AI導入を検討している経営者から、「補助金って1つしか使えないんですよね?」という質問をよく受ける。正直、これは大きな誤解だ。適切に組み合わせれば、同じAI導入プロジェクトで複数の制度から支援を受けることができる。
ただし、何でも重ねられるわけではない。「同一経費への重複計上」は返還対象になる。このガイドでは、実際に弊社が支援した企業の事例をもとに、2026年度の補助金併用パターンと、やってはいけない重複ケースを具体的に整理する。
2026年度に使える主要制度の基本データ
| 制度名 | 所管 | 補助率 | 上限額 | 主な対象経費 |
|---|---|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金 | 経済産業省 | 1/2〜4/5 | 450万円 | ソフトウェア・AI ツール・クラウド |
| ものづくり補助金(第23次) | 中小企業庁 | 1/2〜2/3 | 1,250万円 | 設備・システム開発・外注費 |
| 人材開発支援助成金 | 厚生労働省 | 45〜75% | (経費×補助率) | 研修費・訓練期間中の賃金 |
| 持続化補助金(第19回) | 中小企業庁 | 2/3 | 250万円 | 広報費・設備費・外注費 |
| 省力化投資補助金 | 中小企業庁 | 1/2〜2/3 | 1億円 | カタログ製品・ロボット等 |
※ 各制度の詳細な公募条件は、公式サイトで最新の公募要領を必ず確認してください。複数制度の比較はAI導入に使える補助金5選 徹底比較もご覧ください。
製造業A社が実践した「デジタル化AI補助金+ものづくり補助金+人材開発支援助成金」の3段階戦略
事例区分: 実支援案件(匿名加工)
以下は弊社がAI導入を支援した企業の事例です。守秘義務のため社名・数値を一部加工しています。
A社の課題と選んだ制度の組み合わせ
従業員42名の金属加工メーカー(関東圏)。課題は3つあった。受発注データの手入力(月80時間)、検品工程の熟練工依存、そして新規機械導入後の現場トレーニングの遅れだ。
この3つを1つの補助金でカバーしようとすると、制度の要件に合わない部分が出てくる。そこで弊社が提案したのが以下の分割戦略だ。
| 課題 | 使った制度 | 補助対象経費 | 補助額(概算) |
|---|---|---|---|
| 受発注AIソフトウェアの導入 | デジタル化・AI導入補助金 | ソフトウェア費・クラウド費 | 約210万円 |
| AI検品システム(専用機器込み) | ものづくり補助金 | 機械装置費・外注費 | 約480万円 |
| 従業員向けAI操作研修 | 人材開発支援助成金 | 訓練経費・賃金補填 | 約60万円 |
3制度合計の補助額: 約750万円。総事業費約1,280万円に対して、実質負担は約530万円(約41%)まで圧縮できた。(なお、シミュレーション欄の省力化補助金は確認された最新の補助率2/3で計算している)
なぜこの組み合わせが「合法」なのか
3つの経費が完全に分離しているのがポイントだ。AI-OCRソフトとライセンス費はデジタル化AI補助金、AI検品カメラとカスタマイズ費はものづくり補助金、研修受講費と訓練中の賃金は人材開発支援助成金——それぞれ補助対象経費が重複していない。
仮にAI検品カメラを「デジタル化AI補助金でも申請しよう」としたら、それは二重受給になる。審査の段階でバレなくても、実績報告後の検査で発覚した場合、補助金全額の返還請求が来る。
サービス業B社の事例:持続化補助金+デジタル化AI補助金で販路開拓とシステム投資を分ける
事例区分: 想定シナリオ
以下は100社以上の支援経験をもとに構成した典型的な活用シナリオです。
士業・コンサルタントや飲食・小売など、「設備投資はそれほどないが、集客とシステムを同時に整備したい」企業に有効なパターンがある。
構成:持続化補助金(販路開拓)+デジタル化AI補助金(AI活用)
| 項目 | 持続化補助金 | デジタル化AI補助金 |
|---|---|---|
| 補助対象 | 広報費・展示会出展・チラシ制作 | AIチャットボット・MA ツール |
| 補助率 | 2/3 | 1/2〜2/3 |
| 上限額 | 50万円(通常枠)〜250万円 | 150万円〜450万円 |
| 目的 | 新規顧客開拓 | 業務の自動化・AI活用 |
「チラシ制作費」と「AIメール自動応答の開発費」は明らかに別経費だ。持続化補助金で集客コストを抑え、デジタル化AI補助金でバックエンドの業務効率化に投資する——この2本立ては、中小企業が最もやりやすい併用パターンのひとつだ。
注意:持続化補助金のIT導入費の扱い
持続化補助金の「ウェブサイト関連費」は、補助金全体の4分の1を上限としている。仮にECサイト構築費が多額になる場合は、デジタル化AI補助金の対象となるか確認した上で、どちらで申請するか決める必要がある。両方で同じサイト開発費を計上するのはNGだ。
最もよくある「やってはいけない」重複3パターン
❌ パターン1:同一ソフトウェアをデジタル化AI補助金とものづくり補助金で二重申請
⭕ 正しくは:ソフトはデジタル化AI補助金、付随する設備・カスタマイズはものづくり補助金で分割計上する
よくある誤解は「採択してから考える」という姿勢だ。申請段階で経費区分が明確でないと、どちらかが不採択になったり、交付決定後に修正を求められたりする。事前に両方の公募要領を読み比べ、補助対象経費の定義を確認すること。
❌ パターン2:事業再構築補助金(廃止済み)の後継を探して同一事業に新事業進出補助金+ものづくり補助金を重ねる
⭕ 正しくは:同一の補助事業(計画)に対して複数の国補助金を重ねるのは原則不可
新事業進出補助金(旧・事業再構築補助金後継)とものづくり補助金は、それぞれ「新規事業」「既存事業の生産性向上」と目的が異なる。ただし、同一の補助事業計画を二重に申請することはできない。新事業と既存事業改善を明確に分けた上で、別々の事業計画として申請する必要がある。
❌ パターン3:人材開発支援助成金で「AI操作研修」を計上した後、同じ研修費をものづくり補助金の「外注費」にも含める
⭕ 正しくは:研修費は人材開発支援助成金のみ。ものづくり補助金の外注費はシステム開発・設備調整に限定する
実際に支援の中でよく見るのがこのパターンだ。ベンダーの請求書が「機器設置+操作研修セット」となっていると、どの費用がどの補助金に対応するか不明確になる。契約段階でベンダーに費目の分割請求を依頼することが重要だ。
2026年度に使える3段階シミュレーション:AI導入+研修+設備投資
以下は、製造業(従業員30名以下・小規模事業者要件あり)がAI導入をフルに補助金で進める場合の試算だ。実際の補助金額は審査・採択状況によって異なる。
| Phase | 内容 | 使う制度 | 想定補助率 | 投資額目安 | 補助額目安 |
|---|---|---|---|---|---|
| Phase 1 | AIチャットボット・OCR導入 | デジタル化AI補助金(AI導入枠) | 2/3 | 300万円 | 200万円 |
| Phase 2 | AI検品システム+専用ロボット | 省力化投資補助金(カタログ型) | 2/3(小規模) | 500万円 | 333万円 |
| Phase 3 | 全社AI活用研修(10名×3日間) | 人材開発支援助成金 | 75% | 120万円 | 90万円 |
| 合計 | 920万円 | 約623万円(約68%) | |||
注意点: Phase 1と2は申請タイミングを意識する必要がある。デジタル化AI補助金(2026年3月30日受付開始・第1次締切2026年5月12日)と省力化補助金は公募期間が重なる場合がある。交付決定前に発注できないため、採択から交付決定までのスケジュールを逆算して計画すること。
省エネ補助金・自治体助成金との組み合わせも見落とさない
国の補助金だけでなく、都道府県・市区町村の独自助成金も視野に入れると、さらに実質負担を下げられる。
たとえば東京都内の企業なら、東京都DX推進助成金(最大500万円)を国の補助金と組み合わせることができる制度もある。ただし東京都の補助金にも「国費との重複」規定があるため、申請前に担当窓口への確認が必須だ。
地域の独自制度についてはGビズID登録ガイドの関連リンクから各都道府県の制度を探せる。
併用を成功させるための3つの実務ポイント
- 経費の「色分け」を事前に決める:どの費目をどの補助金に計上するか、事業計画の段階で確定させる。ベンダーには費目ごとの分割請求を依頼する。
- 申請タイミングのズレを計算する:複数の補助金を同時申請しても、交付決定時期がズレると事業実施のスケジュールに影響が出る。採択から交付決定まで通常2〜3ヶ月かかることを想定しておく。
- 実績報告書を制度ごとに別で作る:複数の補助金を受給した場合、実績報告はそれぞれの事務局に別々に提出する。経費の証拠書類(請求書・領収書)を制度ごとに整理しておくこと。
今日から始める3つのアクション
- 今日やること:自社のAI導入プロジェクトを「ソフトウェア」「設備」「研修」の3カテゴリに分類する
- 今週中:ミラサポplusのデジタル化AI補助金ページとものづくり補助金サイトの公募要領を並べてダウンロードし、補助対象経費の定義を比べる
- 今月中:どの制度を組み合わせるか仮確定し、お問い合わせフォームからAI導入計画の相談を行う
あわせて読みたい:
– AI導入に使える補助金5選 徹底比較 — 各制度の補助率・対象経費を一覧で比較
– 補助金申請書の書き方ガイド — 審査で差がつく5つの観点
この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
参考・出典
- デジタル化・AI導入補助金 — ミラサポplus(参照日: 2026-03-24)
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公式サイト(参照日: 2026-03-24)
- 人材開発支援助成金 — 厚生労働省(参照日: 2026-03-24)
- 小規模事業者持続化補助金 公式サイト(参照日: 2026-03-24)
- ものづくり補助金の併用は可能?他補助金との組み合わせ方と注意点 — 株式会社イチドキリ(参照日: 2026-03-24)
免責事項
本記事の情報は2026年3月24日時点の各省庁・事務局の公表資料に基づく参考情報です。補助金・助成金の制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず各制度の公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。