厚生労働省が実施する「地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)」を使うと、雇用機会が少ない地域に事業所を新設・増設し、地元の求職者を一定数以上雇い入れた事業主は、1回の支給で最大800万円、創業の場合は最大1,600万円を受け取れます。設置・整備費用の額と、新たに雇い入れた対象労働者の増加人数の組み合わせで支給額が決まる「定額支給」型の助成金で、要件を満たせば1年ごとに最大3回まで継続して受給できます。
ものづくり補助金やIT導入補助金のような「経費の◯割を補助する」タイプの制度とは仕組みが異なり、対象地域での事業所設置と地元雇用そのものに対して定額で支給されるのが特徴です。地方にサテライトオフィスやコールセンター、AI活用型のバックオフィス拠点を新設して地域人材を採用したいと考えている中小企業にとっては、意外と知られていない選択肢のひとつだと言えます。
地域雇用開発助成金でもらえる金額
支給額は「事業所の設置・整備費用」と「対象労働者の増加人数」の2軸で決まります。令和8年4月1日以降に計画書を提出した場合の支給額は次のとおりです。
| 設置・整備費用 | 対象労働者3(2)〜4人 | 5〜9人 | 10〜19人 | 20人以上 |
|---|---|---|---|---|
| 300万円以上1,000万円未満 | 50万円(100万円) | 80万円(160万円) | 150万円(300万円) | 300万円(600万円) |
| 1,000万円以上3,000万円未満 | 60万円(120万円) | 100万円(200万円) | 200万円(400万円) | 400万円(800万円) |
| 3,000万円以上5,000万円未満 | 90万円(180万円) | 150万円(300万円) | 300万円(600万円) | 600万円(1,200万円) |
| 5,000万円以上 | 120万円(240万円) | 200万円(400万円) | 400万円(800万円) | 800万円(1,600万円) |
( )内は創業の場合にのみ適用される初回支給額です。中小企業事業主の場合は、初回支給時に上記金額の1/2を上乗せして受け取れます(創業の場合は最初から括弧内の額が適用されるため、この上乗せとは別枠です)。正直なところ、この表だけ見ても自社がどの段目に当てはまるかは分かりにくいので、後述する「設置・整備費用」の対象経費を先に確認してから当てはめるのがおすすめです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース) |
| 所管 | 厚生労働省(都道府県労働局・ハローワーク窓口) |
| 支給方式 | 定額支給(率補助ではない) |
| 下限額 | 設置・整備費用300万円以上(消費税込み) |
| 支給回数 | 1年ごとに最大3回(最長3年) |
| 計画期間 | 計画書提出から最長18か月 |
| 申請窓口 | 事業所を管轄する都道府県労働局長 |
| 公式情報 | 厚生労働省 地域雇用開発助成金ページ |
複数の制度を横断的に比較したい場合は、AI導入に使える補助金5選 徹底比較もあわせてご覧ください。
対象となる3つの地域区分
この助成金の対象になるのは、次の3種類のいずれかに指定された地域に事業所を設置・整備する場合です。
- 同意雇用開発促進地域:求職者数に比べて雇用機会が著しく不足している地域
- 過疎等雇用改善地域:若年層・壮年層の流出が著しい地域など
- 特定有人国境離島等地域:離島振興法等に基づく特定の離島地域
どの市区町村がどの区分に指定されているかは、指定期間が2〜3年単位で区切られており随時更新されます。以前の指定一覧をそのまま使うと対象外になっているケースがあるため、事業所の設置を予定している自治体が対象かどうかは、必ず厚生労働省の地域雇用開発促進法ページか、管轄の労働局・ハローワークに直接確認してください。ここは省略せずに一次情報を当たるべきポイントです。
助成金を受給できる事業主の要件
受給には、事業所の雇用保険適用事業主であることに加え、主に次のような要件をすべて満たす必要があります。
- 各支給要件判定期間中に、事業主都合で被保険者を解雇していないこと
- 特定受給資格者(倒産・解雇等でやむを得ず離職した人)の数が3人を超え、かつ被保険者数の6%を超えていないこと
- 労働保険料を滞納していないこと
- 直近1年間、労働関係法令の違反がないこと
- 労働関係帳簿類・会計関係帳簿類を適正に管理し、実地調査時に提出できること
ぶっちゃけ、事業計画の中身よりもこの「離職者を出していないか」「帳簿がきちんと整備されているか」でつまずく事業主が多い印象です。設置・整備の計画を立てる段階で、労務管理と会計帳簿の状態を一度点検しておくと安心です。
対象となる設置・整備費用とAI・DX拠点整備での活用例
対象経費は「工事費」「不動産購入費」「動産購入費」「不動産賃借費」「動産賃借費」の5区分で、いずれも1契約(または1点)あたり20万円以上であることが条件です。地方にAI活用型の拠点を新設するケースを想定すると、次のような費用が対象になり得ます。
事例区分:想定シナリオ
以下は制度上の対象経費区分をもとに構成した、地方拠点整備における活用イメージです。実在の企業事例ではありません。
- 事業所の新設工事費:AIオペレーションセンターやコールセンター用オフィスの内装・電気・空調工事費(1契約20万円以上)
- 業務用サーバー・PCの購入費:AI画像解析やデータ処理に使う高性能PC・サーバー機器の購入費(1点20万円以上の動産購入)
- 什器・什器賃借費:拠点開設時のデスク什器やモニターなどの賃借費用(契約期間1年以上、1点20万円以上)
ここで注意が必要なのは、クラウド型AIツールの利用料やソフトウェアライセンス費は「無形固定資産」に分類され、この助成金の対象経費からは明確に除外されている点です。対象になるのはあくまで工事・不動産・動産といったハード面の設置・整備費用であり、AIサービスの月額利用料そのものを積み上げても支給額の算定には含められません。この点を勘違いしたまま計画書を提出すると、想定していた設置・整備費用の合計が基準の300万円に届かず、支給区分がずれてしまうことがあります。
助成金を受け取るまでの流れ
- 計画書の提出:事業所設置・整備や雇入れを始める前に、管轄労働局長へ計画書を提出(工事契約や求人募集の前に提出することが必須)
- 設置・整備の実施:計画期間(最長18か月)内に、対象地域で300万円以上の設置・整備を行う
- 対象労働者の雇入れ:地域求職者を3人(創業の場合2人)以上増加させる形で雇い入れる
- 完了届(第1回支給申請書)の提出:設置・整備と雇入れが完了した後、管轄労働局長へ提出
- 実地調査:支給決定前に、設置・整備した施設や雇入れの実態について労働局が現地確認
- 2回目・3回目の支給申請:完了日の1年後・2年後の基準日ごとに、被保険者数・対象労働者数の維持を確認したうえで申請
計画書の提出は「工事の支払い・引き渡し前」「雇入れ前」に行う必要があり、先に契約や採用を進めてしまうと算定対象から外れてしまいます。この順番を間違えるケースが実務上いちばん多い失敗です。
よくある不備で対象外になるケース
失敗1:計画書提出前に工事契約・採用活動を進めてしまう
❌ 「良い物件が見つかったので先に契約してから、あとで計画書を出せばいい」
⭕ 工事の支払い・引き渡しや求人募集より前に、必ず計画書を提出する
計画書提出前に発生した設置・整備費用や雇入れは、一切算定対象になりません。
失敗2:クラウド利用料やソフトウェア費を設置・整備費用に含めてしまう
❌ AIツールの月額利用料やSaaS契約費を設置・整備費用として計上する
⭕ 対象になるのは工事費・動産購入費・賃借費などのハード面のみ。ソフトウェア・クラウド利用料は無形固定資産として対象外
失敗3:土地の購入費・仲介手数料を計上してしまう
❌ 事業所用地の土地購入費や不動産の仲介手数料を設置・整備費用に含める
⭕ 土地購入費・仲介手数料・不動産登記の手数料はいずれも対象外経費
失敗4:離職者を出したまま2回目・3回目の申請に進んでしまう
❌ 対象労働者が辞めたのを放置して次の支給基準日を迎える
⭕ 離職した対象労働者が出た場合は、4か月以内に同じ地域区分の求職者を補充者として雇い入れる
対象労働者数の1/2を超え、かつ4人以上が離職すると、その時点で支給が打ち切られます。
特例措置で上乗せを受けられるケース
基本の支給額に加えて、次のような特例が用意されています。
- 地域活性化雇用創造プロジェクト参加事業主への特例:都道府県が実施するプロジェクトの対象区域内で正社員を雇い入れると、初回支給時に正社員1人あたり50万円が上乗せされます(1事業所あたり上限20人分)
- 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)寄附事業主への特例:認定地方公共団体の地域再生計画に関連する寄附を行った事業主が、その団体の区域内に事業所を設置する場合に適用(1事業所につき1回のみ)
- 同意雇用開発促進地域内での大規模雇用開発の特例:50億円以上の設置費用をかけ、地域求職者を100人以上雇い入れる大規模計画を厚生労働大臣の認定を受けて実施する場合、1億円〜2億円規模の助成が受けられます
他の助成金との併給調整
地域雇用開発助成金は、一部の助成金と同時受給ができません。特に次の制度と重複する事業内容がある場合は、事前に管轄労働局へ確認してください。
- 雇用調整助成金(休業・教育訓練・出向)
- 通年雇用助成金(新分野進出)
- 両立支援等助成金(事業所内保育施設コース)
- 人材確保等支援助成金(作業員宿舎等設置助成コース)
人材育成そのものを目的とした助成金を検討している場合は、対象となる制度が異なります。人材確保・定着に関する他の助成金については特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)完全ガイドも参考になります。
よくある質問
Q1. AI・DX関連企業でもこの助成金は使えますか?
業種そのものに制限はありません。対象地域に雇用保険適用事業所を新設・整備し、地元の求職者を必要人数以上雇い入れるという要件を満たせば、AI開発拠点やDX関連のバックオフィス拠点でも対象になり得ます。ただし対象経費はハード面の設置・整備費用に限られる点にご注意ください。
Q2. 東京・大阪など都市部の事業所は対象になりますか?
対象になるのは、同意雇用開発促進地域・過疎等雇用改善地域・特定有人国境離島等地域として指定された地域に限られます。都市部の多くはこれらの指定地域に含まれないため、事前に対象地域かどうかを労働局に確認する必要があります。
Q3. 個人事業主でも申請できますか?
雇用保険適用事業主であり、その他の要件を満たせば個人事業主も対象になります。新たに事業を始める場合は「創業」として認められる要件(営業譲渡でないこと等)を別途満たす必要があります。
Q4. 支給までどのくらい期間がかかりますか?
計画書提出から設置・整備・雇入れの完了までの計画期間は最長18か月、その後の完了届提出・実地調査を経て支給決定となります。実際に手元に助成金が入るまでには、計画から1年以上かかるケースが一般的です。
Q5. 支給額表の内容は今後変わりますか?
支給額や対象地域は制度改正のたびに見直されます。本記事の金額は令和8年4月1日現在の情報に基づくため、実際に申請する際は必ず厚生労働省の最新情報をご確認ください。
地方拠点の整備を検討するなら、まず何をすべきか
この助成金は「率で補助する」制度ではなく「定額支給」の仕組みであるため、まずは自社が予定している設置・整備費用の総額を把握し、上の表のどの段に当てはまるかを確認することが最初の一歩になります。次に、事業所の設置予定地が対象地域に指定されているかを労働局に問い合わせ、最後に、計画書の提出を工事契約や採用活動より前に済ませるスケジュールを組む。この3点さえ押さえておけば、大きな手戻りは避けられます。
AI導入やDX推進の一環で地方に拠点を構える計画がある場合、どの制度を組み合わせるのが自社にとって最適かは、事業内容によって変わります。AI導入の計画策定や補助金・助成金の組み合わせでお悩みの場合は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
参考・出典
- 地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)|厚生労働省(参照日: 2026-07-08)
- 地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)支給申請の手引き(令和8年4月1日現在)|厚生労働省(参照日: 2026-07-08)
- 地域雇用開発促進法に基づく地域の要件と支援措置について|厚生労働省(参照日: 2026-07-08)
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この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
免責事項
本記事の情報は2026年7月時点の厚生労働省公表資料に基づく参考情報です。地域雇用開発助成金の対象地域・支給額・要件は制度改正により変更される場合があります。申請にあたっては、必ず厚生労働省の公式サイトおよび事業所を管轄する都道府県労働局・ハローワークで最新の情報をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
