中小企業が特許を出願しようとすると、審査請求料だけで数十万円、外国への出願費用は優に100万円を超えることもある。技術力があるのに知的財産を守れない理由の大半は、この「費用の壁」だ。
ただし、公的支援を使えばその負担はかなり軽減できる。特許料等の減免制度、外国出願への補助金、そして全国47都道府県に設置された無料相談窓口。知っているかどうかだけで、実質的な出願コストが変わる。
この記事では、技術や製品を持つ中小企業・スタートアップが活用できる知財関連の公的支援を、制度カテゴリごとに整理して解説する。

中小企業の知財活用における3つの現実的な課題
「特許は大企業がやるもの」という意識が中小企業には根強くある。しかし、その認識の背景には明確な理由がある。
課題1: 出願・維持費用の重さ
国内特許の出願から権利化まで、弁理士費用を含めると一件あたり数十万円〜100万円超かかることも珍しくない。加えて、権利を維持するには毎年の特許料が必要になる。売上に直結しにくいコストとして後回しにしがちな理由がここにある。
課題2: 海外展開と模倣リスク
海外市場に製品を展開するなら、進出先の国・地域でも権利を取得しなければ模倣品への対処が難しい。外国出願は1件あたり数十万円から、対象国が増えれば数百万円規模になる。これが海外進出の足かせになっているケースは少なくない。
課題3: 社内に知財の専門家がいない
製造業や開発系スタートアップでも、知的財産の専任担当者を置けているのは大企業や一部の中堅企業に限られる。「そもそも何を出願すべきか」「先行技術調査はどうすればいいか」という基本的な疑問を、社内で解決できない中小企業は非常に多い。
これら3つの課題に対し、国はいくつかの公的支援を用意している。以下でカテゴリごとに見ていこう。
なお、各補助・支援制度の申請窓口として、電子申請ポータル jGrants(補助金電子申請ポータル) と GビズID(法人・個人事業主向け共通認証) が必要になる場面もある。GビズIDの取得には通常1〜2週間かかるため、支援活用を検討している企業は早めに準備しておきたい。
支援制度カテゴリ早見表
| 支援カテゴリ | 制度の内容 | 主な窓口・事務局 | 費用負担 |
|---|---|---|---|
| 特許料等減免制度 | 審査請求料・特許料(1〜10年分)・PCT手数料の一部を軽減 | 特許庁(INPIT経由で情報提供) | 制度・対象区分により異なる |
| 外国出願補助金 | 外国への特許・商標等の出願費用を補助(補助率1/2) | INPIT(工業所有権情報・研修館) | 補助率1/2、上限額は権利種別により異なる |
| 知財総合支援窓口(無料) | 出願前の相談・先行技術調査・戦略策定の助言 | INPIT(全国47都道府県) | 無料 |
| ものづくり補助金等の中での知財経費 | 補助金の対象経費として特許出願費用等が含まれる場合がある | 中小機構等(事務局により異なる) | 補助金制度・年度・類型により異なる |
以下、各制度を詳しく解説する。
特許料・審査請求料等の減免制度とは何か
国内で特許出願をした後、審査を受けるためには「出願審査請求料」を特許庁へ納付する必要がある。さらに特許が認められれば、権利を維持するために毎年「特許料」を納め続けなければならない。
この費用負担を軽減するために、特許庁は中小企業・スタートアップ等を対象とした減免制度を設けている。
対象となる費用と制度の基本構造
2019年4月1日以降に審査請求した案件については「新減免制度」が適用される。主な軽減対象は以下の通りだ。
- 出願審査請求料
- 特許料(第1年分〜第10年分)
- PCT国際出願に係る手数料の一部
対象者の区分は中小企業、小規模企業、スタートアップ、個人、大学・研究機関等に分かれており、それぞれ減免割合や要件が異なる。
重要な注意点
減免を受けるには、原則として審査請求時または特許料納付時に所定の欄に「減免を受ける旨」を記載する必要がある。2019年4月1日以降は減免申請書の別途提出が不要になった一方、記載を忘れると減免が受けられないため注意が必要だ。
対象区分(中小企業か個人か等)や具体的な減免率・減免額は、制度改正の可能性があるため、最新情報は INPIT(工業所有権情報・研修館) の知財総合支援窓口または各都道府県の経済産業局で確認することを強く推奨する。特許庁の公式サイトへのアクセスが難しい場合も、INPITの窓口担当者が最新の手続き情報を案内してくれる。
正直なところ、「どの区分に自分が当てはまるか」「新制度と旧制度のどちらが適用されるか」は、初見では分かりにくい。迷ったら後述する知財総合支援窓口に相談するのが最も確実だ。
外国出願補助金:海外での権利取得を半額にする支援
国内で特許・商標等を出願した中小企業が、さらに外国でも権利を取得しようとする場合に活用できるのが外国出願補助金だ。
令和8年度(2026年度)INPIT外国出願補助金の概要
INPITが主体となって運営するこの補助金は、2026年度(令和8年度)も継続して公募が行われている。
| 項目 | 内容(目安・最新は公式要領で確認) |
|---|---|
| 補助率 | 補助対象費用の1/2以内 |
| 補助上限額(特許出願) | 150万円以内 |
| 補助上限額(実用新案・意匠・商標) | 各60万円以内 |
| 補助上限額(商標の抜け駆け対策出願) | 30万円以内 |
| 中間手続補助の上限額 | 50万円以内 |
| 令和8年度 第3回出願補助 公募期間 | 2026年6月8日10:00〜6月29日17:00 |
| 令和8年度 第4回出願補助 公募期間(予定) | 2026年9月7日〜9月28日 |
| 窓口・事務局 | INPIT(独立行政法人 工業所有権情報・研修館) |
※ 上記の補助率・上限額は目安です。公募回ごとの予算枠・最新の要件は INPIT外国出願補助金の公式ページ で必ずご確認ください。公募期間はINPIT公式で確認した令和8年度の予定です。
対象となる費用と申請要件
補助の対象となる主な費用は、外国特許庁への出願手数料、現地代理人費用、翻訳費用などだ。翻訳費用が対象に含まれるのはありがたい。英語や中国語への特許明細書の翻訳だけでも相当なコストになるためだ。
申請要件として、国内の特許庁にすでに出願済みであること(日本を起点とすること)が原則として求められる。また、みなし大企業に該当しないこと等、対象者要件がある。詳細は公募要領を確認していただきたい。
公募回ごとの予算消化に注意
この補助金は年度内に複数回の公募が設定されているが、回ごとに予算枠があり、締切前でも受付終了になる場合がある。「申請しようと思っていたら締め切られていた」という事態を避けるため、公募開始日に合わせて準備を進めておくことが現実的だ。
知財総合支援窓口:まず「無料相談」から始める
補助金の話の前に、そもそも「自社の技術は出願する価値があるのか」「先行技術はどう調べるのか」という段階で迷っている企業も多い。そうした企業に最初に使ってほしいのが、INPITが運営する知財総合支援窓口だ。
窓口の概要
INPITの知財総合支援窓口は全国47都道府県に設置されており、利用は無料だ。支援担当者は経験豊富な企業OBや知財専門家で、以下のような相談に対応している。
- 事業・知財戦略の策定に関する助言
- 出願前の先行技術・先行商標の調査方法の案内
- 出願の是非・出願すべき権利の種類の相談
- 弁理士・弁護士・中小企業診断士等の専門家との連携紹介
- 補助金・減免制度の活用に関する情報提供
「何を相談したらよいかも分からない」という段階でも受け付けてくれる。対面・オンライン・電話等の相談形式に対応している都道府県もある。
なぜ「まず窓口」なのか
弁理士に相談すると、着手の段階から費用が発生する。一方、知財総合支援窓口は無料であるため、「うちの技術を守る方法はあるのか」という初期検討段階での利用に向いている。窓口での相談を経て、本格的な出願手続きに移行する際に弁理士と連携する流れが費用対効果の面からも理にかなっている。
ものづくり補助金等での知財関連経費の活用
中小企業庁・中小企業基盤整備機構(中小機構)が関与するものづくり補助金や事業再構築補助金などの大型補助金では、対象経費の中に知財関連費用が含まれるケースがある。
どのような費用が対象になりうるか
補助金の種類・年度・類型によって異なるが、一般的に「技術導入費」や「知的財産権等関連経費」として、特許出願費用や特許使用料が対象経費に含まれる場合がある。具体的には、新たな製品・サービス開発に伴って生じた特許出願費、ノウハウの活用に必要なライセンス料等が該当することがある。
必ず公募要領で確認を
ただし、知財費用が対象になるかどうかは制度・年度・枠によって変わる。「対象経費に含まれるはず」と思い込んで申請すると後で問題になるため、各補助金の公募要領をjGrantsや事務局のサイトで確認するか、中小企業診断士・弁理士に相談することを推奨する。本記事では断言を避けるが、活用できるケースがあることは事実であり、自社の事業計画との整合性を確認する価値がある。
申請・利用の流れ:相談から活用まで
知財支援を活用するまでの現実的な流れを整理しておこう。
Step 1: 知財総合支援窓口への相談(無料・まずここから)
何から始めるかが分からない段階では、INPITの知財総合支援窓口に相談する。「自社技術の何を守るか」「先行技術の調べ方」「出願よりノウハウ秘匿の方が適切かどうか」といった基本的な方向性を、無料で専門家に相談できる。所要時間の目安は初回1〜2時間程度。
Step 2: 活用できる支援制度の確認
窓口での相談や自社調査を経て、国内出願・外国出願・費用減免のどれを活用するかを検討する。外国出願を検討するなら、INPITの外国出願補助金の公募スケジュールを確認し、次回公募に合わせて準備を始める。
Step 3: GビズIDの取得(補助金申請に必須)
外国出願補助金やものづくり補助金の申請には、GビズID(GビズIDプライム)の取得が必要になる場合がある。法人の場合は印鑑証明書が必要で、取得まで通常1〜2週間かかる。マイナンバーカードを使ったオンライン申請であれば即日発行も可能になった。補助金申請を急いでいる場合は今すぐ取得手続きを始めること。
Step 4: 弁理士との連携・出願手続き
実際の出願は弁理士に依頼するのが一般的だ。知財総合支援窓口で紹介を受けることもできる。外国出願補助金を使う場合は、補助金の採択・交付決定を受けてから費用が確定する流れになるため、弁理士への発注タイミングに注意が必要だ(交付決定前の経費は原則として補助対象外)。
Step 5: 申請・実績報告・補助金の受領
電子申請が必要な補助金はjGrantsから申請する。採択後は所定の期間内に事業を実施し、実績報告を提出して補助金を受け取る(後払い)。特許料減免の場合は、出願審査請求書等の所定欄に記載するだけでよく、申請書の別途提出は不要になっている(2019年4月1日以降の審査請求案件)。
知財支援を活用する際によくある落とし穴
落とし穴1: 外国出願補助金に間に合わなかった
外国出願補助金は年に複数回の公募があるが、各回の公募期間は約3週間と短い。「今回は申請するぞ」と思った時には締め切り済みという事態が多い。公募スケジュールをあらかじめカレンダーに入れ、出願案件の見通しを立てておくことが必須だ。
落とし穴2: GビズIDを取っていなかった
電子申請に必要なGビズIDを取得していない状態で補助金の公募が始まっても、取得が間に合わず申請できないケースがある。GビズIDの取得には書類申請の場合で1週間前後かかる。「補助金を使いたくなってから取得する」ではなく、事前に取得しておくことを強く推奨する。
落とし穴3: 補助金の対象外経費を申請してしまった
知財関連費用が補助対象かどうかは制度ごとに異なる。過去の補助金の対象経費を参考に「今回も大丈夫だろう」と思い込んで申請すると、不採択や採択後の減額になる。公募要領の「補助対象経費」の項目を必ず一次ソースで確認すること。
落とし穴4: 減免申請の記載を忘れた
特許料等の減免は申請書の別途提出が不要になったが、出願審査請求書・特許料納付書等の所定欄への記載は必要だ。この記載を忘れると、後から減免を受けることが難しくなる場合がある。手続き前に必ず確認を。
弁理士と知財総合支援窓口の使い分け
費用や専門性の面で、弁理士への相談と知財総合支援窓口への相談はどう使い分ければよいか。
| 項目 | 知財総合支援窓口(INPIT) | 弁理士 |
|---|---|---|
| 費用 | 無料 | 有償(内容による) |
| 向いている相談 | 方向性の検討、先行技術調査の方法、制度案内、戦略の初期相談 | 出願書類の作成・代理、権利範囲の設計、侵害対応、鑑定 |
| 出願手続きの代理 | 不可(相談のみ) | 可(独占業務) |
| 専門家連携 | 弁理士・弁護士・診断士を紹介 | 事務所内・連携で対応 |
| アクセス | 全国47都道府県 | 各自で検索・依頼 |
シンプルに言えば、まず知財総合支援窓口で「何をすべきか」を無料で確認し、出願の方針が固まったら弁理士と連携する流れが最もコストを抑えやすい。窓口では弁理士の紹介もしてもらえるため、実質的にワンストップで対応できる。
今日から動ける3つのアクション
知財支援の活用を検討している企業が今すぐ取れる行動を整理する。
- 今週中:近くの知財総合支援窓口(INPITの公式サイトから都道府県窓口を検索)に相談予約を入れる。無料で現状を整理できる。
- GビズIDの取得状況を確認:未取得なら GビズID公式サイト で今すぐ申請手続きを始める。外国出願補助金や他の補助金を使う際に必要になる。
- 外国出願を検討している場合:INPIT外国出願補助金のページで次回公募のスケジュールを確認し、カレンダーに入れておく。令和8年度の公募は複数回予定されている。
AI導入・DX推進に補助金を使いたい場合の相談は、お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。AI研修・導入支援の観点から、知財活用と組み合わせた事業計画の整理もご支援できます。
参考・出典
- INPIT知財総合支援窓口について — 独立行政法人 工業所有権情報・研修館(参照日: 2026-06-08)
- INPIT外国出願補助金 — 独立行政法人 工業所有権情報・研修館(参照日: 2026-06-08)
- jGrants(補助金電子申請ポータル) — デジタル庁(参照日: 2026-06-08)
- GビズID — デジタル庁(参照日: 2026-06-08)
- 中小企業基盤整備機構(中小機構) — 独立行政法人 中小企業基盤整備機構(参照日: 2026-06-08)
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
免責事項
本記事の情報は2026年6月8日時点の公式資料・公表情報に基づく参考情報です。補助金・助成金・減免制度の内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず各制度の公式サイト(INPIT・中小機構・jGrants等)で最新の公募要領をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
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