就職が難しい状況にある高年齢者・障害者・母子家庭の母などを採用した中小企業に対して、国から助成金が支給される制度がある。「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」だ。
中小企業が重度障害者を正規雇用した場合、最大240万円(6か月ごとに最大40万円、6期にわたって支給)を受け取れる。採用コストや定着支援コストの実質的な補填として、近年は中小製造業やサービス業を中心に活用が広がっている。
令和8年5月1日からは対象要件の一部が改正されており、特に高年齢者(60歳以上)の採用を検討している事業主は、新しい要件を押さえておく必要がある。本記事では支給額の早見表から申請の流れまで、令和8年度時点の情報をもとに解説する。
支給額の早見表:採用する対象者の類型によって大きく異なる
支給額は採用する労働者の属性によって3つの区分に分かれる。各区分の合計助成額と支払い方法を確認しよう。
| 対象労働者の区分 | 合計助成額(中小企業) | 合計助成額(大企業) | 支払い方法(中小企業) |
|---|---|---|---|
| ①母子家庭の母等、高年齢者(60歳以上)、ウクライナ避難民等 | 60万円 | 50万円 | 30万円×2期(各6か月) |
| ②身体・知的障害者 | 120万円 | 50万円 | 30万円×4期(各6か月) |
| ③重度障害者、45歳以上の障害者、精神障害者 | 240万円 | 100万円 | 40万円×6期(各6か月)※第3期のみ34万円 |
上記の金額は、週所定労働時間が30時間以上の通常労働者のケース。週20時間以上30時間未満の「短時間労働者」の場合は金額が減額される(例:①区分の短時間は合計40万円、③区分の短時間は合計80万円)。
支給対象期は6か月単位。採用日(賃金締切日がある場合はその翌日)を起算日として、6か月ごとに区切って支給申請を行う。各期の末日の翌日から2か月以内が申請期間なので、カレンダーに必ず記入しておくこと。
出典:愛知労働局「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)について」および厚生労働省作成リーフレット(令和8年度版)
令和8年5月以降の改正点:高年齢者採用で要件が追加された
令和8年5月1日から、高年齢者(60歳以上)に関する要件が変わった。改正の概要を整理すると次のとおりだ。
| 区分 | 令和8年5月1日より前 | 令和8年5月1日以降 |
|---|---|---|
| 高年齢者の要件 | 雇入れ時の年齢が60歳以上 | 雇入れ時の年齢が60歳以上、かつハローワーク等での就労に向けた個別支援を受けている |
| 職業紹介 | ハローワーク等の紹介であればよい | 「特定求職者雇用開発助成金の対象労働者であること」を明示した職業紹介が原則必要 |
ぶっちゃけ、この改正で手続きが少し複雑になった。令和8年5月以降に60歳以上の方を採用する場合は、ハローワークの担当者に「この方は助成金の対象として個別支援を受けているか」を採用前に確認しておくのが確実だ。
どんな企業・どんな人が対象になるか
支給対象となる事業主の主な要件
- 雇用保険の適用事業主であること
- 採用日の前後6か月間に、事業主都合による解雇(勧奨退職を含む)をしていないこと
- 採用日の前後6か月間に、特定受給資格者となる理由での離職者が被保険者数の6%を超えていないこと(3人以下の場合を除く)
- 労働保険料を滞納していないこと
- 対象労働者の賃金を支払っていること
過去に同助成金を活用し、助成対象期間中に事業主都合で対象者を解雇・雇止めした場合は、その後3年間は申請できない。正直、これは厳しめの要件なので注意が必要だ。
対象労働者の類型(採用時65歳未満が原則)
採用日時点で65歳未満であることが基本条件。ただし①区分の「60歳以上の者(高年齢者)」については65歳以上でも対象となる。主な対象者は以下のとおりだ。
- ① 母子家庭の母等に相当する類型:母子家庭の母、父子家庭の父、高年齢者(60歳以上)、中国残留邦人等永住帰国者、北朝鮮帰国被害者等、アイヌの人々、ウクライナ避難民、補完的保護対象者 など
- ② 身体・知的障害者:ハローワーク等の紹介による採用
- ③ 重度障害者、45歳以上の障害者、精神障害者:この区分が最も助成額が大きい(最大240万円)
助成対象となる雇用形態
正規雇用、無期雇用のほか、有期雇用でも「対象労働者が望む限り更新できる契約」であれば対象になる。ただし「勤務成績等により更新の有無を判断する」などの条件が付いている契約は対象外となる点に注意が必要だ。
ハローワーク経由の採用が絶対条件
この助成金の最重要ルールがここだ。対象者を採用するルートは必ずハローワーク等の職業紹介でなければならない。
具体的に使えるルートは次のとおり。
- ハローワーク(公共職業安定所)
- 地方運輸局
- 適正な運用が認められる特定地方公共団体
- 有料・無料職業紹介事業者(ただし労働局に同意書を提出していること)
- 無料船員職業紹介事業者
求人サイトや自社の直接募集で採用した場合は、たとえ対象者であっても助成金を受けられない。「ハローワークに求人票を出してから採用する」という手順が前提になる。
また、ハローワークのオンライン自主応募も対象外だ。形式的な職業紹介を後付けで行っても同様に対象外となるので、採用活動の最初の段階からハローワーク経由で進めることが重要になる。
申請の流れ:採用後に動けばいい、でも手順を間違えると受給できない
この助成金は「採用前に申請する」タイプではなく、採用後に支給対象期ごとに申請する事後申請型だ。主な流れをまとめる。
- ハローワーク等で求人を出す:「特定求職者雇用開発助成金の対象労働者」であることを前提とした求人であることをハローワークに伝えることが重要
- 対象者を雇い入れる:雇用保険の一般被保険者として継続雇用することが確実であること
- 第1期の支給申請(採用から約6か月後):支給対象期末日の翌日から2か月以内に労働局またはハローワークへ提出
- 審査・支給決定:審査には一定の期間が必要。支給決定後、指定口座に振込
- 第2期以降も同様の申請を繰り返す:区分によって2〜6期にわたる
主な提出書類(第1期)
- 支給申請書(様式第3号)
- 賃金台帳等(支給対象期間の賃金を確認できるもの)
- 出勤簿等
- 対象者であることを証明するための書類(母子家庭の母等申立書、障害者手帳の写し等)
- 雇用契約書または雇入れ通知書
- 対象労働者雇用状況等申立書(様式第5号)
- 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
書類は黒のボールペンで記入し、申請期間内に持参または郵送(簡易書留等)で提出する必要がある。FAXは不可。郵送の場合は必ず追跡できる方法を選ぶこと。
詳細な様式や提出書類チェック表は、愛知労働局のページ(https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/newpage_01328.html)や各都道府県の労働局からダウンロードできる。
採用コスト削減効果の試算(中小企業のシナリオ例)
実際の採用コストを考えると、助成金の効果がよくわかる。下記はあくまで試算の参考例であり、個別の状況によって異なる。
| 採用ケース | 支給総額(中小企業) | 支給期間 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 60歳以上の高年齢者を正規雇用 | 60万円 | 1年間(2期) | 即戦力の技術者・管理職採用で活用しやすい |
| 身体障害者を正規雇用 | 120万円 | 2年間(4期) | 障害者雇用促進法の雇用率達成にも貢献 |
| 精神障害者を正規雇用(通常労働時間) | 240万円 | 3年間(6期) | 最も助成期間が長い区分 |
| 母子家庭の母を正規雇用 | 60万円 | 1年間(2期) | 子育て支援の文脈でも社会的評価が高い |
※上記は中小企業・正規雇用・通常労働時間の場合の合計支給額。実際の受給額は賃金額や実労働時間によって変動する場合がある。
たとえば精神障害者を月給22万円で採用した場合、3年間で240万円の助成金が入る計算になる(試算値)。採用・定着支援のコストと対比して考えると、積極的に活用する理由になる。
AI・DX人材採用との接点:就職困難者の活用で採用難を乗り越える
中小企業がAI・DXに対応する人材を確保しようとすると、競合は大手企業との賃金格差という壁にぶつかる。そんな中、障害者や高年齢者の中には、ITスキル・データ分析・プログラミングに強みを持つ人材が確実に存在する。
精神障害者の中には、高度なコーディングスキルを持つエンジニアや、データ処理に集中できる環境で高い生産性を発揮する方も多い。AI・DX推進を見据えたとき、特定求職者雇用開発助成金を活用した採用は「即戦力の獲得」と「採用コストの補填」を同時に実現できる手段になりうる。
ただし、このような採用を成功させるためには、職場環境の整備や定着支援が欠かせない。助成金の活用と並行して、社内のコミュニケーション体制の整備や、業務設計の見直しを進めることが重要だ。
AI・DX研修と組み合わせて社員全体のスキルを底上げすることで、就職困難者を含む多様な人材が活躍できる職場づくりにつながる。詳しくは人材開発支援助成金の活用ガイドも参考にしてほしい。
よくある質問:この制度で失敗しないために
Q. 試用期間を設けていても助成対象になりますか?
なる。正規雇用として採用する場合、試用期間の設定は日本の雇用慣行上一般的であるとして直ちに対象外にはならない。ただし第1期の支給申請時点で試用期間が継続している場合や、試用期間と本採用後で雇用契約が別になっている場合は対象外となる。
Q. 採用してから助成金の存在を知りました。今から申請できますか?
残念ながら、この場合は対象外になる可能性が高い。ハローワークからの職業紹介において「特定求職者雇用開発助成金の対象労働者として紹介された」という事実が必要なため、採用後から遡って適用することはできない。今後の採用計画の中でハローワークと連携することを検討してほしい。
Q. 就労継続支援A型事業所でも使えますか?
使える場合もあるが、「離職割合要件」という追加条件がある。過去に助成金を受給した就労支援A型事業所で、対象者の離職割合が高い場合は新たな申請ができない。詳細は管轄の労働局に確認が必要だ。
Q. 不支給になったり取り消しになった場合はどうなりますか?
不正受給が発覚した場合は支給決定が取り消されて全額返還が求められ、その後5年間は各種助成金を受給できなくなる。悪質な場合は公表や詐欺罪の適用もある。申請に際しては必ず実態に即した書類を提出すること。
雇用関係の助成金を組み合わせて活用する
特定求職者雇用開発助成金は、他の雇用関係助成金と組み合わせることができる場合がある。特にトライアル雇用助成金を先に活用して対象者の適性を確認し、本採用後に特定求職者雇用開発助成金を申請するというルートは、採用リスクを下げながら助成を受けられる実践的な活用法として知られている。
雇用関係の助成金の全体像については、厚労省の高年齢者雇用対策に関するページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/index.html)でも制度の位置づけが確認できる。
また、AI研修・DX研修費用の助成を受けたい場合は、人材開発支援助成金(雇用関係助成金の総合ガイド)との併用も検討する価値がある。採用した就職困難者をAI研修で戦力化するというアプローチは、採用コストと研修コストの両方を国の助成で補填できる有力な方法だ。
申請手続きのまとめと問い合わせ先
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の要点をまとめると次のとおりだ。
- 対象:高年齢者・障害者・母子家庭の母等の就職困難者を、ハローワーク等の紹介で採用した事業主
- 支給額:中小企業で最大240万円(区分・雇用形態によって異なる)
- 支給方法:6か月ごとの事後申請(2〜6期)
- 令和8年5月改正:高年齢者(60歳以上)はハローワーク等での個別支援受講が追加要件に
- 絶対条件:ハローワーク等の職業紹介経由の採用のみ対象(直接募集・求人サイト不可)
申請様式の入手・詳細な要件の確認は、各都道府県の労働局またはハローワーク、あるいはJグランツ(https://www.jgrants-portal.go.jp/)で電子申請の案内を確認してほしい。令和3年3月から電子申請にも対応しており、郵送・持参に加えて選択肢が増えている。
本記事の情報は令和8年6月時点のものです。制度の詳細や要件については、必ず最新の公募要領や管轄の労働局で確認してください。
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
