社員をDX研修に送り出したいが、費用がネックで踏み切れない——そんな東京都内の中小企業経営者に知ってほしい制度がある。東京しごと財団が運営するDXリスキリング助成金は、AI・DX関連の研修費用の最大75%(上限100万円)を都が肩代わりしてくれる、珍しいほど使い勝手のいい助成金だ。
令和8年度(2026年度)は3月1日から申請受付が始まった。手続きは比較的シンプルで、ポイントさえ押さえれば中小企業の人事担当者でも十分に対応できる。この記事では、申請フローを一からステップごとに解説する。
まずこれだけ確認(申請の前提条件)
申請を始める前に、自社が対象かどうかをチェックしよう。
- 東京都内に事業所があること(都外本社でも都内事業所があればOK)
- 中小企業等であること(中小企業基本法の定義に準じる)
- 研修を受講させる従業員が雇用保険の被保険者であること
- 過去に同じ従業員で同一研修を受けていないこと
- 研修開始の1か月前までに交付申請を提出できること
業種による制限はなく、製造業・サービス業・小売業・士業事務所など幅広く対象になる。個人事業主も「中小企業等」に含まれる場合があるので、確認する価値はある。
令和8年度 DXリスキリング助成金の基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | DXリスキリング助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業)令和8年度 |
| 運営 | 公益財団法人東京しごと財団 |
| 助成率 | 対象経費の3/4(75%) |
| 1人1研修あたり上限 | 75,000円 |
| 1社あたり年間上限 | 100万円(上限に達するまで複数回申請可) |
| 申請受付期間 | 令和8年3月1日〜令和9年2月28日 |
| 対象研修期間 | 令和8年4月1日〜令和9年3月31日開始分(令和9年8月31日までに修了) |
| 研修時間 | 3時間以上10時間未満(1研修あたり) |
| 申請方法 | Jグランツ(電子申請)または郵送 |
| 公式サイト | 東京しごと財団 令和8年度DXリスキリング助成金 |
※上記は令和8年度の情報です。制度内容は変更になる場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。
なお、東京都が提供する補助金・助成金全体の比較については 【2026年度】東京都で使えるAI導入・DX推進の補助金・助成金まとめ もあわせて参照してほしい。
どんな研修が対象になるか
DXリスキリング助成金で助成される研修には「レディメイド研修」と「オーダーメイド研修」の2種類がある。
レディメイド研修(公開研修型)
既存の市販研修プログラムに個人単位で申し込む形式。外部の研修会社・スクールが提供するDX関連のオープン講座がこれにあたる。AIプロンプト活用研修、ChatGPT業務活用、データ分析入門、Excel×AI活用といったプログラムが該当する可能性が高い。
オーダーメイド研修(企業向けカスタム研修)
自社の業務課題に合わせて設計・実施する社内研修。「営業部門向けの生成AI活用研修(全10時間・社員15名)」のようなケースが典型だ。ただし、社内講師だけで完結する研修(講師費用が発生しない場合)は対象外になることがある。
いずれの場合も、研修のテーマが「DXに関する知識・技能の習得」である必要がある。具体的には以下のようなカテゴリが対象として認められやすい。
- 生成AI(ChatGPT・Gemini・Copilot等)の業務活用
- データ分析・BI(Power BI、Tableau等)
- クラウドサービス活用(Google Workspace、Microsoft 365等)
- 業務自動化(RPA、ノーコードツール等)
- 情報セキュリティ(DX推進に必要な基礎知識として)
純粋な語学研修やコンプライアンス研修はDX関連とみなされない。申請前に事務局に確認するのが安全だ。
Step 1: 対象研修の選定と費用見積もり(研修開始6週間前を目安に)
助成金の申請は「研修開始の1か月前まで」が締切。余裕を持って動くなら6週間前には研修を決定し、費用見積もりを取得しておきたい。
確認すべき事項は以下だ。
- 研修プログラムの総時間が3時間以上か(2時間台の研修は対象外)
- 研修費用を全額会社が負担するか(自己負担分は助成対象外)
- 研修内容がDX関連と説明できるか
- 研修機関から「受講証明書」「修了証」等を発行してもらえるか
計算例:受講料1人あたり8万円の研修に5名を参加させる場合、総費用40万円の75%=30万円が助成される(1人あたりの上限75,000円×5名=375,000円、かつ総額の75%=300,000円、低い方を適用)。
Step 2: 交付申請書の準備(研修開始1か月前が絶対的な締切)
DXリスキリング助成金で最も重要なのが、この「事前申請」のタイミングだ。研修を始めてから申請しても受理されない。絶対に逆算してスケジュールを組むこと。
申請に必要な書類:
- 交付申請書(財団所定の様式)
- 研修実施計画書または研修カリキュラム
- 研修費用の見積書(発行日が申請日以前のもの)
- 研修機関の会社概要または研修紹介資料
- 受講者名簿(氏名・生年月日・雇用形態)
- 法人の場合は商業登記簿謄本(発行3か月以内)
令和8年度からJグランツ(電子申請)での提出を推奨している。郵送でも可能だが、郵送の場合は配達記録が残る方法(簡易書留等)を使うこと。
Step 3: 研修の実施と記録(研修中に絶対やっておくこと)
交付決定通知を受け取ってから研修を開始する。通知前に研修を始めると、その分は助成対象外になる。採択後すぐ開始したくなる気持ちはわかるが、焦らないこと。
研修中に準備する書類:
- 出席記録(氏名・日時・受講時間がわかるもの)
- 研修の内容が確認できる資料(テキスト、スライド等)
- 写真(集合研修の場合。eラーニングは不要)
- 修了証・受講証明書(研修機関から発行してもらう)
eラーニング形式の研修は写真不要だが、受講ログ(ログイン記録等)を研修機関から取得しておくと後の確認がスムーズだ。
Step 4: 支給申請の提出(研修終了後2か月以内)
研修が終わったら、すみやかに支給申請書を提出する。期限は「研修終了の翌日から2か月以内」。ここを過ぎると助成金がもらえなくなるので注意。
支給申請で必要な書類:
- 支給申請書(財団所定の様式)
- 研修費用の請求書・領収書(会社宛)
- 受講者の出席記録・修了証
- 賃金台帳(助成対象期間の賃金支払いを証明)
- 振込先の通帳コピー(初回申請のみ)
Step 5: 助成金の受取(申請から2〜3か月後)
支給申請書の受理から審査・振込まで、おおむね2〜3か月かかる。確定申告への影響があるため、助成金の入金時期を経理担当者に共有しておこう。助成金は雑収入として課税対象になる。
申請書類でよくある不備 4選
不備1: 見積書の日付が申請日より後になっている
❌ 申請書を提出した後に見積書を取り寄せ、日付を後日にした
⭕ 申請書と同日以前の日付の見積書を添付する
申請書類の整合性は厳しくチェックされる。書類間の日付の前後関係で「事後の作成では?」と疑われると差し戻しになる。
不備2: 受講者の雇用保険加入が確認できない
❌ 役員や個人事業主本人を対象受講者として申請する
⭕ 雇用保険の被保険者(従業員)のみを対象受講者にする
経営者自身が受講する場合でも、雇用保険に加入している役員以外は助成対象にならない。
不備3: 研修時間が「1研修あたり」ではなく「合計」で計算している
❌ 2時間の研修を3回実施し「計6時間なので対象」と考える
⭕ 1つのプログラムとして3時間以上の研修を実施する
単発の短時間研修を複数回合算しても、1研修ごとに3時間以上が要件になる。複数回に分かれる場合は「同一プログラムの分割実施」であることをカリキュラムで示す必要がある。
不備4: 研修費用を従業員個人が立て替えている
❌ 従業員が個人のクレジットカードで研修費を支払い、後日会社が精算する
⭕ 会社名義で請求書・領収書を受け取る
助成対象は「事業主(会社)が負担した経費」。立替払い精算では請求書・領収書が個人名義になるケースが多く、審査で弾かれやすい。研修機関に必ず法人名義での請求を依頼すること。
国の助成金との組み合わせで費用をさらに圧縮
DXリスキリング助成金と、国の制度を組み合わせることで実質負担をさらに下げられる。
特に相性が良いのが人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)だ。
- 助成率: 中小企業で最大75%(賃金助成含む)
- 1事業所あたりの年間上限: 1億円
- 対象: 合計10時間以上のOFF-JT研修
東京都のDXリスキリング助成金は「3時間以上10時間未満」の短い研修に特化しており、国の人材開発支援助成金(10時間以上が対象)との棲み分けができる。短期研修は東京都、長期研修は厚生労働省の制度という使い分けが実務上有効だ。ただし、同一経費の二重申請は不可なので注意。
国の人材開発支援助成金については 人材開発支援助成金リスキリングコース 最終年度ガイド で詳しく解説している。
令和8年度 申請スケジュールのまとめ
| マイルストーン | 時期 | 備考 |
|---|---|---|
| 交付申請受付開始 | 令和8年3月1日 | 現在受付中 |
| 交付申請締切 | 研修開始の1か月前まで | 日曜・祝日を考慮して余裕を持つこと |
| 対象研修の実施期間 | 令和8年4月1日〜令和9年3月31日開始分 | 令和9年8月31日までに修了 |
| 支給申請締切 | 研修終了の翌日から2か月以内 | 過ぎると受付不可 |
| 交付申請受付終了 | 令和9年2月28日 | 予算上限に達した場合は早期終了あり |
「予算上限に達した場合は早期終了あり」という条件がある点に注意したい。昨年度も受付終了が早まった実績があるため、今年度の予算が残っているうちに動いた方がいい。4月の研修を使う場合、3月15日(4月1日〜14日開始分の締切)が最初の山場になる。
今すぐ始める3つのアクション
- 今日やること: 東京しごと財団の公式サイトで令和8年度の募集要項をダウンロードし、自社の受講予定者の雇用保険加入状況を確認する
- 今週中: 社内で実施予定のDX研修(または外部で申し込む研修)の費用・時間を確認し、研修開始予定日から逆算して申請期限を手帳に書き込む
- 申請前: 研修機関に「法人名義での請求書・領収書の発行」「修了証の発行」を事前に依頼する
AI導入やDXに向けた社員研修を検討中で「助成金を最大限活用したい」「どの研修が対象になるか迷っている」という場合は、Uravationのお問い合わせフォームからご相談ください。AI研修・DX研修の設計支援と、助成金活用のご案内をしています(申請書の作成代行はお受けしていません)。
あわせて読みたい:
- 【2026年度】東京都で使えるAI導入・DX推進の補助金・助成金まとめ — 都内中小企業が使える補助金を横断比較
- 人材開発支援助成金リスキリングコース 最終年度ガイド — 国の制度と組み合わせて費用を圧縮
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
参考・出典
- 令和8年度DXリスキリング助成金 — 公益財団法人東京しごと財団(参照日: 2026-03-15)
- DXリスキリング助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業) — TOKYOはたらくネット(参照日: 2026-03-15)
- 人材開発支援助成金 — 厚生労働省(参照日: 2026-03-15)
免責事項
本記事の情報は2026年3月15日時点の東京しごと財団・各省庁の公表資料に基づく参考情報です。助成金の制度内容・申請期間は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず公式サイトの最新の募集要項をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。