2026年6月は、中小企業向け補助金の「端境期」と「公募開始ラッシュ」が同時に来る、ちょっと特殊な月になります。ものづくり補助金は第23次の交付決定がポツポツ通知される一方、6月公開予定の新制度(新事業進出・ものづくり補助金として統合された後継スキーム)はまだ公募要領待ち。IT導入補助金(デジタル化・AI導入補助金2026)の2次締切は6月15日17時、省力化投資補助金の第7回公募も6月上旬開始予定、事業承継・M&A補助金の15次公募要領は5月22日に公開、6月中旬から申請受付が始まります。
つまり「6月の動き」を読まないと、せっかくの補助金枠を取りこぼします。逆に、6月にカレンダーを引いて優先順位をつけられる中小企業は、年度後半の投資原資を確保しやすい。本記事は6月公募予定の7制度を、補助率・上限・対象・締切・採択率の一次情報ベースで横並びにし、「うちはどれから手をつけるべきか」を業種別に判断できる優先度マップを提示します。
結論を先に言うと、6月時点で中小企業が「直前で間に合う」のはIT導入補助金(2次)と省力化投資(第7回)、「準備に時間がかかるが見送るべきでない」のが事業承継・M&A(15次)と省エネ・非化石転換(2次)、「いま動き出さないと2027年度の人材育成計画に影響する」のが人材開発支援助成金、です。順番に見ていきます。
本記事は2026年5月26日時点で各事務局および省庁公式サイトに公開されている情報をもとに作成しています。公募スケジュールは事業者の判断で変更されることがあるため、申請にあたっては必ず公式ページの最新版でダブルチェックしてください。
6月公募予定の7制度 — 一覧マップ
まず、6月に「公募中」「申請受付中」「公募要領公開済み」のいずれかに該当する7制度を、補助率と上限額の高い順に並べた早見表です。
| 制度 | 所管 | 補助率(中小) | 補助上限 | 6月の状況 | 申請難易度 |
|---|---|---|---|---|---|
| ものづくり補助金 第23次 | 中小企業庁 | 1/2〜2/3 | 製品・サービス高付加価値化枠で2,500万円(従業員規模により最大4,000万円) | 4/3〜5/8の申請期間は終了。6月は審査・採択待ち。後継の統合制度は6月公募要領公開・8月申請開始予定 | 高 |
| デジタル化・AI導入補助金2026 (旧IT導入補助金) 通常枠 | 中小企業庁 | 1/2(従業員5名以下は2/3) | 450万円 | 2次締切 2026年6月15日17時(交付決定 7月23日予定) | 中 |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) 第7回 | 中小企業庁 | 1/2(賃上げ要件達成で2/3) | 従業員規模により750万円〜8,000万円 | 2026年6月上旬 公募開始予定 | 中〜高 |
| 事業承継・M&A補助金 15次公募 | 中小企業庁 | 枠により1/2〜2/3 | 枠により600万円〜800万円 | 公募要領 5月22日公開済、申請受付 6月中旬〜7月下旬 | 高 |
| 省エネ・非化石転換補助金 2次公募 | 経済産業省 / SII | 1/2(中小企業)、(Ⅳ)エネルギー需要最適化型は中小1/2/大企業1/3 | 事業区分により1億〜15億円(中小投資促進枠は別建て) | 2次公募 2026年6月上旬〜7月上旬(予定) | 高 |
| 東京都 中小企業デジタルツール導入促進支援事業 | 東京都中小企業振興公社 | 1/2(緊急支援は3/4) | 100万円(緊急支援は150万円) | 令和8年度 第1回 募集要項公開、JGrants申請受付中 | 低〜中 |
| 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース) | 厚生労働省 | 経費助成75%(大企業60%) | 1事業所1年度あたり1億円(賃金助成は1人1時間1,000円・大企業500円) | 恒常制度。随時申請可。2026年3月2日改正で「人事・人材育成計画に基づく訓練」も対象化 | 中(社労士伴走推奨) |
表を見ながら気になるのは「補助率1/2が並んでいるのに、申請難易度は制度ごとに違うのか」という点です。違います。同じ補助率1/2でも、ものづくり補助金は事業計画書の審査が厳しく、省力化投資補助金はカタログ型(汎用製品からの選択)が中心、IT導入補助金はIT導入支援事業者を通した申請が前提です。「補助率の数字だけ見て簡単そう」と判断するのが、補助金活用で最もよくある失敗パターン。次の章で各制度を深掘りします。
制度1: ものづくり補助金 — 第23次は審査中、6月は「次の手」の準備期間
ものづくり補助金(正式名称: ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は、中小企業の革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセス改善を支援する、経済産業省・中小企業庁の旗艦制度です。2026年の第23次公募は2026年4月3日(木)〜5月8日(木)で申請受付が終了しており、6月時点では審査が進行中。中小企業庁が2月6日に公開した公募要領で、第22次の主な変更点が反映されています。
第23次の基本データ
- 所管: 経済産業省・中小企業庁
- 申請受付: 2026年4月3日〜5月8日(終了済)
- 補助率: 通常枠 中小企業1/2、小規模事業者・再生事業者・営業利益赤字事業者2/3
- 補助上限: 製品・サービス高付加価値化枠で従業員5名以下は750万円、6〜20名は1,000万円、21〜50名は1,500万円、51名以上は2,500万円(賃上げ特例で最大4,000万円)
- 対象経費: 機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、原材料費、外注費、知的財産権等関連経費
- 公式: https://portal.monodukuri-hojo.jp/
6月中にやるべきこと
申請済みの企業: 採択発表は6月中旬〜下旬の見込みです。採択された場合、交付申請(別書類)が必要で、これがまた手間。採択後30日以内に交付申請書を提出し、交付決定を待ってから発注・契約することになります。「採択=お金が入る」ではない。ここを誤解してフライング発注すると、その分は補助対象外です。
申請しなかった企業: 6月時点で動き出すべきは「統合後の新制度」の情報収集。2026年度の補正予算で、ものづくり補助金は新事業進出補助金と統合される方針が示されています。後継スキーム「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の公募要領は2026年6月公開予定、申請受付は2026年8月開始の予定です。事業計画策定には平均2〜3か月かかるので、6月の公募要領公開と同時に動けるよう、社内でテーマ・予算・体制を仮固めしておくことが現実的なアクションです。
第23次から見えた審査のポイント
過去回の採択率は概ね30〜50%の範囲で推移しています(中小企業庁発表ベース)。第22次以降、賃上げ特例の活用が事実上の標準化しており、「給与支給総額を年率平均1.5%以上増加させる」「事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上にする」の2要件を満たすと補助上限が拡大されます。逆に言うと、賃上げに踏み込まない事業計画は不利になりやすい。
正直なところ、ものづくり補助金は「設備投資の一部に補助が出る」というより「賃上げと生産性向上を両輪で進める中小企業に補助が出る」制度に進化しています。AI設備の導入で人を減らす、ではなく、AI設備でアウトプットを増やしながら賃上げもする、というストーリーで書けないと審査委員には響きません。
制度2: デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金) — 6月15日17時が2次締切
2026年度から名称が「デジタル化・AI導入補助金2026」に変更されたIT導入補助金。AIツールの導入も明確に対象に含まれるようになり、ChatGPT BusinessやMicrosoft 365 Copilotといった生成AIツールも、IT導入支援事業者経由でITツール登録されているものは申請可能です。
2次締切の基本データ
- 所管: 中小企業基盤整備機構(SMRJ)
- 募集期間開始: 2026年3月30日(月)10:00〜
- 2次締切: 2026年6月15日(月) 17:00
- 交付決定日: 2026年7月23日(木) 予定
- 事業実施期間: 交付決定〜2027年1月29日(金) 17:00 予定
- 補助率(通常枠): 1/2(従業員5名以下の小規模事業者は2/3)
- 補助上限(通常枠): 450万円
- 申請条件: GビズIDプライム、SECURITY ACTION宣言、IT導入支援事業者との連携
- 公式: https://it-shien.smrj.go.jp/
2次締切に間に合わせるためのスケジュール逆算
6月15日17時に申請完了させるには、以下の準備が必要です。下記から逆算すると、6月1日には動き出していたい。
- 5月下旬まで: IT導入支援事業者の選定とITツールの選定。事業者ごとに得意分野が異なるため、AIツールに強い事業者、業務システム全般に強い事業者など、比較検討に1〜2週間。
- 6月初旬: GビズIDプライムの確認(未取得なら申請、付与まで1〜2週間かかるため要注意)。SECURITY ACTION「★一つ星」または「★★二つ星」を宣言。
- 6月10日まで: 事業計画(売上向上の見込み・労働生産性向上の数値目標)を確定。IT導入支援事業者と本申請のドラフトを完成。
- 6月15日17時まで: 申請マイページから本申請。締切1時間前は混雑するため、できれば前日完了が安全。
正直、GビズIDプライムを持っていない中小企業が6月から動き始めると、付与待ちで2次締切に間に合わない可能性が高いです。間に合わない場合は、無理に強行突破せず、3次以降の締切を狙うほうが採択確率を上げられます。
AI/DX関連で使える対象経費の具体例
- ソフトウェア購入費: クラウド型業務システム、AIチャットボット、画像認識AI、音声認識AI、生成AI業務組み込みパッケージなど
- クラウドサービス利用料: 最大2年分(従来は1年分のみ)
- 導入関連費: 導入コンサルティング、業務フロー整理、教育費
- ハードウェア: PC・タブレット・レジ等は通常枠では原則対象外。インボイス枠(別類型)で対象になるものあり
制度3: 中小企業省力化投資補助金(一般型) 第7回 — 6月上旬公募開始予定
省力化投資補助金は、人手不足が深刻な中小企業の自動化・省人化投資を支援する制度。一般型と「カタログ注文型」の2つに分かれており、カタログ注文型は登録された汎用製品(配膳ロボット、自動清掃ロボット、検品機など)から選ぶ簡易申請、一般型はオーダーメイドのシステム開発も含む本格的な事業計画書ベースの申請です。
第7回(一般型)の基本データ
- 所管: 経済産業省・中小企業庁
- 公募開始予定: 2026年6月上旬
- 補助率: 中小企業1/2、賃上げ要件達成で2/3
- 補助上限: 従業員規模に応じて750万円〜8,000万円
- 対象経費: 機械装置・システム構築費、専門家経費、クラウドサービス利用費、外注費
- 申請要件: GビズIDプライムアカウント、3年間の人時生産性年平均4%以上向上計画など
- 公式: https://shoryokuka.smrj.go.jp/ippan/
第6回からの引継ぎ事項
事務局からの案内によると、第1回〜第5回採択者と第6回申請中事業者は第7回への申請ができません。これは「同じ事業者が連続で採択されて他社の機会を奪う」事態を避ける制度設計です。逆に言うと、初めて申請する企業や、過去落選した企業にはチャンスが回ってくる回です。
AI活用と相性のよい使い方
一般型は「オーダーメイド省力化」の本格申請になるため、AI画像認識による検品自動化、AI需要予測による在庫最適化、AIチャットボットによる顧客対応自動化など、業務工程ごとAIを組み込むプロジェクトと相性が良いです。カタログ注文型では選べない、自社独自の業務フローに合わせた省力化を目指せます。
注意点として、人時生産性4%以上向上を3年間維持する計画を求められるため、「省力化したいけど数値目標までは決めきれない」段階ではなく、「具体的にこの工程で何人時間を削れる」と試算できている企業向けです。試算の精度が審査でも見られます。
制度4: 事業承継・M&A補助金 15次公募 — 6月中旬から申請受付
事業承継・M&A補助金は、後継者不在問題やM&Aを通じた事業再編を支援する制度。14次公募(2026年2月27日〜4月3日)で申請を受け付けた回はすでに終了しており、5月中旬の採択発表を経て、6月上旬以降に交付決定が下りる流れです。続く15次公募の公募要領は2026年5月22日に公開され、申請受付は2026年6月中旬〜7月下旬の予定。
15次公募の基本データ(令和7年度補正予算ベース)
- 所管: 経済産業省・中小企業庁
- 公募要領公開: 2026年5月22日
- 申請受付: 2026年6月中旬〜7月下旬(予定)
- 主な枠: 経営革新事業、専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業、M&A後の経営統合(PMI)事業など
- 補助率: 枠により1/2〜2/3
- 補助上限: 枠により600万円〜800万円
- 公式: https://shoukei-mahojokin.go.jp/
AI/DX文脈での活用
事業承継・M&A補助金は単純な「承継費用補助」ではなく、承継後の経営革新を伴う投資が対象です。たとえば事業承継後にデジタル化基盤を一新する、買収先のシステムを自社AIプラットフォームと統合する、といった用途で機械装置費・システム構築費を計上できます。AI/DXとの連動性は高いものの、「事業承継・M&A」が前提のため、純粋なDX投資単体での申請はできません。
制度5: 省エネ・非化石転換補助金 2次公募 — 6月上旬〜7月上旬予定
経済産業省所管、SII(一般社団法人 環境共創イニシアチブ)事務局の省エネ・非化石転換補助金は、工場や事業場の省エネ投資・電化・非化石燃料転換を支援する制度。1次公募(2026年3月30日〜4月27日)はすでに終了しており、2次公募が6月上旬〜7月上旬の予定です。
2次公募の基本データ
- 所管: 経済産業省 / 事務局: SII
- 2次公募期間: 2026年6月上旬〜7月上旬(予定)
- 2次公募交付決定: 2026年9月上旬(予定)
- 補助率: (Ⅳ)エネルギー需要最適化型 中小企業1/2・大企業1/3、他事業区分は事業によって異なる
- 補助上限: 事業区分により1億〜15億円(中小投資促進枠は別建てで設定)
- 主な事業区分: (Ⅰ)工場・事業場型、(Ⅱ)電化・脱炭素燃料転換型、(Ⅲ)設備単位型、(Ⅳ)エネルギー需要最適化型
- 公式: https://syouenehojyokin.sii.or.jp/
中小投資促進枠が中小企業の現実的な選択肢
(Ⅰ)工場・事業場型には「中小企業投資促進枠」が用意されており、一般枠より省エネ要件・投資回収年数要件が緩和されています。具体的には、エネルギー削減量や省エネ率の数値ハードルが低く、投資回収年数も緩く設定されているため、「うちは大企業のように大規模設備更新はできない」中小企業でも申請対象に入ります。
AI領域で関係が深いのは(Ⅳ)エネルギー需要最適化型。AIエッジ制御によるエアコン・照明の最適化、需要予測AIによる工場の電力使用ピークカットなど、「AI=エネルギーマネジメント」の文脈で投資対象になります。EMS(エネルギーマネジメントシステム)の導入とAI制御を組み合わせた提案であれば、本制度との相性は高い。
制度6: 自治体独自制度の代表例 — 東京都・奈良県
国の補助金と並行して、各都道府県・市区町村が独自のデジタル化・賃上げ・省力化補助金を運用しています。代表例として、東京都と奈良県の制度を取り上げます。地域によって名称・金額・要件は大きく異なるため、自社所在地の自治体公式サイトでの確認が必須です。
東京都: 中小企業デジタルツール導入促進支援事業
- 所管: 公益財団法人 東京都中小企業振興公社
- 令和8年度 第1回 募集要項公開済、JGrants申請受付中
- 助成対象: 新たに導入するデジタルツール(ソフトウェア、クラウドサービス)の購入費等。会計ソフト、受発注ソフト、出退勤管理ソフト、業務改善ソフトウェアなど
- 助成率: 1/2(緊急支援事業は3/4)
- 助成上限: 100万円(デジタルツール導入促進緊急支援事業は150万円・建設業/運輸業限定)
- 申請方法: 事前取得済みのgBizIDでJGrantsにログインして電子申請
- 注意: 予算到達次第締切
- 公式: https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/jigyo/digital-tool.html
東京都の特徴は「申請が比較的シンプル」「予算到達次第締切で先着順性が強い」こと。国の補助金より審査ハードルが低く、初めて補助金にチャレンジする中小企業に向いています。ただし、人気が高く予算が早く尽きるため、年度開始直後の申請が現実的。
奈良県: 中小企業向け賃上げ・設備投資補助金
- 奈良県中小企業省力化・生産性向上設備投資支援補助金: 中小企業診断士の支援を受けて設備投資を行い、賃上げ(3月比2.4%以上)を条件に補助。上限500万円、補助率1/2。申請期間8/28〜1/16
- 奈良県中小企業賃上げ環境整備支援補助金: 持続的な賃上げを実現するため、省力化・収益力向上につながる設備投資・システム導入を補助。事業計画書作成にあたり、商工会・商工会議所の伴走支援を事前に受ける必要あり
- 公式: https://www.pref.nara.jp/
奈良県のように「賃上げ要件+商工会伴走支援必須」のパターンは、他県でも増えています。地方自治体は「賃上げ実績の客観的データ提出」「商工会との接点」を要件化することで、形だけの申請を抑制し、本気で経営革新する企業に絞り込む方向。これは大阪府・愛知県・福岡県など他の主要県でも見られる傾向です。
自社所在地以外の都道府県補助金は使えませんが、「県」「市」「区」「町」の三層で重複しないかチェックすると、思わぬ受け皿が見つかります。たとえば東京都内の中小企業は、東京都の助成金+特別区(港区・新宿区など)の助成金を併用できるケースがあります(同一経費の重複申請は不可。経費区分を分ければOK)。
制度7: 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース) — 6月は常時申請可
厚生労働省の人材開発支援助成金は、雇用保険適用事業所が労働者にDX/AI研修を実施した場合の経費と賃金を助成する制度。公募回ではなく恒常制度のため、計画届を出して訓練実施→支給申請、というサイクルが年中まわっています。2026年3月2日に大幅な制度改正が行われ、活用しやすくなりました。
事業展開等リスキリング支援コースの基本データ
- 所管: 厚生労働省 / 都道府県労働局・ハローワーク
- 経費助成率: 中小企業75%、大企業60%
- 賃金助成額: 1人1時間あたり 中小企業1,000円、大企業500円
- 助成限度額: 1事業所1年度あたり1億円
- 対象訓練: 事業展開に伴う訓練、人事・人材育成計画に基づく訓練(2026年3月2日以降の新規対象)
- 公式: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
2026年3月以降の改正ポイント
2026年3月2日の改正で、従来「事業展開(新規事業・業態転換)に伴う訓練」だけが対象だったところに、「人事・人材育成計画に基づく訓練」が新規対象として追加されました。これにより、新規事業がなくても、社内のAI/DX人材育成計画があれば申請できるようになっています。中小企業にとってのインパクトはかなり大きい。
ただし、認定支援機関による事業展開等実施計画の確認が必要になるなど、書類面の要求は強化されています。社労士または認定支援機関との連携が事実上の前提です。
申請の流れ
- 訓練計画策定 — 訓練内容、対象者、目標、実施期間を明確化
- 計画届提出 — 訓練開始1か月前までに労働局へ
- 訓練実施 — 計画に沿って実施、出席簿・賃金台帳を整備
- 支給申請 — 訓練修了から2か月以内に支給申請書を提出
- 支給決定・振込 — 審査後、振込
正直、書類の手間はあります。でも経費の75%と1時間あたり1,000円の賃金助成は中小企業にとって大きく、AI研修であれば1名あたり実質負担を相当圧縮できます。社労士との連携前提で活用すべき制度です。
業種×制度の優先度マップ — どこから手をつけるべきか
7制度を並べても、自社で使えるのはどれか、すぐ判断するのは難しい。業種別の優先度を整理しました。下記は典型的なパターンであり、自社の状況によって変わりますが、出発点として使ってください。
| 業種(代表例) | 最優先(まず動かす) | 並行検討 | 余力があれば |
|---|---|---|---|
| 製造業(従業員30名・設備投資ニーズ高) | 省力化投資補助金 第7回(6月上旬公募) | 省エネ・非化石転換補助金 2次公募、人材開発支援助成金 | 新事業進出・ものづくり統合補助金(8月申請開始)に向けた事前準備 |
| 飲食業(従業員15名・人手不足深刻) | 省力化投資補助金 第7回(配膳ロボット・自動受発注などカタログ注文型と一般型を比較) | デジタル化・AI導入補助金2026 2次締切(POS・予約管理AI) | 人材開発支援助成金(調理AI・接客AIの教育) |
| IT受託(従業員5名・小規模) | デジタル化・AI導入補助金2026 2次締切(社内開発環境のAI化) | 人材開発支援助成金(生成AI実装研修)、東京都デジタルツール導入(都内なら) | 事業承継・M&A補助金(将来の事業承継視野で) |
| 小売業(従業員10〜30名・店舗多数) | デジタル化・AI導入補助金2026 2次締切(在庫管理AI・需要予測AI) | 省力化投資補助金 第7回(自動レジ・自動清掃ロボット) | 自治体独自制度(地域密着の小売支援補助金) |
| 建設業(従業員20名・東京都内) | 東京都 デジタルツール導入促進緊急支援事業(建設業対象・補助率3/4) | 省力化投資補助金 第7回、人材開発支援助成金 | デジタル化・AI導入補助金2026 2次締切 |
| 後継者不在の中堅企業(事業承継検討中) | 事業承継・M&A補助金 15次公募(6月中旬申請開始) | 人材開発支援助成金(承継後の幹部育成) | 省力化投資補助金 第7回(承継後の経営革新投資) |
業種を超えて言えるのは、人材開発支援助成金は「ほぼすべての中小企業が併用できる」恒常制度であること。設備投資系の補助金と同時並行で進めれば、設備導入時の研修費用も助成対象にできます。
申請準備フロー — 6月から逆算した5ステップ
どの制度に申請するか決まったら、共通する準備フローを回します。
- Step 1: GビズIDプライムの確認・取得 — 国の補助金はほぼ全てGビズIDプライムが申請の前提。郵送申請で付与まで1〜2週間かかるため、未取得なら最優先。
- Step 2: 自社の経営課題と投資テーマの言語化 — 「何をどう変えたいか」「どの数値目標を達成するか」を社内で1〜2週間かけて言語化。事業計画書の骨格になる。
- Step 3: 制度の最終選定と支援パートナーの選定 — 補助金の制度ごとに、IT導入支援事業者・認定支援機関・社労士・行政書士のいずれと組むかが異なる。公募要領を読み込み、自社にあった支援者を選定。
- Step 4: 事業計画書のドラフト作成と社内合意 — 経営者・現場・経理で内容を擦り合わせ。数値目標は「現在値→1年後→3年後」を明確に。
- Step 5: 申請書類最終チェックと提出 — 締切1週間前には完成させ、提出は締切前日までに完了。締切当日の駆け込みはシステム混雑で失敗するリスク。
このフロー全体に最低2か月、できれば3か月を見ておく。6月公募開始の制度に間に合わせるには、4〜5月の段階で動き出している必要があります。今(5月下旬)から動いて、6月締切のIT導入補助金2次に滑り込ませるのは、GビズID保有・支援事業者と既に接点ありの企業に限られます。
よくある失敗パターン4選
補助金活用の現場で実際に起きている失敗を、対策とセットで整理します。
失敗1: 締切から逆算しない
❌ 「6月15日締切まで3週間あるからまだ大丈夫」と楽観して動き出し、GビズID取得待ちで間に合わない、IT導入支援事業者の選定に時間がかかる、社内合意が取れず申請断念。
⭕ 締切から逆算して、各タスクの所要時間を1.5倍で見積もる。GビズIDは1〜2週間、支援事業者選定は1〜2週間、事業計画書作成は2〜4週間。本気で取りに行く制度は最低2か月前に動き出す。
失敗2: 事業計画を補助金事務局向けに作る
❌ 補助金を取るためだけに、社内では実現可能性の低い数値目標を書いて申請。採択後に事業計画通りに動けず、実績報告で苦しむ。最悪、補助金返還リスク。
⭕ 事業計画は「補助金を取るため」ではなく「自社の経営を前進させるため」に作る。補助金申請書はその一部の体裁を変えただけ、という状態に持っていく。採択後の運用負荷も大幅に下がる。
失敗3: 採択後の経費確認漏れ
❌ 採択発表のメールを見て、すぐ発注。「採択された=お金が出る」と勘違いして、交付決定前の発注分が補助対象外と判明、自己負担が想定外に膨らむ。
⭕ 採択→交付申請→交付決定→発注、の順序を厳守。交付決定通知書が手元に来てから契約・発注。事務局によっては「補助対象経費に該当しない費用」が事後に通知されるため、見積もりは交付決定後に最終化する。
失敗4: 補助金が通ったら意気込み倒れ
❌ 採択後、半年〜1年の事業実施期間中に、優先度の高い他案件が入り、補助金事業が後回しに。完了検査直前に慌てて消化して、形だけの導入で終わる。社内のAI/DX定着につながらない。
⭕ 採択時点で社内に「補助金事業担当者」を1名指名し、月次レビューに組み込む。経営者が定例で進捗確認する仕組みを作る。補助金は「制度を使うこと」が目的ではなく「経営を変えること」が目的、という基本に立ち戻る。
想定シナリオ3つ — 中小企業の具体的な活用イメージ
以下は「こういう企業ならこう動く」という想定シナリオです。実在の企業ではなく、複数の中小企業支援事例から抽出した代表パターンです。事例の区分: 想定シナリオ。
シナリオA: 製造業30名(関東・金属加工)
従業員30名の金属加工業。検品工程に1日2名・計4時間の人手をかけているが、人手不足で外注も難しい。社長は「AI画像認識で検品を自動化したい」と考えている。
戦略:
- 6月: 省力化投資補助金 第7回(一般型)に向けて、AI画像認識システムのベンダー選定と人時生産性4%向上計画の試算を進める
- 並行: 省エネ・非化石転換補助金 2次公募で工場の電力使用最適化EMSを検討
- 並行: 人材開発支援助成金で検品AIオペレーターの社内教育を年内に実施
狙い: 省力化補助金で機械を入れ、省エネ補助金で電力最適化、人材助成金で社内オペレーション教育、と3制度を組み合わせる。同一経費の重複申請は不可だが、経費区分が分かれていれば併用は可能。
シナリオB: 飲食業15名(都内・カフェチェーン3店舗)
従業員15名の都内カフェ3店舗。深刻なホール人手不足で、配膳ロボット導入を検討中。事務作業も増えてバックオフィスがパンク気味。
戦略:
- 6月: 省力化投資補助金のカタログ注文型で配膳ロボット2台を申請(一般型より審査がシンプル)
- 並行: デジタル化・AI導入補助金2026 2次締切(6月15日)で予約管理AI+POS連携システムを導入
- 並行: 東京都中小企業デジタルツール導入促進支援事業で会計ソフトのクラウド移行
狙い: 配膳という「店頭の物理的人手不足」、予約管理という「店頭オペレーション」、会計という「バックオフィス」の3層を同時に省人化。3制度の併用で実質負担を抑えつつ、店舗運営を立て直す。
シナリオC: IT受託5名(地方・小規模)
従業員5名のIT受託開発会社。Claude CodeやGitHub Copilotといった生成AIコーディングツールを導入して、開発生産性を上げたい。社員教育も体系化したい。
戦略:
- 6月: デジタル化・AI導入補助金2026 2次締切(6月15日)で生成AI開発ツール群を導入(従業員5名以下なので補助率2/3が適用される可能性)
- 並行: 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)で生成AI実装研修を社内実施
- 将来: 事業承継・M&A補助金(後継者問題に備えた長期戦略として情報収集)
狙い: 小規模事業者だからこそ補助率の優遇が効く。AI導入コスト+教育コストを補助金で大幅圧縮し、開発単価の高い案件に対応できる体制を作る。
免責事項
本記事の情報は2026年5月26日時点で各事務局・省庁公式サイトに公開されている公募要領・スケジュールに基づいて作成しています。補助金・助成金の制度内容、公募スケジュール、補助率、上限額、対象要件等は事業者の判断で随時変更される可能性があります。実際の申請にあたっては、必ず各制度の公式サイトで最新の公募要領を確認し、必要に応じて社労士・行政書士・認定支援機関等の専門家にご相談ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
また、本記事における採択率・成功事例の記述は、過去回の公開情報をもとにした傾向であり、特定の申請者の採択を保証するものではありません。補助金の採択は審査委員会の判断によって決定され、いかなる方法論でも採択を確約することはできません。
参考・出典(参照日: 2026年5月26日)
- 中小企業庁「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金の第23次公募要領」 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/hojyokin/kobo/2026/260206001.html
- ものづくり補助金総合サイト スケジュール https://portal.monodukuri-hojo.jp/schedule.html
- デジタル化・AI導入補助金2026 事業スケジュール https://it-shien.smrj.go.jp/schedule/
- 中小企業基盤整備機構「中小企業省力化投資補助金(一般型)」 https://shoryokuka.smrj.go.jp/ippan/
- 中小企業庁「中小企業生産性革命推進事業 事業承継・M&A補助金 十四次公募要領」 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/hojyokin/kobo/2026/260130001.html
- 事業承継・M&A補助金 公式サイト https://shoukei-mahojokin.go.jp/
- 東北経済産業局「令和7年度補正予算 省エネ・非化石転換補助金・省エネ診断事業の公募開始」 https://www.tohoku.meti.go.jp/koho/koshin/kobo/2026/k260402001.html
- 省エネ・非化石転換補助金2026年版特設サイト https://syouenehojyokin.sii.or.jp/
- 東京都中小企業振興公社「中小企業デジタル導入促進補助事業」 https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/jigyo/digital-tool.html
- 奈良県 中小企業省力化・生産性向上設備投資支援補助金 https://www.pref.nara.jp/69203.htm
- 厚生労働省 人材開発支援助成金 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
- 中小企業庁 補助金公募情報一覧 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/hojyokin/kobo.html
執筆: 株式会社Uravation 補助金ナビ編集部
監修: 佐藤 傑(さとう・すぐる) — 株式会社Uravation代表取締役。早稲田大学法学部在学中に生成AIの可能性に魅了され、100社以上の企業向けAI研修・導入支援を展開。X(@SuguruKun_ai)フォロワー10万人超。AI導入×補助金活用の実務経験をもとに、中小企業のDX推進をサポートしています。
AI導入の計画策定や、どの補助金が自社に合うか分からない場合は、お気軽にご質問ください。お問い合わせフォームからどうぞ。
関連記事:
