パートやアルバイトを雇っている事業主にとって、令和7年7月から使えるようになった「短時間労働者労働時間延長支援コース」は見逃せない制度だ。週の所定労働時間を5時間以上延ばして社会保険に加入させると、小規模企業なら1人あたり最大75万円(1年目50万円+2年目25万円)の助成金が受けられる。
この記事を読めば、申請の全体像と「何から手をつければいいか」がわかる。100社以上の助成金活用支援の経験から言うと、このコースで最も多い失敗は「計画届の提出を忘れること」。社会保険の適用前日までに出し忘れると、申請資格そのものがなくなる。まずそこから押さえよう。
このコースが使えるかどうか、以下の3点を先にチェックしてほしい。
- 対象の労働者は「有期雇用労働者等」か:パート・アルバイト・派遣労働者など、非正規雇用の労働者が対象。正社員は対象外。
- 社会保険加入日の6か月以上前から継続雇用しているか:雇い入れてから日が浅い従業員は対象にならない。
- 過去2年以内に同じ事業所で社会保険に加入していないか:一度でも加入歴があると対象外になる。
この3つをクリアしていれば、次のステップへ進める。
なお、正社員化コースや情報公表加算との関係については、【2026年】キャリアアップ助成金 正社員化コース完全ガイドと情報公表加算 申請方法ガイドもあわせて確認されたい。
制度の基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | キャリアアップ助成金 短時間労働者労働時間延長支援コース |
| 所管省庁 | 厚生労働省 |
| 新設時期 | 令和7年7月1日(2025年7月1日) |
| 前身制度 | 社会保険適用時処遇改善コース(令和8年3月末で新規対象期間終了) |
| 助成額(小規模・30人以下) | 1年目:50万円 2年目:25万円 合計最大75万円/人 |
| 助成額(中小企業) | 1年目:40万円 2年目:20万円 合計最大60万円/人 |
| 助成額(大企業) | 1年目:30万円 2年目:15万円 合計最大45万円/人 |
| 1事業主の上限人数 | 上限なし |
| 計画届の期限 | 社会保険加入日の前日までに提出必須 |
| 支給申請の期限 | 支給対象期分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内 |
| 申請先 | 都道府県労働局・ハローワーク(電子申請ESOPも対応) |
| 公式サイト | 厚生労働省 キャリアアップ助成金 |
※ 上記は令和7年7月1日時点の情報を基にしています。最新情報は厚生労働省公式サイトでご確認ください。
「年収の壁」問題と、このコースが生まれた背景
パートやアルバイトが一定の収入を超えると社会保険料の負担が発生し、手取りが減る——いわゆる「106万円の壁」「130万円の壁」だ。多くの従業員がこの壁を意識してシフトを意図的に減らす現象が、人手不足をさらに深刻にしている。
旧制度の「社会保険適用時処遇改善コース」は令和8年3月末で新規の対象期間が終了した。この新コースはその後継として、要件を見直して使いやすくした制度だ。特に、1事業主あたりの上限人数が設けられていない点は、複数のパート従業員を抱える事業主にとって大きな強みになる。
Step 1: 対象労働者の要件を満たしているか確認する
実務でよくある誤解が「雇っているパートなら誰でも対象」という思い込み。正確な要件はこの4点だ。
①雇用期間:社会保険加入日の6か月以上前から継続雇用
短期バイトや入ったばかりのパートは対象外。社会保険に加入させる日の6か月以上前から、継続して同じ事業所に雇用されていることが必要だ。
②社保の加入歴:過去2年以内に同事業所で未加入
一度社会保険に加入した後で脱退し、また加入させる場合は対象外。「新たに」被保険者にすることが要件なので、加入歴のある従業員は使えない。
③事業主との関係:3親等以内の親族でないこと
家族を社会保険に入れるための助成金ではない。事業主または取締役の3親等以内の親族は対象外。
④申請時に在籍していること
支給申請をする時点で、まだその事業所に雇用されていることが必要。退職した後では申請できない。
Step 2: 「週5時間延長」か「2時間延長+賃金15%増」かを選ぶ
このコースで助成を受けるには、次の2つのルートのどちらかを実施して社会保険に新たに加入させることが必要だ。
ルートA:週所定労働時間を5時間以上延長する
最もシンプルなルート。たとえば週15時間から20時間以上に増やすイメージ。延長後の時間が社会保険の適用要件(週20時間以上など)を満たす必要がある。「とにかくシフトを増やせる」なら、このルートが確実だ。
ルートB:週所定労働時間を2時間以上3時間未満延長+基本給を15%以上増額
大きく時間を増やせない場合の選択肢。労働時間の増加は2時間以上3時間未満に抑えながら、基本給を15%以上引き上げることで社会保険適用要件を満たすルートだ。ただし、賃金を大幅に上げる分、事業主のコスト負担は大きくなる。
どちらのルートを選ぶかは、従業員の希望や事業所の状況によって変わる。迷ったときは管轄のハローワークに相談するのが近道だ。
Step 3: キャリアアップ計画書を作成し、前日までに提出する
ここが最大の落とし穴。社会保険加入日の前日までに「キャリアアップ計画書」を管轄の都道府県労働局またはハローワークへ提出しなければならない。
「採択が決まってから動けばいい」という感覚でいると手遅れになる。事前計画書の提出が、助成金申請の大前提だ。
キャリアアップ計画書に記載する主な内容
- 事業所の基本情報(名称・所在地・雇用保険適用事業所番号)
- 対象となる非正規雇用労働者のグループ名
- 取り組む予定のキャリアアップ措置(本コースの場合は「労働時間延長・社会保険適用」)
- 目標人数・実施予定時期
厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできる。書き方が分からない場合はハローワークの窓口で相談できる。
Step 4: 労働時間を延長し、社会保険に加入させる
計画書の提出後、実際に週所定労働時間を延長する。就業規則や雇用契約書(労働条件通知書)の変更・更新が必要になる。
注意点:変更は書面で必ず残す
口頭での合意だけでは審査を通過しにくい。雇用契約書(もしくは労働条件通知書)を改訂して、新しい週所定労働時間と賃金を書面で確認しておくことが重要だ。
その後、新たな労働時間に基づいて社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者資格取得の手続きを行う。
Step 5: 第1支給対象期(6か月間)を継続し、支給申請書を提出する
社会保険の適用後、6か月間が「第1期支給対象期」となる。この期間中、延長した労働時間と賃金を継続して支払い続けることが求められる。
6か月が経過したら、支給対象期分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内に支給申請書を提出する。この期限も絶対に守ること。2か月を1日でも超えると、原則として申請が受け付けられなくなる。
第1期の申請で準備する主な書類
- 支給申請書(様式第1号・コース別)
- キャリアアップ計画書(提出済みの写し)
- 対象労働者の賃金台帳(申請期間分)
- 出勤簿・タイムカード(申請期間分)
- 雇用契約書または労働条件通知書(延長後のもの)
- 社会保険の資格取得確認書類
Step 6: 第2支給対象期(さらに6か月)を継続し、2年目の助成を受ける
第1期の支給を受けた後も継続して雇用と社会保険加入を維持すれば、第2期の助成も受けられる。第2期は第1期終了から7か月後以降の6か月間が対象となる。
小規模企業なら2年間で合計75万円(1人)、複数の従業員に適用すれば上限なく積み上げられる。人手不足解消と人件費負担の両立を図る事業主にとって、使い方次第で相当なインパクトがある制度だ。
このコースを使ってよくある4つの失敗
失敗1:計画届の前に社会保険手続きを進めてしまった
❌ 「社会保険の加入手続きが完了した後でキャリアアップ計画書を出す」
✅ 「計画書を社会保険加入日の前日までに提出してから加入手続きを行う」
順番を間違えると申請の資格を失う。ここが最も多い失敗だ。
失敗2:支給申請期限の2か月を1日超えた
❌ 「少し忙しかったので申請が3か月後になってしまった」
✅ 「賃金支払日を確認し、翌日からカウントして申請期限を事前にカレンダーに入れておく」
期限の延長はほぼ認められない。支払い日が確定した時点で申請期限を計算して管理することが必須だ。
失敗3:雇用期間が6か月に満たない従業員に使おうとした
❌ 「最近入ったアルバイトも対象に含めて計画書を作った」
✅ 「雇用開始日を確認し、社会保険加入日の6か月以上前から在籍している従業員だけを対象にする」
失敗4:対象従業員が申請前に退職してしまった
❌ 「支給申請のタイミングで対象者が辞めていた」
✅ 「申請時点でまだ在籍していることが要件。退職リスクがある場合は早めに申請を進める」
「社会保険適用時処遇改善コース」との違いはどこか
旧コース(社会保険適用時処遇改善コース)は令和8年3月末で新規の対象期間が終了した。新コースとの主な違いは次の通りだ。
| 項目 | 旧コース(処遇改善コース) | 新コース(本コース) |
|---|---|---|
| 対象期間 | 令和8年3月末で新規終了 | 令和7年7月1日〜継続 |
| 小規模企業助成額 | 段階的 | 最大75万円(拡充) |
| 申請しやすさ | 要件が複雑 | 要件を整理・緩和 |
| 適用可能な壁 | 主に106万円の壁 | 130万円の壁にも対応 |
令和8年4月以降に新たに社会保険適用を考えている場合は、迷わず新コースの手続きに進んでほしい。
まとめ:今日から動くための3つのアクション
- 対象者を今すぐ洗い出す:「6か月以上在籍・社保未加入・2年以内加入歴なし」の3条件を満たすパート・アルバイトをリストアップする。
- 管轄のハローワークまたは労働局に連絡する:キャリアアップ計画書の書き方に不明点があれば窓口で確認できる。電子申請(ESOP)の案内も受けられる。
- 社会保険加入のスケジュールを決める前に計画書を準備する:順番が命。「加入前日までに提出」を最初から逆算してスケジュールを組む。
AI導入と合わせてパート・アルバイトの活用方法を見直したい場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
よくある質問(FAQ)
Q1. このコースは令和8年度も使えますか?
令和7年7月1日に新設されたコースで、令和8年度(2026年度)も継続して申請可能です。旧「社会保険適用時処遇改善コース」は令和8年3月末で新規対象期間が終了しましたが、本コースはその後継として継続運用されています。最新情報は厚生労働省公式サイトでご確認ください。
Q2. 複数のパート従業員に適用できますか?
はい。1事業主あたりの上限人数は設けられていません。要件を満たす従業員の人数分だけ申請できます。ただし、各従業員ごとに要件を満たしているかどうかを個別に確認してください。
Q3. 週20時間未満の従業員でも対象になりますか?
はい。現在週20時間未満で働いており、労働時間延長後に社会保険の被保険者要件(週20時間以上など)を満たすようになる場合が対象のイメージです。ただし、延長前の段階でも要件確認が必要なため、詳細はハローワークにご相談ください。
Q4. 支給額はどのように計算されますか?
企業規模によって異なります。常時雇用30人以下の小規模企業は1人あたり最大75万円(1年目50万円+2年目25万円)、中小企業は最大60万円(1年目40万円+2年目20万円)、大企業は最大45万円(1年目30万円+2年目15万円)です。
Q5. キャリアアップ計画書はどこで入手できますか?
厚生労働省の公式サイトからダウンロードできます。また、管轄のハローワークや都道府県労働局の窓口でも入手・相談が可能です。電子申請(ESOP)にも対応しています。
参考・出典
- キャリアアップ助成金(厚生労働省公式) 参照日:2026年6月12日
- キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース(厚生労働省) 参照日:2026年6月12日
- 短時間労働者労働時間延長支援コース 事業主向けQ&A(厚生労働省) 参照日:2026年6月12日
- キャリアアップ助成金 パンフレット(厚生労働省) 参照日:2026年6月12日
- 短時間労働者労働時間延長支援コース リーフレット(厚生労働省) 参照日:2026年6月12日
免責事項
本記事の情報は2026年6月12日時点の厚生労働省の公表資料に基づく参考情報です。助成金の制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず厚生労働省の公式サイトで最新の要綱をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
