本標準産業分類の「G 情報通信業」に分類される事業者が対象業種に追加されました。Web制作会社、SaaS開発会社、IT受託開発会社なども対象です。現在の業種コードを念のため確認してから申請してください。
Q. 申請から助成金受け取りまで、どれくらいかかりますか?
交付申請 → 交付決定(約1か月)→ 事業実施 → 支給申請 → 支給決定(約1か月)という流れです。早めに交付申請が通った場合でも、事業実施期間は令和9年1月31日までのため、余裕をもって夏から動き始めることを推奨します。
Q. 同一企業が複数の成果目標を同時に申請できますか?
公式情報では「1つ以上の成果目標を選択」とされており、複数の成果目標を組み合わせることが可能です。ただし各成果目標の達成要件をすべて満たす必要があります。詳細は管轄の労働局またはJグランツ上の申請書を参照してください。
Q. 賃金引上げ加算とは何ですか?
成果目標の達成と合わせて、前年度比で3%・5%・7%以上の賃上げを実施した場合に、上乗せして助成を受けられる制度です。令和8年度から7%区分が新設され、賃上げにも取り組む企業にとって有利な内容になりました。具体的な加算額は申請書類または労働局で確認してください。
まとめ:IT企業が動くべきタイミングは夏まで
業種別課題対応コースは令和8年度から情報通信業が加わった、いわば「新参者」向けの制度だ。他の業種に比べて認知度が低い分、競争が少ない時期に早期申請できる可能性がある。
今日やるべきことは3つ。まず、直近の月別残業時間データを引き出す。次に、自社が日本標準産業分類の「G 情報通信業」に該当するかを確認する。最後に、交付申請書の書式を厚生労働省の公式ページからダウンロードして、申請内容の構成を社労士と相談する。
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→ お問い合わせフォーム(株式会社Uravation)
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
免責事項
本記事の情報は2026年6月29日時点の厚生労働省公表資料(令和8年4月8日時点版)に基づく参考情報です。助成金の制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず厚生労働省の公式サイトで最新の申請要領をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
参考・出典
- 働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース) — 厚生労働省(参照日: 2026-06-29)
- 令和8年度 雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版) — 厚生労働省(令和8年4月8日時点)
- 令和8年度「働き方改革推進支援助成金」業種別課題対応コース(建設業)のご案内 — 厚生労働省(参照日: 2026-06-29)
- 2026年度【令和8年】働き方改革推進支援助成金の【業種別課題対応コース】とは? — 補助金ポータル(参照日: 2026-06-29)
