最大9,000万円・補助率2/3 — 新制度の衝撃
2026年6月29日、中小企業庁が「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の第1回公募要領を公開しました。旧ものづくり補助金と新事業進出補助金が統合された、予算規模約2,960億円の超大型制度です。
注目すべきはグローバル枠の補助率が一律2/3で、上限額も最大9,000万円と従来より大幅に引き上げられたこと。さらに3つの枠に整理され、自社の事業計画に合った枠を選べば、小規模事業者でも手厚い支援を受けられます。
対象は従業員1名以上の中小企業・小規模事業者。業種を問わず、新製品開発・新市場進出・海外展開に取り組む企業が対象です。申請受付は8月31日から。準備期間は約2か月あります。
3つの枠を5分で理解 — あなたの事業に合うのは?
| 項目 | 革新的新製品・サービス枠 | 新事業進出枠 | グローバル枠 |
|---|---|---|---|
| 目的 | 革新的な新製品・新サービス開発 | 既存事業と異なる新市場・高付加価値事業への進出 | 海外市場開拓(輸出)に向けた国内体制強化 |
| 補助上限額 | 最大3,500万円 (従業員数により750万円〜) |
最大9,000万円 (従業員数により750万円〜) |
最大9,000万円 (従業員数により750万円〜) |
| 補助率 | 中小企業1/2(条件により2/3) 小規模事業者2/3 |
中小企業1/2(条件により2/3) | 一律2/3 |
| 実施期間 | 交付決定日から10か月 | 交付決定日から14か月 | 交付決定日から14か月 |
| 建物費 | 対象外 | 対象 | 対象 |
| 海外旅費・翻訳費 | 対象外 | 対象外 | 対象 |
| 補助下限 | 100万円程度 | 750万円 | 750万円 |
ざっくり言うと、新製品開発なら革新的枠(上限3,500万円)、新市場進出なら新事業進出枠(上限9,000万円)、海外展開ならグローバル枠(上限9,000万円・補助率2/3)です。グローバル枠の補助率2/3は、この統合制度の最大の目玉と言っていいでしょう。
各補助金の違いや選び方については、AI導入に使える3大補助金を比較した記事も参考にしてください。
この制度を使うための共通ハードル
3枠すべてに共通する申請要件があります。3〜5年の事業計画を策定し、以下の数値目標をクリアする必要があります。
| 要件 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 付加価値額 | 年平均成長率 4.0%以上 | 事業計画期間中の平均値 |
| 賃上げ | 年平均 3.5%以上 | 未達時は返還義務あり |
| 最低賃金 | 地域最低賃金 +30円以上 | 未達時は返還義務あり |
| 子育て・職場環境 | 一般事業主行動計画の公表 | くるみん・えるぼし認定で加点 |
正直、これらの数値目標は従来のものづくり補助金より厳しくなっています。特に「付加価値額の年平均成長率4.0%以上」は、業績が横ばいの企業には高いハードルです。ただ、裏を返せば本気で事業成長を狙う企業向けに制度が絞られたとも言えます。
賃上げで上限が跳ね上がる仕組み
基本の補助上限に加えて、大幅賃上げ特例を満たすと上限額が引き上げられます。
| 特例 | 条件 | 効果 |
|---|---|---|
| 大幅賃上げ特例 | 給与支給総額 年平均+6.0%以上、最低賃金+50円以上 | 上限額が引き上げ(例: 革新的枠 2,500万円→3,500万円) |
| 最低賃金引上げ特例 | 最低賃金近傍労働者が一定割合以上 | 補助率が引き上げ |
注意したいのは、これらの特例は「宣言すればOK」ではなく、事業終了時に実際に達成していることが条件です。未達の場合、上乗せされた補助額は返還となるため、無理な目標設定は禁物です。
補助対象になる経費・ならない経費
対象になる主な経費
| 経費項目 | 革新的枠 | 新事業進出枠 | グローバル枠 |
|---|---|---|---|
| 機械装置・システム構築費 | ○ | ○ | ○ |
| 技術導入費 | ○ | ○ | ○ |
| 専門家経費 | ○ | ○ | ○ |
| クラウド利用費 | ○ | ○ | ○ |
| 外注費 | ○ | ○ | ○ |
| 知的財産関連費 | ○ | ○ | ○ |
| 原材料費 | ○ | ○ | ○ |
| 広告宣伝・販売促進費 | ○ | ○ | ○ |
| 建物費 | × | ○ | ○ |
| 海外旅費・翻訳費 | × | × | ○ |
対象外となる主な経費
- 汎用性の高いPC・スマートフォン・事務家具
- 家賃・保証金・不動産購入費
- 車両購入費(一部例外あり)
- 飲食・接待費
- 自社人件費
- 計画書作成代行費
- 消費税
ぶっちゃけ、「広告宣伝費が対象」という点は見逃せません。従来のものづくり補助金では対象外だった経費です。新製品のプロモーション費用を補助対象にできるのは、実務的にかなり助かります。
申請から交付までの8ステップ
Step 1: GビズIDプライムの取得(所要: 1〜2週間)
電子申請にはGビズIDプライムが必須です。法人の場合は印鑑証明書、個人事業主はマイナンバーカードが必要です。まだ取得していない場合は、今すぐ手続きを始めてください。申請受付開始の8月31日までに取得が間に合わないと、そもそも申請できません。
Step 2: 事業計画の骨子策定(所要: 2〜4週間)
どの枠で申請するかを決め、3〜5年の事業計画の骨子を作ります。最初に枠を間違えると、その後の計画がすべて無駄になるので、ここが最も重要なステップです。
枠選びの簡易チェック:
- まったく新しい製品・サービスを開発する → 革新的枠
- 既存技術を活かして新市場に進出する → 新事業進出枠
- 自社製品の海外販路を開拓する → グローバル枠
Step 3: 加点項目の準備(所要: 1〜2週間)
以下の認定・宣言を事前に取得しておくと、審査で有利になります。取得に時間がかかるものもあるため、早めに動きましょう。
- 経営革新計画の承認(各都道府県)
- パートナーシップ構築宣言(ポータルサイトで登録)
- くるみん・えるぼし認定(厚生労働省)
- DX認定(経済産業省)
Step 4: 見積書の取得(発注は厳禁)
設備やシステムの見積書を取得します。ここで絶対に注意したいのは、交付決定前に発注・契約・支払いをしてはいけないこと。事前着手した経費は一切補助対象になりません。見積書の取得だけに留めてください。
Step 5: 電子申請(8月31日〜9月30日)
GビズIDで電子申請システムにログインし、事業計画書と必要書類を提出します。申請書は申請者自身が作成する必要があります。外部の専門家に相談することは問題ありませんが、丸投げは不可です。
Step 6: 採択通知(12月頃予定)
審査結果が通知されます。採択されたら交付申請に進みます。採択イコール交付決定ではないため、この段階でもまだ発注はできません。
Step 7: 交付申請・交付決定 → 事業実施
交付決定を受けてから、ようやく発注・契約が可能になります。事業実施期間は枠により10〜14か月です。
Step 8: 実績報告・補助金支払い・5年間の事業化状況報告
事業完了後、実績報告書を提出し、審査後に補助金が支払われます(後払い方式)。さらにその後5年間、事業化状況を定期報告する義務があります。この報告を怠ると返還を求められるケースもあるため注意が必要です。
やってはいけない5つの失敗
失敗1: 交付決定前に発注してしまう
❌ 採択通知が来た時点で設備を発注する
⭕ 交付決定通知を正式に受領してから発注する
これが補助金申請における最大の落とし穴です。採択≠交付決定。この違いを知らずに、せっかく採択されたのに補助金が全額不交付になったケースが後を絶ちません。
失敗2: 枠選びを間違える
❌ 「上限額が高いから」という理由だけで新事業進出枠を選ぶ
⭕ 自社の事業内容と各枠の審査基準を照らし合わせて選ぶ
新事業進出枠は「新市場性」「高付加価値性」が厳しく審査されます。既存事業の延長線上にある計画では、枠の趣旨に合わず不採択になるリスクがあります。
失敗3: 数値目標を飾りにする
❌ 「売上を向上させる」「生産性を改善する」
⭕ 「売上高を3年間で年平均5.2%増加させ、5年後に1.8億円を達成する」
審査では付加価値額の年平均成長率4.0%以上を具体的な根拠とともに示す必要があります。過去3期分の財務データと整合する、現実的かつ意欲的な数字を設定してください。
失敗4: 5年間の報告義務を軽視する
❌ 補助金を受け取ったら終わり
⭕ 補助金受給後5年間、事業化状況を定期報告する体制を整える
この補助金では5年間の報告が義務付けられています。報告を怠ると補助金の返還を求められる可能性があります。事業計画書には「報告体制」についても明記しておくべきです。
失敗5: 補助事業専用でない設備を計上する
❌ 普段使いのPCやスマホを補助対象経費に入れる
⭕ 補助事業に専用で使用する設備のみを計上する
「補助事業専用」の考え方は厳格です。兼用できる汎用機器は原則対象外となります。
AI・DX導入でこの補助金を使うには
AIやDX関連の投資を検討している企業にとって、この統合補助金はかなり使い勝手が良くなっています。
| AI/DXの用途 | 最適な枠 | 想定事業費 | 補助額目安 |
|---|---|---|---|
| AI画像検査装置の自社開発 | 革新的枠 | 2,000万円 | 1,000〜1,333万円 |
| AI×自社製品で新市場進出 | 新事業進出枠 | 5,000万円 | 2,500〜3,333万円 |
| AI搭載製品の海外販路開拓 | グローバル枠 | 6,000万円 | 4,000万円 |
| DXシステム刷新+建物改装 | 新事業進出枠 | 8,000万円 | 4,000〜5,333万円 |
特にAIスタートアップやものづくり企業が、自社AI製品の開発・市場投入に使える制度として設計されています。クラウド利用費や広告宣伝費も対象になるため、SaaS型AIサービスの立ち上げにも相性が良いでしょう。
AI導入に関する計画策定や補助金活用についてのご質問は、お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
旧制度から何が変わったのか — 統合のポイント
旧ものづくり補助金と旧新事業進出補助金は、それぞれ別々の公募スケジュール・審査基準で運用されていました。今回の統合で、以下の点が大きく変わりました。
| 項目 | 旧ものづくり補助金 | 旧新事業進出補助金 | 統合後 |
|---|---|---|---|
| 枠数 | 7枠以上(類型が複雑) | 3枠 | 3枠に集約 |
| 上限額 | 最大4,000万円 | 最大4,000万円 | 最大9,000万円 |
| グローバル枠補助率 | 1/2 | 1/2 | 2/3に引上げ |
| 広告宣伝費 | 原則対象外 | 一部対象 | 全枠で対象 |
| 事業化状況報告 | 3年 | 5年 | 5年に統一 |
要するに、これまで「どの枠で申請すればいいか分からない」と言われていた複雑さを解消しつつ、本気で成長を目指す企業には手厚く、という方向に舵が切られました。ただその分、申請要件の数値目標は厳しくなっています。
審査で加点される要素 — 事前準備で差をつける
書類審査では以下の項目が重視されます。事前に取得できる認定・宣言は、申請までに揃えておきましょう。
- 経営革新計画の承認: 各都道府県で申請可能。承認まで1〜2か月かかるため、今すぐ動くべき項目です
- パートナーシップ構築宣言: ポータルサイトで即日登録可能。コストゼロで加点されるため、必ず宣言しておきましょう
- くるみん・えるぼし認定: 子育て支援・女性活躍推進の認定。取得済みなら加点
- DX認定: 経済産業省の認定制度。デジタルガバナンスコードに沿った取組が評価されます
- 賃上げ計画の具体性: 「3.5%賃上げ」だけでなく、どの職種で・いつ・どのように実現するかの具体性が審査されます
+
正直なところ、これらの加点項目をすべて揃えるのは大変です。ただ、最低でもパートナーシップ構築宣言と経営革新計画の2つは取得しておくことを強くおすすめします。この2つだけで審査上の印象がかなり変わります。
スケジュールを押さえる — 今から何をすべきか
| 時期 | マイルストーン | やるべきこと |
|---|---|---|
| 6月29日 | 公募要領公開 | 要領を熟読し、自社に合う枠を判断 |
| 7月〜8月中旬 | 準備期間(約8週間) | GビズID取得、事業計画策定、見積取得、加点項目の準備 |
| 8月31日〜9月30日 | 申請受付期間 | 電子申請。締切直前はシステム混雑のため、9月中旬までに申請完了が安全 |
| 12月頃 | 採択発表(予定) | 結果を確認し、採択されたら交付申請の準備 |
| 2027年1月〜 | 交付決定・事業開始 | 交付決定後に発注。10〜14か月で事業実施 |
| 2027年末〜2028年 | 実績報告・補助金受領 | 事業完了後、実績報告を提出 |
| 〜2032年 | 5年間の事業化状況報告 | 毎年報告義務あり |
よくある質問
Q. 従来のものづくり補助金と併用できますか?
できません。同一経費の重複計上は不可で、かつ過去3年以内に旧ものづくり補助金・旧新事業進出補助金・事業再構築補助金の交付決定を2回以上受けている事業者は、今回の統合補助金の対象外となる可能性があります。公募要領で必ず確認してください。
Q. 創業間もない会社でも申請できますか?
革新的新製品・サービス枠とグローバル枠は、創業1年未満でも申請可能です。ただし新事業進出枠は創業1年以上が要件です。また全枠共通で従業員1名以上が必要です(従業員0名の事業者は対象外)。
Q. 補助金を受け取った後、賃上げ目標を達成できなかったら?
賃上げ要件(年平均3.5%以上)および最低賃金要件(地域最低賃金+30円以上)が未達の場合、補助金の返還を求められる可能性があります。一定の免除事由(自然災害・重大な経営環境変化等)はありますが、基本的には達成が前提と考えてください。
Q. 他の補助金と併用する裏技はありますか?
同一経費の重複は不可ですが、経費を分ければ別制度との併用は可能です。例えば、設備投資は統合補助金で、研修費は厚生労働省系の研修助成制度で、という組み合わせは有効です。また都道府県独自の上乗せ助成金と組み合わせられるケースもあります。ただし、申請前に必ず各制度の事務局に併用の可否を確認してください。「申請してみたら併用不可だった」では取り返しがつきません。
まとめ — この補助金で最も大切な3つのこと
最後に、この統合補助金の申請で最も重要なポイントを整理します。
1. 最初の枠選びが合否を決める。革新的枠・新事業進出枠・グローバル枠のどれを選ぶかで、審査基準も上限額も大きく変わります。自社の事業計画を客観的に見て、最も適合する枠を選びましょう。
2. 数値目標は「現実的かつ意欲的」に。付加価値額4.0%成長、賃上げ3.5%は高いハードルです。しかし、未達時の返還リスクを考えると、過大な目標設定は自殺行為です。過去の財務データに基づいた、達成可能で評価される数字を設定してください。
3. 5年間の報告義務を忘れるな。補助金を受け取ってからが本当のスタートです。5年にわたる事業化状況報告を社内の誰が・どのように担当するか、申請段階から決めておきましょう。
AI導入やDX推進の計画策定、補助金活用についてご不明な点があれば、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
チェックリスト — 申請前に最終確認
以下の項目をすべて満たしているか、申請前に必ず確認してください。
- □ GビズIDプライムを取得済みか?
- □ 自社の事業内容が選んだ枠の趣旨に合致しているか?
- □ 付加価値額の年平均成長率4.0%以上を具体的な数値で示せるか?
- □ 賃上げ年平均3.5%以上の具体的計画があるか?
- □ 一般事業主行動計画を公表しているか?
- □ 見積書は取得したが、発注はしていないか?
- □ 加点項目(パートナーシップ構築宣言・経営革新計画等)は準備したか?
- □ 事業計画書は自社で作成したか?(外部丸投げは不可)
- □ 過去の補助金採択回数が制限に引っかからないか?
- □ 5年間の事業化状況報告に対応できる社内体制があるか?
最後の項目は特に見落としがちです。補助金を受け取って終わりではなく、その後5年間の報告が法律上の義務です。この点を理解した上で申請してください。
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
免責事項: 本記事の情報は2026年6月30日時点の中小企業庁・ミラサポplusの公表資料に基づく参考情報です。補助金の制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
参考・出典
- 【補助金】新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募要領を公開 — ミラサポplus(参照日: 2026-06-30)
URL: https://mirasapo-plus.go.jp/infomation/33311/ - 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公式サイト — 中小企業庁(参照日: 2026-06-30)
URL: https://shinjigyou-monodukuri.smrj.go.jp/ - jGrants 電子申請ポータル(参照日: 2026-06-30)
URL: https://www.jgrants-portal.go.jp/ - 中小企業庁(参照日: 2026-06-30)
URL: https://www.chusho.meti.go.jp/ - GビズID公式サイト(参照日: 2026-06-30)
URL: https://gbiz-id.go.jp/top/
