退職金制度がない中小企業に勤める従業員は、大企業と比べて老後の備えで大きく差がつく。そこで国が用意したのが中小企業退職金共済(中退共)だ。新規加入時には掛金の2分の1(1人あたり上限5,000円)を加入後4か月目から1年間、国が肩代わりしてくれる。
対象は業種問わずほぼすべての中小企業。掛金は全額事業主負担で、受け取るのは従業員という仕組みのため、人材定着の打ち手として検討したい制度だ。本記事では助成の中身から申請手順まで、経営者・総務担当が知っておくべき情報をまとめた。
中退共の掛金助成:3種類の助成制度
国が中退共加入者に用意している助成制度は大きく3つある。
1. 新規加入掛金助成(最大6万円/人)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成額 | 掛金月額の2分の1(1人あたり月上限5,000円) |
| 助成期間 | 加入後4か月目から1年間(合計12か月) |
| 最大助成額 | 5,000円×12か月=6万円/人 |
| 助成方法 | 掛金口座振替時に助成分を控除(実質的な免除) |
たとえば掛金を月10,000円に設定した従業員の場合、最初の1年間は5,000円が国から助成されるため、事業主の実際の口座振替額は月5,000円となる。
2. パートタイマー等の特例(さらに上乗せ助成)
週の所定労働時間が30時間未満のパートタイマー等短時間労働者を中退共に加入させる場合、特例の低い掛金月額(2,000円・3,000円・4,000円)が選べる。さらに、新規加入助成に加えて以下の額が上乗せされる。
| 掛金月額 | 基本助成(1/2) | パートタイマー特例上乗せ | 合計助成額/月 |
|---|---|---|---|
| 2,000円 | 1,000円 | 300円 | 1,300円 |
| 3,000円 | 1,500円 | 400円 | 1,900円 |
| 4,000円 | 2,000円 | 500円 | 2,500円 |
パートスタッフが多い飲食業・小売業では特に活用したい特例だ。助成期間は同じく加入後4か月目から1年間。申込時に労働条件通知書など短時間労働者であることの証明書提出が必要になる。
3. 掛金月額変更助成(増額のたびに1年間サポート)
勤続年数が長くなったタイミングで掛金を増額する際にも助成がある。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成率 | 増額分の3分の1 |
| 助成期間 | 増額月から1年間 |
| 対象 | 掛金月額18,000円以下からの増額(20,000円以上からの増額は対象外) |
たとえば月10,000円から月16,000円に増額した場合、増額分6,000円の1/3にあたる2,000円が1年間助成される。「入社時は低めの掛金でスタートし、3年後・5年後に徐々に引き上げる」という運用が助成を最大活用するコツだ。
人材への投資を支援する助成金としては、AI研修や職業訓練費用を補填する制度もある。人材開発支援助成金の種類・申請方法完全ガイドもあわせて参照してほしい。
中退共の加入条件:業種別の基準
中退共に加入できるのは、次の規模基準を満たす中小企業だ(いずれかの条件を満たせばよい)。
| 業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 |
|---|---|---|
| 一般業種(製造業・建設業等) | 300人以下 | 3億円以下 |
| 卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
| サービス業 | 100人以下 | 5,000万円以下 |
| 小売業 | 50人以下 | 5,000万円以下 |
「常用従業員」とは、一週間の所定労働時間が通常の従業員とおおむね同等の者をいう。雇用期間の定めがない者、または2か月超の雇用期間がある者が該当する。
新規加入助成の対象外となるケース
- 同居の親族のみを雇用している事業主
- 社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入している場合
- 適格退職年金制度からの資産移換を目的とする場合
- 企業年金(確定給付・確定拠出)からの資産移換を目的とする場合
このような場合は助成の対象外になるが、中退共への加入自体は可能な場合もある。不明点は中退共本部(TEL:03-6907-1234)に確認するといい。
掛金月額の設定:16段階から自由に選べる
掛金月額は従業員1人ごとに、5,000円から30,000円の範囲で16段階から自由に選択できる。
掛金の目安としては、「在職中の勤続年数ごとに退職金をいくら積み立てたいか」から逆算するのが現実的だ。たとえば「3年勤続で退職金30万円」を目標とすれば、月8,333円程度の掛金が必要になる。中退共の公式サイトには退職金シミュレーターがあり、掛金月額と勤続年数から受取額の試算が可能だ。
掛金は全額事業主負担で、全額損金算入(法人の場合)または必要経費(個人事業主の場合)となる点も中退共の大きなメリットだ。
申請から助成開始まで:6つのステップ
ステップ1: 取扱金融機関で申込書を入手(所要:1〜2日)
申込書は、近くの金融機関(ゆうちょ銀行・農協・漁協・ネット銀行・外資系銀行は除く)または商工会議所・商工会などの委託事業主団体の窓口で入手できる。窓口に行けば申込方法の説明も受けられる。
ステップ2: 申込書に必要事項を記入・提出(所要:1〜3日)
申込書には、事業主の情報・加入させる従業員の情報・掛金月額・口座振替の情報などを記入する。パートタイマー特例を適用する従業員については、特例月額(2,000円・3,000円・4,000円)を選択し、労働条件通知書等の添付が必要だ。
ステップ3: 中退共からチェックシートが届く(所要:1〜2週間)
申込後、中退共から申込確認書(チェックシート)が郵送される。これに以下の書類を添付して返送する必要がある。
- 労働条件通知書の写し(全従業員分)
- 賃金の支払いが確認できる書類(賃金台帳・経費帳・所得税源泉徴収簿のいずれか)の写し
ステップ4: 共済手帳が交付される(所要:1〜2か月)
書類審査が完了すると、従業員ごとの共済手帳が事業主に届く。この時点で正式な加入となる。
ステップ5: 口座振替で掛金の支払い開始(毎月)
申込み時に登録した口座から掛金が毎月引き落とされる。4か月目からは国の助成分(掛金の1/2・上限5,000円)が控除された額が振替される。
ステップ6: 助成は加入後4か月目〜1年間(自動適用)
助成は特別な手続き不要で自動的に適用される。1年間の助成期間終了後は、設定した掛金月額が全額事業主負担で口座振替される。
よくある手続きミスと注意点
ミス1: 全員加入の原則を知らずに一部従業員だけ加入させる
中退共は原則として「全従業員加入」が基本だ(ただし一定の除外要件あり)。気に入った従業員だけを加入させることはできないと思っておいたほうがいい。加入を希望しない従業員は、反対の意思を表明している場合は対象外にできるが、「正社員だけ加入・パートは除外」といった取扱いには慎重な判断が必要だ。
ミス2: 申込前から掛金月額を高く設定しすぎる
掛金月額は後から増額できるが、減額は原則として難しい(厚生労働大臣の認定が必要)。最初から無理のない金額に設定し、業績に応じて増額変更するのが基本的な運用パターンだ。増額時には変更助成(増額分の1/3を1年間)を活用できる。
ミス3: 掛金月額変更のタイミングを逃す
掛金変更助成は18,000円以下からの増額が対象だ。20,000円に到達した後は助成対象外になる。「早めに20,000円に引き上げてしまった」となると助成の恩恵を受けられない区間が生まれる。段階的な増額をプランニングしておきたい。
ミス4: 中途退職時の退職金の扱いを事前に確認していない
中退共の退職金は勤続1年未満だと支給されない。さらに勤続3年以内だと掛金総額を下回る場合がある(3年7か月超から掛金総額を上回る計算になる)。「すぐ辞めるかも」と思われる試用期間中の従業員の加入には注意が必要だ。
人材定着に活かす:中退共を活用した制度整備の考え方
退職金制度がない企業はそれだけで求職者から敬遠される。中退共を導入することで「退職金あり」と求人に記載できるようになり、採用競争力の改善が期待できる。
さらに、従業員のスキルアップ支援制度と組み合わせることで、人材定着効果がさらに高まる。AI活用研修や職業訓練の費用には人材開発支援助成金(最大75%助成)が使えるほか、非正規雇用から正規雇用への転換を進める際にはキャリアアップ助成金(1人最大80万円)も選択肢に入れてほしい。
よくある質問
- Q. 役員も中退共に加入できますか?
- A. 原則として加入できません。中退共は「従業員(労働者)」が対象であり、役員は対象外です。役員の退職慰労金は別の方法で準備する必要があります。
- Q. 加入後に従業員が増えた場合はどうすればよいですか?
- A. 新たに採用した従業員を追加加入させる手続きを行います。追加加入の場合も、その従業員について新規加入掛金助成(1/2・上限5,000円)を1年間受けることができます。
- Q. 企業規模が拡大して中小企業でなくなった場合はどうなりますか?
- A. 一定の要件を満たす場合、確定給付企業年金などへ資産を移換することができます。詳細は中退共本部にご確認ください。
- Q. 掛金はいつから損金算入できますか?
- A. 口座から引き落とされた月に損金(必要経費)に算入できます。助成分(国の肩代わり分)については損金算入の対象外になります。
- Q. 他の退職金制度と中退共を併用できますか?
- A. 確定給付企業年金などと中退共を同一の従業員に対して並行して使用することは原則としてできません。どちらか一方を選択する必要があります。
参考・出典
- 制度の特色(掛金助成)- 中小企業退職金共済事業本部(参照日:2026年6月11日)
- 加入の条件 – 中小企業退職金共済事業本部(参照日:2026年6月11日)
- 掛金 – 中小企業退職金共済事業本部(参照日:2026年6月11日)
- 掛金助成Q&A – 中小企業退職金共済事業本部(参照日:2026年6月11日)
- 中小企業退職金共済制度(中退共制度) – 厚生労働省(参照日:2026年6月11日)
まとめ:中退共の掛金助成 3つのポイント
- 新規加入で最大6万円/人の助成:掛金月額の1/2(上限5,000円)が加入後4か月目から1年間自動的に助成される
- パートタイマーには追加の上乗せ:特例月額(2,000〜4,000円)での加入では基本助成に300〜500円が上乗せされる
- 増額するたびに1年間サポート:18,000円以下からの増額は増額分の1/3が1年間助成される(20,000円以上への増額は対象外)
手続きは近くの金融機関窓口または商工会議所で完結する。退職金制度の整備を検討している中小企業の経営者・総務担当には、まず取扱金融機関に相談することをお勧めしたい。
AI導入や従業員研修とあわせて活用できる助成金情報は、人材開発支援助成金の完全ガイドもご参照ください。
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この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
本記事の情報は2026年6月11日時点の公式資料に基づく参考情報です。制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず中退共公式サイトおよび厚生労働省の最新情報をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
