「テレワーク助成金」と検索すると、東京都の制度と国の制度が両方ヒットして、どちらを使えばいいのか分からなくなる。実はこの2つ、対象も助成の中身もまったく違う。国の人材確保等支援助成金(テレワークコース)は全国の中小企業が使え、就業規則の整備や研修など「仕組みづくり」に対して最大35万円が出る。一方、東京都の「テレワークトータルサポート助成金」はPCやソフトウェアなど「モノ・ツール」の購入費に最大250万円が出る。
正直、この2つは競合する制度ではなく、うまく組み合わせれば「制度は国のお金で整え、機器は都のお金で揃える」という分業ができる。この記事では、両制度の違いと申請の流れ、組み合わせ方を整理する。
結論から先に — どちらを使うべきか早見表
| 状況 | おすすめの制度 | 助成の中心 |
|---|---|---|
| 全国どこでも使える制度をまず知りたい | 人材確保等支援助成金(テレワークコース) | 就業規則整備・研修(最大35万円) |
| 東京都内の企業でPC・ソフトを揃えたい | テレワークトータルサポート助成金 | 機器・ソフトウェア購入費(最大250万円) |
| 制度も機器も両方整えたい(都内企業) | 両方を組み合わせて申請 | 仕組み+モノを分担 |
| すでにテレワークを導入済みで拡大したい | 人材確保等支援助成金(実施拡大区分) | 就業規則の拡充・研修 |
都道府県のDX補助金は地域ごとに制度が異なる。自社の都道府県にどんな制度があるかは、47都道府県DX補助金完全比較ガイドでも確認できる。
人材確保等支援助成金(テレワークコース)の基本データ
まず国の制度から見ていく。令和8年4月1日付で支給要領が改正されており、この記事の内容は最新版(R8.4.1)に基づく。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 人材確保等支援助成金(テレワークコース) |
| 所管 | 厚生労働省(都道府県労働局) |
| 助成額 | 制度導入助成 20万円+目標達成助成 10万円(賃金要件を満たす場合15万円) |
| 助成額の合計上限 | 最大35万円(1事業主あたり) |
| 対象者 | 雇用保険適用事業所の中小企業事業主(全国対応) |
| 助成の対象となる取組 | 就業規則等の整備、職場風土づくり、外部コンサルティング、労務管理担当者・労働者への研修 |
| 申請期間 | 通年受付(締切なし。評価期間終了後2か月以内に申請) |
| 申請方法 | 管轄の都道府県労働局へ書面提出、または電子申請(雇用関係助成金ポータル・GビズID) |
| 公式サイト | 厚生労働省 人材確保等支援助成金(テレワークコース) |
ポイントは「助成の対象となる取組」の欄だ。機器購入費やクラウド利用料といった経費そのものが助成されるのではなく、就業規則の整備・研修・コンサルティングといった「取組を実施したこと」に対して定額が支給される仕組みになっている。ここが東京都の制度との一番の違いになる。
制度導入助成 — テレワークを「始める」段階(20万円)
就業規則等にテレワークの定義・対象者の範囲・手続き・留意事項を規定し、企業トップからのメッセージ発信などの「職場風土作りの取組」(必須)に加えて、就業規則の拡充・外部コンサル・研修のいずれか1つ以上を実施する。そのうえで、対象労働者全員が評価期間(3か月間)に1回以上テレワークを実施すれば20万円が支給される。
目標達成助成 — テレワークを「続けた」段階(10万円・賃金要件達成で15万円)
制度導入助成の初日から12か月後に始まる3か月間の評価期間で、離職率が制度導入前以下かつ30%以下であること、テレワークの実施実績が維持・向上していることが条件になる。さらにテレワーク対象労働者の賃金を1年以内に5%以上引き上げていれば、支給額が10万円から15万円に上乗せされる。
東京都テレワークトータルサポート助成金との違い
都内に本社・事業所がある企業からよく聞かれるのが「東京都の助成金と何が違うのか」という質問だ。東京都テレワークトータルサポート助成金(令和8年度)は、テレワーク助成金2026|AI導入に最大250万円の活用法で詳しく解説している制度で、こちらはPC・ソフトウェア・クラウド利用料といった「モノ・ツール」の購入費が対象になる。国の制度と並べると、役割分担がはっきり見えてくる。
| 項目 | 人材確保等支援助成金(国) | テレワークトータルサポート助成金(東京都) |
|---|---|---|
| 対象エリア | 全国 | 都内に本社・事業所がある企業 |
| 助成の中心 | 就業規則整備・研修などの取組 | PC・ソフトウェア・クラウド利用料等の購入費 |
| 助成額 | 定額(最大35万円) | 助成率2/3〜1/2・上限150万〜250万円 |
| 申請時期 | 通年(締切なし) | 期間限定(令和8年度は5/29〜翌2/5) |
| 前提条件 | 特になし(就業規則整備等の要件のみ) | 都の「テレワーク相談窓口」の利用実績が必須 |
| 審査の重さ | 比較的シンプル(実績確認中心) | 経費の対象性審査が細かい |
都内の企業であれば、両方を同時に狙う設計が現実的だ。ただし同一の経費を二重に申請することはできないため、「国の助成金=就業規則や研修の実施費用」「都の助成金=PCやソフトの購入費用」というように、対象を分けて申請する必要がある。
AI・DXツール導入と組み合わせる3つのパターン
人材確保等支援助成金(テレワークコース)自体は、AI/DXツールの購入費を直接助成する制度ではない。だが、他の補助金・助成金と組み合わせることで、テレワーク環境のAI化にかかる自己負担を圧縮できる。
- 就業規則整備(国の助成金)+ AI議事録ツール導入(東京都の助成金) — テレワーク勤務規程を整えて国の助成金を申請しつつ、オンライン会議のAI議事録ツールは東京都の助成金の「使用料」区分で導入する組み合わせ。
- 職場風土づくり研修(国の助成金)+ デジタル化・AI導入補助金でAIチャットボット導入 — テレワーク推進の社内研修は国の助成金でカバーし、社内ヘルプデスク用のAIチャットボットはデジタル化・AI導入補助金側で導入する。
- 人材開発支援助成金でAI研修 + テレワークコースで環境整備 — 従業員向けのAI活用研修は人材開発支援助成金(令和8年度改定ガイド)で助成率を最大限活用し、テレワーク自体の制度整備は本助成金で並行して進める。
制度ごとに「何にお金が出るか」を混同すると申請書類の不備につながる。まずは自社がどの取組・経費でどの制度を使うのかを一枚の表に整理しておくと申請がスムーズになる。
申請までの5ステップ
- Step 1: 就業規則の整備と職場風土づくり(評価期間開始前) — テレワークの定義・対象者の範囲・手続きを就業規則等に規定し、企業トップからのメッセージ発信などの職場風土づくりに着手する。新規導入事業主は、これに加えて外部コンサル・研修のいずれか1つ以上も必要。
- Step 2: 評価期間(制度導入助成)でテレワークを実施(3か月間) — 対象労働者全員が1回以上、またはテレワーク対象労働者の週間平均実施回数が1回以上になるようにテレワークを実施する。
- Step 3: 支給申請書(制度導入助成)の提出 — 評価期間終了後2か月以内に、就業規則の写しや実施状況一覧表などを添えて管轄の都道府県労働局へ提出する。
- Step 4: 評価期間(目標達成助成)でテレワークを実施(制度導入助成の初日から12か月後・3か月間) — 離職率の低下とテレワーク実績の維持を確認しながら運用を続ける。
- Step 5: 支給申請書(目標達成助成)の提出 — 制度導入後離職率算定期間の末日から2か月以内に提出する。賃金要件の加算を狙う場合は、賃金台帳等の追加書類も必要になる。
【要注意】制度選びと申請でよくある失敗
失敗1: テレワーク対象者を正社員だけに限定してしまう
❌ 「非正規雇用は対象外」と就業規則に明記してしまう
⭕ 雇用形態の違いだけを理由にテレワーク対象者から除外しない(厚労省ガイドラインで明示)
厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、正規・非正規といった雇用形態の違いのみを理由にテレワーク対象者から除外することのないよう留意すべきとされている。就業規則の規定内容がこの点に反していると、支給要件を満たさない可能性がある。
失敗2: 賃金要件の加算を狙って一部の手当だけ引き上げる
❌ 通勤手当や家族手当だけを増額して「賃金を5%上げた」と申請する
⭕ 「毎月決まって支払われる賃金」(基本給+役職手当・資格手当等の諸手当)を対象労働者全員分で5%以上引き上げる
支給要領では、時間外手当や皆勤手当など月ごとに変動する手当は賃金要件の対象に含まれない。賃金を上げたつもりでも算定対象外の手当だけだと、目標達成助成の加算(10万円→15万円)を受けられない。
失敗3: 離職率30%以下の要件を見落とす
❌ テレワークを実施していれば目標達成助成は自動的にもらえると思い込む
⭕ 制度導入後離職率が「制度導入前離職率以下」かつ「30%以下」の両方を満たす必要がある
離職率は退職者数を評価対象期間の期首労働者数で割って算出する(定年退職や重責解雇による離職者は除く)。テレワークを実施していても、離職率がこの基準を超えていると目標達成助成は支給されない。
失敗4: 国と東京都の助成金で対象経費を混同する
❌ 「テレワーク助成金でPCを買った」領収書を国の助成金の申請書に添付する
⭕ 国の助成金は就業規則・研修等の「取組の実施」が支給要件。機器購入費は東京都(または他のデジタル化補助金)側で申請する
2つの制度は名前が似ているため、対象経費を取り違えたまま書類を準備してしまうケースがある。申請前に「この経費はどちらの制度向けか」を必ず仕分けておく。
併用できる組み合わせ
| 組み合わせ | 可否 | 注意点 |
|---|---|---|
| 人材確保等支援助成金 + 東京都テレワークトータルサポート助成金 | ⭕可能 | 同一経費の二重申請は不可。取組費用と機器購入費で対象を分ける |
| 人材確保等支援助成金 + デジタル化・AI導入補助金 | ⭕可能 | 目的が異なる経費(制度整備 vs ITツール導入)であれば併用しやすい |
| 人材確保等支援助成金 + 人材開発支援助成金(AI研修) | ⭕可能 | 研修の内容がテレワーク推進向けか、AIスキル習得向けかで申請区分を分ける |
| 過去3年以内に本助成金の支給を受けている場合の再申請 | ❌不可 | 支給申請書の提出日から過去3年以内の受給歴があると対象外 |
よくある質問
Q1. 人材確保等支援助成金(テレワークコース)とはどんな制度ですか?
中小企業事業主がテレワーク勤務を制度として導入・実施し、人材確保や雇用管理改善の効果をあげた場合に支給される厚生労働省の助成金です。制度導入助成(20万円)と目標達成助成(10万円、賃金要件達成で15万円)の2段階で構成されています。
Q2. すでにテレワークを導入済みでも申請できますか?
できます。「実施拡大事業主」として、既存の就業規則等を拡充し、評価期間前3か月と比べてテレワーク実施回数を25%以上増加させることなどが要件になります。
Q3. 個人事業主でも申請できますか?
雇用保険の適用事業主であり、共通要領で定める中小企業事業主の要件(業種ごとの資本金・常時雇用労働者数の基準)を満たしていれば、法人・個人事業主を問わず対象になり得ます。詳細な要件は都道府県労働局にご確認ください。
Q4. 対象経費にはどんなものが含まれますか?
この助成金は、パソコンやソフトウェアの購入費そのものを助成する制度ではありません。就業規則等の整備、職場風土づくり、外部コンサルティング、労務管理担当者・労働者への研修といった「取組の実施」に対して定額が支給される仕組みです。機器・ツールの購入費用が必要な場合は、東京都のテレワークトータルサポート助成金など別制度の活用を検討してください。
Q5. 東京都の助成金と同時に申請できますか?
可能です。ただし同一の経費を両方の制度で重複して申請することはできません。国の助成金は就業規則整備・研修等、東京都の助成金は機器・ソフトウェア購入費というように、対象を分けて申請するのが実務上のポイントです。
Q6. 申請の締切はありますか?
特定の締切は設けられておらず、通年で評価期間を開始できます。評価期間(制度導入助成・目標達成助成それぞれ3か月間)の終了後2か月以内に支給申請書を提出する必要があります。
自社に合う制度を選ぶための次の一歩
国の人材確保等支援助成金(テレワークコース)は、機器を買わなくても「就業規則を整え、研修を実施する」だけで最大35万円を受け取れる、始めやすい制度だ。まずは自社の就業規則にテレワーク規定があるかを確認し、なければ整備から着手するのが最初の一歩になる。都内企業であれば、東京都テレワークトータルサポート助成金との組み合わせも検討したい。
AI導入の計画策定や、どの補助金・助成金が自社に合うか分からない場合は、お気軽にご質問ください。→ お問い合わせフォーム
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
免責事項
本記事の情報は2026年7月9日時点の厚生労働省・東京都の公表資料に基づく参考情報です。助成金・補助金の制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず各制度の公式サイトで最新の支給要領・募集要項をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
参考・出典
- 人材確保等支援助成金(テレワークコース)|厚生労働省 — 厚生労働省(参照日:2026-07-09)
- 人材確保等支援助成金(テレワークコース)のご案内 令和8年4月1日版リーフレット — 厚生労働省(参照日:2026-07-09)
- 人材確保等支援助成コース助成金(テレワークコース)支給要領 R8.4.1版 — 厚生労働省(参照日:2026-07-09)
- 各雇用関係助成金に共通の要件等(中小企業事業主の定義) — 厚生労働省(参照日:2026-07-09)
