新事業進出補助金(旧・事業再構築補助金の後継制度)は、中小企業が既存事業とは異なる分野に挑戦する際、設備投資やシステム構築の費用を最大7,000万円(賃上げ特例で最大9,000万円)まで補助してくれる制度です。補助率は原則1/2(小規模事業者は2/3)。たとえば5,000万円のAIシステムなら、2,500万円〜3,333万円が補助される計算です。
第1回公募の採択率は37.2%(応募3,006件中1,118件採択)。正直、3社に1社しか通らない狭き門です。ただ、AI・DXを活用した新事業への進出は審査で評価されやすいテーマでもあります。この記事では、新事業進出補助金を使ってAI事業に乗り出した4社のシナリオを紹介し、「どう書けば通るのか」の共通点を掘り下げます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 中小企業新事業進出促進補助金(通称: 新事業進出補助金) |
| 所管 | 経済産業省 中小企業庁 |
| 補助率 | 原則1/2(小規模事業者・賃上げ要件適合は2/3) |
| 補助上限 | 従業員20人以下: 2,500万円 / 21〜50人: 4,000万円 / 51〜100人: 5,500万円 / 101人以上: 7,000万円 |
| 賃上げ特例 | 上限額が500〜2,000万円増額(最大9,000万円) |
| 補助下限 | 750万円 |
| 対象経費 | 建物費、機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、クラウドサービス利用費、外注費、広告宣伝費、研修費 |
| 申請方法 | jGrants(電子申請) |
| 公式サイト | 新事業進出補助金事務局 |
※ 上記は第3回公募(2026年2月17日〜3月26日)時点の情報です。第4回公募は2026年3月末に開始予定。最新情報は公式サイトをご確認ください。
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金属加工メーカーがAI外観検査サービスを立ち上げた話
事例区分: 想定シナリオ
以下は事業再構築補助金・新事業進出補助金の公開採択事例と、100社以上の支援経験をもとに構成した典型的な活用シナリオです。
なぜ新事業に踏み出したか
従業員35名の金属部品メーカーA社。自動車部品の下請けが売上の8割を占めていましたが、EV化で受注量が年々減少。「このまま下請けだけでは5年後がない」と社長が判断し、自社の検品ノウハウをAIで外販するサービスを構想しました。
具体的には、製造ラインに設置するAI画像認識カメラを開発し、他の中小製造業向けに「AI検品サービス」としてサブスクリプション型で提供するビジネスモデルです。
申請で工夫した3つのポイント
1. 「なぜAIなのか」を自社の痛みから語った
「AI技術が革新的だから」ではなく、「自社で20年間、熟練工が目視検品してきたが、高齢化で後継者がいない。この課題はうちだけじゃなく業界全体の問題だ」と書き始めました。審査員が求めているのは技術の説明ではなく、課題の切実さです。
2. Before/Afterを1つずつ数字で出した
| 指標 | Before(目視検品) | After(AI検品) | 改善率 |
|---|---|---|---|
| 検品1ロットの所要時間 | 45分 | 12分 | 73%短縮 |
| 見逃し不良率 | 2.1% | 0.3% | 86%低減 |
| 検品担当者の必要人数 | 3名/シフト | 1名/シフト | 67%削減 |
3. 新事業の売上見通しを控えめに出した
「3年で10億円」のような大風呂敷ではなく、「初年度は自社ラインでの実証(売上ゼロ)→ 2年目に近隣3社へ試験導入(月額15万円×3社=年540万円)→ 3年目に10社展開(年1,800万円)」と段階的に書きました。審査員は「現実的に実行できるか」を見ています。
補助金の使い道と金額
- 総事業費: 4,800万円
- 補助金額: 2,400万円(補助率1/2)
- 内訳: AI画像認識システム開発 2,200万円 / 検査用カメラ・照明設備 1,400万円 / クラウド基盤構築 800万円 / 研修費 400万円
老舗旅館がAI需要予測で食品ロス削減事業を始めた経緯
事例区分: 想定シナリオ
以下は公開事例と弊社の支援経験をもとに構成した典型的な活用シナリオです。
「もったいない」が事業の出発点
従業員18名の温泉旅館B社。毎月の食材廃棄額が平均45万円に達していました。宿泊客数の読みが外れるたびに、仕入れた刺身や肉が余る。「これをなんとかしたい」が動機でした。
AI需要予測システムを導入し、天候・曜日・イベント・過去の予約データを組み合わせて宿泊客数を予測。さらに、このシステムを同業の旅館・ホテルにSaaS型で提供する新事業を立ち上げました。
計画書で効いた「数字の出し方」
B社の計画書が通った理由は、課題を徹底的に数字で見せたことです。
- 月間食材仕入額: 380万円
- うち廃棄額: 45万円(廃棄率11.8%)
- AI予測導入後の目標廃棄率: 5%以下(業界ベンチマーク参照)
- 年間削減見込み: 約300万円
「11.8%」という廃棄率は、自社の仕入伝票を3年分集計して算出したもの。こういう生データに基づく数字は、審査員の信頼を勝ち取ります。
補助金の使い道
- 総事業費: 1,600万円
- 補助金額: 800万円(補助率1/2)
- 内訳: AI需要予測エンジン開発 900万円 / クラウドサービス基盤 400万円 / 外部連携API開発 200万円 / 広告宣伝費 100万円
建設会社がAI工程管理SaaSで新市場を開拓したケース
事例区分: 想定シナリオ
以下は公開採択事例と支援経験をもとに構成した典型的な活用シナリオです。
現場の「勘と経験」を置き換える
従業員62名の中堅建設会社C社。工程管理はベテラン現場監督の頭の中にあり、属人化が深刻でした。天候による工期遅延が年間平均12件発生し、1件あたりの損失は約80万円。年間で960万円が遅延コストとして消えていました。
そこでAIスケジューリングツールを開発。気象データ・過去の工事記録・作業員の稼働状況をAIが分析し、最適な工程を自動提案するシステムです。自社で使い倒してから、同業の中小建設会社向けにSaaS提供するのが新事業のプランでした。
審査を通すために意識したこと
「新事業進出要件」を明確に満たす書き方
この補助金の最も重要な要件は「既存事業と異なる事業に進出すること」。C社は以下のように整理しました。
| 既存事業 | 新事業 | |
|---|---|---|
| 業種 | 建設業(工事の請負) | 情報サービス業(SaaS提供) |
| 顧客 | 発注元ゼネコン | 中小建設会社 |
| 収益モデル | 工事ごとの請負契約 | 月額サブスクリプション |
| 必要な技術 | 施工管理 | AI開発・クラウド運用 |
「業種が変わる」「顧客が変わる」「収益モデルが変わる」の3点セットで新事業性を証明しました。
成果の目標設定
- 自社の工期遅延: 年12件 → 年4件以下(67%削減)
- 遅延コスト: 年960万円 → 320万円以下
- SaaS事業売上: 3年後に月額5万円×30社 → 年1,800万円
補助金の使い道
- 総事業費: 6,400万円
- 補助金額: 3,200万円(補助率1/2、従業員51〜100人枠・上限5,500万円以内)
- 内訳: AIエンジン開発・機械学習モデル構築 3,200万円 / クラウドインフラ 1,600万円 / UI/UX設計・開発 800万円 / 研修費 500万円 / 専門家経費 300万円
内科クリニックがAI問診システムを外販する新事業を立ち上げた背景
事例区分: 想定シナリオ
以下は公開事例と支援経験をもとに構成した典型的な活用シナリオです。
待合室の「30分待ち」を解消したかった
常勤医師2名・従業員12名の内科クリニックD社。患者の平均待ち時間は32分。初診の問診票記入と、それを医師が読み解く時間が診察全体のボトルネックでした。
AIチャットボットによる事前問診システムを開発。来院前にスマートフォンで症状を入力すると、AIが追加質問を行い、構造化された問診データを医師のカルテに自動連携します。
この仕組みを他のクリニック向けにも提供するのが新事業です。医療機関向けのSaaSは参入障壁が高い分、一度導入されれば解約率が低いビジネスモデルです。
医療分野ならではの申請の注意点
医療分野でAIを使う場合、計画書には以下の記載が必須でした。
- 医療機器に該当しないことの確認: AI問診は「診断」ではなく「情報収集の支援」であり、医療機器規制の対象外であることを明記
- 個人情報保護の体制: 患者データの取り扱いについて、ISMS認証取得計画やデータの匿名化処理を記載
- 医師の監修体制: AIの質問ロジックを医師が設計・監修する体制図を添付
期待される成果
- 初診の受付〜問診所要時間: 平均15分 → 5分(67%短縮)
- 待ち時間: 32分 → 20分以下
- SaaS提供: 2年目に5院、3年目に15院への導入を目標
補助金の使い道
- 総事業費: 2,200万円
- 補助金額: 1,100万円(補助率1/2)
- 内訳: AI問診エンジン開発 1,200万円 / 電子カルテ連携システム 500万円 / セキュリティ対策・ISMS認証取得 300万円 / 広告宣伝費 200万円
4社に共通する「採択される計画書」の3原則
4つのシナリオを並べてみると、採択を勝ち取る計画書には共通点があります。
原則1: 課題は「自分ごと」として語る
「AI市場が拡大している」「DXが重要だ」といった一般論から入る計画書は弱い。4社とも「自社で○○万円の損失が出ている」「○○人の担当者が定年を迎える」と、自分の痛みから書き始めています。
審査員は数百件の計画書を読みます。冒頭で「あ、これは切実だな」と思わせられるかが勝負です。
原則2: 数字は「生データ」から出す
B社の廃棄率11.8%は仕入伝票3年分から算出。C社の遅延コスト960万円は工事台帳からの集計。「だいたいこのくらい」ではなく、帳簿や業務記録から引っ張ってきた数字には説得力があります。
逆に言えば、申請前に自社のデータを整理する時間が必要です。「来月締切だから急いで書く」では間に合いません。
原則3: 新事業の売上予測は「控えめに、段階的に」
4社とも、新事業の売上は初年度ほぼゼロ〜数百万円からスタートし、3年目でようやく1,000万円台に到達する計画になっています。「来年には1億円」のような計画は、審査員に「本当にできるの?」と疑われるだけです。
これから申請する企業が今週やるべきこと
第4回公募は2026年3月末に開始予定です。採択率37.2%の壁を超えるために、今から準備を始めましょう。
1. 自社の業務データを棚卸しする
仕入伝票、工数管理表、クレーム記録、売上推移データ。計画書の数字は、これらの生データから作ります。1週間かけて整理する価値があります。
2. GビズIDの取得状況を確認する
GビズIDプライムの発行には1〜2週間かかります。未取得なら今日中にGビズID公式サイトから申請してください。→ GビズID登録の完全ガイド
3. 「なぜAIなのか」を1文で言えるようにする
「AIが流行っているから」はNG。「当社の○○業務は年間○○時間を要しており、AIによる自動化で○○%の削減が見込める」と言い切れるまで考え抜いてください。
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この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
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免責事項
本記事の情報は2026年3月17日時点の中小企業庁・新事業進出補助金事務局の公表資料に基づく参考情報です。補助金の制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず新事業進出補助金事務局の公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
参考・出典
- 中小企業新事業進出補助金 公式サイト — 中小機構(参照日: 2026-03-17)
- 新事業進出補助金 採択結果 — 中小機構(参照日: 2026-03-17)
- ミラサポplus 補助金・助成金中小企業支援サイト — 中小企業庁(参照日: 2026-03-17)
- jGrants 補助金申請システム — デジタル庁(参照日: 2026-03-17)