「社員にAI研修を受けさせたいけど、費用がネック」「助成金があるらしいけど、種類が多すぎて選べない」——こんな声を、中小企業の経営者や人事担当者から本当によく聞きます。
実は2026年度、AI研修に使える助成金は大きく分けて3つの制度があります。どれも経費の最大75%を国や自治体が負担してくれますが、対象となる研修の「レベル」と「時間」がまったく違います。高度なAIエンジニア育成なら人への投資促進コース、DX推進のための全社研修なら事業展開等リスキリング支援コース、短時間のAI入門研修なら東京都DXリスキリング助成金——この使い分けが、助成金活用の成否を分けるポイントです。
あなたの会社に合う制度はどれか — 早見表
| こんな企業に | 最適な制度 | 経費助成率 | 1人あたり上限 |
|---|---|---|---|
| AIエンジニアを本格育成したい | 人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練) | 中小75% | 年間上限2,500万円/事業所 |
| 全社員にDX・AI基礎を学ばせたい | 事業展開等リスキリング支援コース | 中小75% | 30〜50万円/人(時間による) |
| 東京都内で短時間AI研修を受けたい | 東京都DXリスキリング助成金 | 75% | 75,000円/人・研修 |
各補助金制度の補助率・上限額の全体像は、AI導入に使える補助金5選 徹底比較でもまとめています。
制度①:人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 人材開発支援助成金 人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練) |
| 所管 | 厚生労働省 |
| 経費助成率 | 中小企業75%、大企業60% |
| 賃金助成 | 中小960円/時間、大企業480円/時間 |
| 訓練時間上限 | 原則1,200時間(大学院等は1,600時間) |
| 年間上限 | 2,500万円/事業所 |
| 対象訓練 | ITSSレベル3・4相当の資格取得を目指す訓練 |
| 時限措置 | 令和4年度〜令和8年度(2022〜2026年度) |
| 公式サイト | 厚生労働省 人材開発支援助成金 |
どんな研修が対象になるか
このコースは「高度デジタル人材」の育成に特化しています。具体的には、以下のような研修が対象です。
- AI・機械学習のエンジニアリング研修(Pythonによるモデル構築、データサイエンス等)
- ITSSレベル3以上の資格取得を目指す長期訓練(情報処理安全確保支援士、データベーススペシャリスト等)
- 大学・大学院でのAI関連講座の履修
正直、ハードルは高めです。「ChatGPTの使い方を教える2時間の社内セミナー」では対象になりません。ITSSレベル3というのは、いわば「自分で設計・構築ができるレベル」。AIを活用する側ではなく、AIを作る側の人材を育てたい企業向けの制度です。
向いている企業
- AI開発やデータ分析を内製化したい製造業・IT企業
- DX推進部門に専門人材を配置したい中堅企業
- 社員を大学院のAIコースに通わせたい企業
制度②:事業展開等リスキリング支援コース
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 人材開発支援助成金 事業展開等リスキリング支援コース |
| 所管 | 厚生労働省 |
| 経費助成率 | 中小企業75%、大企業60% |
| 賃金助成 | 中小1,000円/時間、大企業500円/時間 |
| 経費上限(1人あたり) | 10〜100時間未満: 30万円 / 100〜200時間未満: 40万円 / 200時間以上: 50万円 |
| 年間上限 | 1億円/事業所 |
| 対象訓練 | DX推進・新規事業展開・カーボンニュートラル化に伴う訓練 |
| 2026年4月改正 | 設備費助成の新設(受講者1人15万円×人数 or 150万円の低い方) |
| 公式サイト | 厚生労働省 人材開発支援助成金 |
人への投資促進コースとの違い
「人への投資促進コース」との最大の違いは、求められる研修レベルのハードルです。事業展開等リスキリング支援コースは、ITSSレベルの要件がありません。つまり、「AIの基礎を学ぶ10時間の研修」でも対象になります。
もう1つの大きな違いは申請の動機。このコースでは「新規事業の展開」「DXの推進」「業務の転換」に伴って必要になった訓練であることが求められます。要するに、「会社として新しいことを始めるために、社員に新しいスキルを身につけさせたい」というストーリーが必要です。
2026年4月からの注目改正
2026年4月の改正で、設備費の助成が新設されました。研修で使うPCやソフトウェアの購入費用の1/2が助成されます(上限あり)。ただし条件があって、訓練修了後に受講者全員の賃金を5%以上アップさせる必要があります。賃上げ要件のハードルは高めですが、研修と設備導入をセットで考えている企業にはかなり使い勝手の良い改正です。
賃上げ要件の詳しい対応方法は、補助金の賃上げ要件 完全攻略ガイドで解説しています。
向いている企業
- 全社員にAIリテラシー研修を受けさせたい企業
- DX推進に伴い、営業・経理・製造部門のリスキリングを計画している企業
- 外部研修機関のAI活用講座を受講させたい企業
制度③:東京都DXリスキリング助成金
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 東京都DXリスキリング助成金 |
| 所管 | 東京都((公財)東京しごと財団) |
| 助成率 | 3/4(75%) |
| 上限額 | 1人1研修: 75,000円 / 1企業年間: 100万円 |
| 対象研修時間 | 3時間以上10時間未満 |
| 対象者 | 都内に本社または主たる事業所がある中小企業 |
| 申請期間 | 2026年3月1日〜2027年2月28日 |
| 公式サイト | 東京しごと財団 DXリスキリング助成金 |
国の制度との決定的な違い
東京都DXリスキリング助成金の最大の特徴は、短時間の研修に特化していること。3時間以上10時間未満の研修が対象です。国の人材開発支援助成金が「10時間以上」を求めるのに対して、ぐっとハードルが低い。
「生成AIの業務活用 半日セミナー」「ノーコードAIツール ハンズオン研修」のような短時間の研修にピッタリです。1人あたりの上限は75,000円と小さめですが、1企業年間100万円まで申請できるので、複数回・複数名の研修を計画的に受けさせれば十分に元が取れます。
注意点:東京都内の企業限定
当然ですが、都内に本社か主たる事業所がなければ使えません。また、代表者や個人事業主本人は対象外です(雇用保険加入の役員はOK)。東京都以外の企業は、自分の自治体に同様の助成金がないか確認してください。大阪府や愛知県にも類似制度があります。
向いている企業
- 都内の中小企業で、まずAIの基礎を社員に学ばせたい
- 半日〜1日の公開セミナーを活用したい
- 研修費用が1人あたり10万円以下の小規模な研修
3制度を並べて比べると、ここが違う
| 比較項目 | 人への投資促進コース | 事業展開等リスキリング支援コース | 東京都DXリスキリング助成金 |
|---|---|---|---|
| 経費助成率(中小) | 75% | 75% | 75% |
| 賃金助成 | 960円/時間 | 1,000円/時間 | なし |
| 1人あたり上限 | 訓練時間による(年間上限2,500万円/事業所) | 30〜50万円 | 75,000円 |
| 対象研修時間 | 原則10時間以上(上限1,200時間) | 10時間以上 | 3〜10時間未満 |
| 研修レベル | ITSSレベル3・4相当(高度) | レベル不問 | レベル不問 |
| 申請の複雑さ | ★★★★★(複雑) | ★★★★☆ | ★★☆☆☆(比較的簡単) |
| 地域制限 | 全国 | 全国 | 東京都内のみ |
| 設備費助成 | なし | あり(2026年4月〜) | なし |
| 大企業の利用 | 可(助成率60%) | 可(助成率60%) | 不可 |
よくある「選び間違い」とその回避法
間違い1:高度デジタル人材訓練に全社員を申請する
❌ 「社員30人全員でAI入門研修を受けたい」→ 人への投資促進コースで申請
⭕ 「社員30人にはリスキリング支援コースでAI基礎を、DX推進担当3人には人への投資促進コースで高度なAI開発訓練を」
人への投資促進コースの「高度デジタル人材訓練」は、ITSSレベル3以上の訓練が対象。AIの基礎研修では審査で弾かれます。全社研修ならリスキリング支援コースを使ってください。
間違い2:東京都の助成金だけで長時間研修をカバーしようとする
❌ 「40時間のAI活用研修を東京都の助成金で」
⭕ 「40時間の研修は国のリスキリング支援コースで申請し、追加の5時間セミナーは東京都の助成金で」
東京都DXリスキリング助成金は「10時間未満」の研修しか対象にならない。10時間以上の研修は国の制度を使いましょう。ただし、同一研修で国と都の助成金を二重申請することはできません。別の研修であれば併用可能です。
間違い3:計画届を出す前に研修を始めてしまう
❌ 先に研修を受講 → 後から助成金を申請
⭕ 事業内職業能力開発計画を策定 → 管轄労働局に計画届を提出 → 研修実施
人材開発支援助成金は事前の計画届が必須です。研修開始日の1か月前(原則)までに届け出が必要です。「先に研修を受けて、後から申請しよう」では1円ももらえません。東京都の助成金は事前に「交付申請」が必要で、交付決定後に研修を開始する流れです。
間違い4:eラーニングが対象外だと思い込む
❌ 「オンライン研修だから助成金は使えない」
⭕ 事業展開等リスキリング支援コースはeラーニングも対象(経費上限15万円/人、高度デジタルは30万円/人)
2026年現在、リスキリング支援コースはeラーニング・通信制訓練も対象です。ただし経費上限が通常より低くなるので、予算と相談してください。
併用パターン — 組み合わせで助成額を最大化
| 組み合わせ | 可否 | ポイント |
|---|---|---|
| 人への投資促進コース + リスキリング支援コース | ⭕ 可能 | 同一人物でも「別の訓練」であれば両方申請できる。年間上限はコースごとに別計算 |
| 国の助成金 + 東京都DXリスキリング助成金 | ⭕ 可能(別研修なら) | 同一研修の二重申請はNG。別の研修であれば併用OK |
| 人への投資促進コース内で複数人 | ⭕ 可能 | 年間上限2,500万円の範囲内で何人でも |
おすすめの併用プラン(都内中小企業の場合)
- 全社員向け:半日AI入門セミナー(6時間)→ 東京都DXリスキリング助成金で75%助成
- DX推進チーム向け:AI活用実践研修(40時間)→ 事業展開等リスキリング支援コースで75%助成 + 賃金助成
- AI開発担当向け:機械学習エンジニアリング講座(200時間)→ 人への投資促進コースで75%助成 + 賃金助成
この3段階で組めば、入門から高度人材育成まで一貫してカバーでき、助成額も最大化できます。
申請前に必ず準備すべきこと
Step 1:職業能力開発推進者を選任する
国の人材開発支援助成金を使うには、社内に「職業能力開発推進者」を選任し、管轄労働局に届け出る必要があります。人事部長や総務部長が兼任するケースが多いです。
Step 2:事業内職業能力開発計画を策定する
「今後3〜5年で、どんな人材を、どう育成するか」を計画書にまとめます。ここにAI研修の位置づけを明記しましょう。
Step 3:年間職業能力開発計画を作成・周知する
年間の研修スケジュールを計画し、社員に周知します。「なぜこの研修が必要か」「受講後にどんな業務を担当するか」まで書くと、審査で好印象です。
Step 4:研修機関を選定し、見積もりを取る
研修機関は厚生労働大臣の認定を受けた教育訓練機関、大学、専門学校などが対象。必ず見積書と研修カリキュラムを事前に入手してください。
申請全体の流れや加点項目の押さえ方は、補助金の加点項目を確実に押さえる6ステップも参考になります。
研修費用のシミュレーション
実際にいくら助成されるのか、具体例で見てみましょう。
例:従業員10名に40時間のAI活用研修を実施する場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 研修費用(1人20万円 × 10名) | 200万円 |
| 経費助成(75%) | ▲150万円 |
| 賃金助成(1,000円 × 40h × 10名) | ▲40万円 |
| 実質負担 | 10万円 |
200万円の研修が実質10万円。1人あたり1万円です。正直、これを使わない手はないと思います。
参考・出典
- 人材開発支援助成金のご案内 — 厚生労働省(参照日: 2026-03-18)
- DXリスキリング助成金(令和8年度) — 東京しごと財団(参照日: 2026-03-18)
- 人材開発支援助成金 各コースのご案内(パンフレット) — 厚生労働省(参照日: 2026-03-18)
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
AI研修の計画づくりや、自社に合った助成金の選び方でお悩みの方は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
免責事項
本記事の情報は2026年3月18日時点の厚生労働省・東京しごと財団の公表資料に基づく参考情報です。助成金の制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず各制度の公式サイトで最新の情報をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。