M&Aのクロージングが終わった瞬間から、本当の仕事が始まる。買収先の社員をどう受け入れ、基幹システムをどう統合し、異なる商習慣をどうひとつの会社に束ねるか——このPMI(Post Merger Integration)のコストを、国が最大1,000万円まで補助するのが「事業承継・M&A補助金 PMI推進枠」だ。
2026年5月時点で第14次公募(2026年2月27日〜4月3日)の審査が進行中、採択発表は2026年5月中旬(予定)となっている。申請受付は終了しているが、次回公募(令和7年度補正予算対応)に向けた準備を今から始めることが、採択への最短ルートになる。PMI専門家の確保、デュー・デリジェンス記録の整備、事業計画の骨子策定——これらには相応の時間がかかるためだ。
本記事では、2類型(PMI専門家活用類型・事業統合投資類型)の違いを実務視点で解説し、「どちらを選ぶか」「両方申請できるか」「AI・DXシステム統合は対象になるか」という実際によく来る質問に答える。
PMI推進枠で補助される金額——まずここを確認
補助率と上限額は類型によって大きく異なる。申請前に自社がどちらの類型に該当するかを確認すること。
| 項目 | PMI専門家活用類型 | 事業統合投資類型 |
|---|---|---|
| 補助率 | 1/2以内 | 1/2以内(小規模企業者は2/3以内)※1 |
| 補助上限額 | 150万円(下限50万円) | 800万円(賃上げ実施時は最大1,000万円)※2 |
| 対象経費の中心 | 謝金・旅費・委託費(専門家費用) | 設備費・システム構築費・外注費・委託費 |
| PMI専門家費用の扱い | 補助対象 | 補助対象外 |
| 賃上げ要件 | なし | 補助額800万円超の部分は一律1/2(小規模企業者も同様) |
※1 小規模企業者(製造業等は従業員20名以下、商業・サービス業は5名以下)に限り、2/3の補助率が適用される。ただし補助額800万円を超える部分は企業規模を問わず一律1/2。
※2 賃上げ要件は「補助事業期間終了時点で、公募申請時と比較して事業場内最低賃金+50円以上の賃上げ」。未達の場合、上限は800万円に縮減される。
出典:事業承継・M&A補助金(令和7年度補正)公式サイト(2026年5月4日参照)
補助金全体の枠比較は事業承継・M&A補助金 4枠比較記事でまとめているので、PMI推進枠以外の枠との使い分けを検討中の方はそちらも参照してほしい。
制度の基本データ(第14次公募・令和7年度補正対応)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 事業承継・M&A補助金 PMI推進枠(中小企業生産性革命推進事業) |
| 所管 | 中小企業庁 / 独立行政法人 中小企業基盤整備機構(事務局) |
| 対象者 | M&Aにより経営資源を譲り受けた中小企業者・個人事業主(買い手側) |
| M&Aの種類 | 株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割 等 |
| 第14次公募期間 | 2026年2月27日〜2026年4月3日(受付終了) |
| 採択発表(第14次予定) | 2026年5月中旬(予定) |
| 申請方法 | jGrants(電子申請) |
| 公式サイト | 事業承継・M&A補助金事務局 |
※ 上記は第14次公募時点の情報です。令和7年度補正での次回公募スケジュールは公式サイトでご確認ください。
PMI推進枠を使える条件——要件を先に確認する理由
PMI推進枠の申請資格審査は、補助事業の中身より先に「そもそも対象になるか」を確認することから始まる。要件を満たしていないと、どれだけ精緻な計画書を書いても審査の土俵に上がれない。
共通要件(両類型)
- 中小企業基本法に定める中小企業者または個人事業主であること(業種別の資本金・従業員数基準を満たすこと)
- 日本国内に事業所を持ち、日本国内で事業を営んでいること
- M&Aの買い手側(経営資源を譲り受けた側)であること
- M&A成立前にデュー・デリジェンス(DD)を実施していること
- クロージング(M&A最終決済)が交付申請時点で完了していること
- 補助対象のPMI活動が、クロージング日から1年以内に実施されること
- 法人の場合、申請時点で設立登記および3期分の決算・申告が完了していること
実務で見落としが多いのはDD要件だ。「DD費用はもったいない」「口頭合意で進めた」というケースでは申請資格がない。M&A検討段階から補助金活用を想定しているなら、DDの実施と記録保存を最優先にすること。
PMI専門家活用類型の固有要件
- 財務・会計、人事・労務、IT・システム、ブランド統合等の分野で専門家を活用すること
- 専門家は第三者(士業、コンサルタント、ITベンダー等)であること(自社役員・従業員は不可)
- 専門家活用の内容が、M&A後の統合プロセスに直接寄与すること
事業統合投資類型の固有要件
- M&A後の事業統合を目的とした設備・システム投資であること
- 投資内容が「両社の事業を一体として運営するため」に必要と説明できること
- 補助事業終了時点での賃上げ要件(800万円超の補助を受ける場合)
どちらの類型を選ぶか——判断の実務ポイント
両類型は同一申請では選択式ではなく、それぞれ独立した申請となる。片方だけでも、両方でも申請できる(ただし同一経費の二重計上は不可)。
PMI専門家活用類型が向いているケース
M&Aの規模が小さく、「まずは外部専門家の知見でPMI計画を作りたい」という段階の会社に適している。補助上限は150万円と小さいが、下限が50万円のため小規模な専門家活用でも申請しやすい。具体的には以下のような費用が対象になる。
- M&A後の組織統合計画を策定する経営コンサルタントへの委託費
- 人事制度・給与体系の統一に係る社会保険労務士への謝金
- 財務・会計処理方針の統一に係る公認会計士・税理士への費用
- ブランドガイドラインの整備を担うデザイン会社への委託費
事業統合投資類型が向いているケース
システム統合・設備統合など「モノ・インフラへの投資」が必要な会社に適している。上限が最大1,000万円と大きい分、費用対効果の説明が重要になる。以下のような投資が対象になる。
- 買収先の基幹システム(ERP/会計/受発注管理)を親会社と統合するための構築費
- 生産ラインを再編・統合するための設備導入費
- 両社の販売管理・在庫管理システムを一元化するためのソフトウェア費
- AI・機械学習を活用した生産計画システムの統合導入費
- セキュリティポリシーを統一するためのITインフラ整備費
正直に言うと、AI・DXツールの導入は「M&A後の統合プロセスに直接必要か」という観点で審査される。「AIを入れたかった」だけでは通らない。「買収先と親会社の業務フローが異なり、統合するためにAI-OCRによる帳票統一が必要」という文脈で書く必要がある。この点は申請書で最も差が出る部分だ。
採択率の実績データ
PMI推進枠は4枠の中で申請件数が少ない。過去の採択実績は以下の通り。
| 公募回 | 申請件数(PMI推進枠) | 採択件数 | 採択率 |
|---|---|---|---|
| 第12次公募 | 55件 | 34件 | 61.8% |
| 第13次公募 | 32件 | 19件 | 59.4% |
| 第14次公募 | 審査中 | — | 採択発表:2026年5月中旬予定 |
出典:補助金ポータル 事業承継・M&A補助金解説(参照日:2026年5月4日)
採択率は約60%と他の補助金(IT導入補助金の40〜50%台)より高めだ。ただし、申請件数が30〜55件と少ないため、1件のミスが採択率に大きく影響する。競争倍率は低いが、「要件を満たしている企業が来ている」という前提で審査が行われる。
申請に必要な書類——2類型で異なる部分
必要書類は類型によって異なる。準備に1〜2か月かかるものがあるため、早めに確認しておくこと。
両類型共通の必要書類
- 事業計画書(所定様式)——PMIの目的・実施内容・期待効果・スケジュールを記載
- M&Aに係る最終契約書のコピー——株式譲渡契約書、事業譲渡契約書等
- クロージング完了を証明する書類——株式譲渡の場合は株主名簿、事業譲渡の場合は登記事項証明書等
- デュー・デリジェンス実施を証明する書類——DDレポート(外部専門家作成のもの)またはDD実施を示す議事録・成果物
- 直近3期分の決算書・確定申告書
- 履歴事項全部証明書(発行から3か月以内のもの)
- GビズIDプライムの取得(jGrants申請に必須)
PMI専門家活用類型で追加が必要な書類
- 専門家の略歴・資格証明(士業は登録番号、コンサルタントは実績概要)
- 専門家との委託契約書のコピー(または見積書)
- 専門家活用計画書(どの業務にどの専門家を何時間活用するか)
事業統合投資類型で追加が必要な書類
- 投資する設備・システムの見積書(2者以上から取得が望ましい)
- 統合投資の必要性を示す説明資料(現状のシステム構成図、統合後のフロー図等)
- 賃上げ計画書(800万円超の補助を申請する場合)
DDレポートは「証明できるものがない」というケースが多い。M&A仲介会社や士業に依頼した場合は報告書を保管しておくこと。口頭合意・身内同士のM&Aでも、最低限「DD実施日・実施者・確認事項」を記録した社内議事録を準備することを強く勧める。
申請から交付までの全工程
Step 1: 要件確認と申請準備(M&A検討〜クロージング段階)
GビズIDプライムを未取得なら、まず取得申請から始める。法人の場合、印鑑証明書が必要で取得まで1〜2週間かかる。M&A完了後ではなく、検討段階から準備を始めることが重要だ。
Step 2: 事業計画書の策定(所要:3〜4週間)
PMI推進枠の審査で最も重視されるのは事業計画書の質だ。「なぜこの統合が必要か」「投資後にどう変わるか」をBefore/Afterで数値化する。具体的な達成目標がない計画書は採択されない。
| 項目 | Before(現状) | After(PMI後・目標) |
|---|---|---|
| システム操作の拠点数 | 2拠点・別々のERPで管理 | 1拠点・統合ERPで一元管理 |
| 月次決算処理時間 | 2社合計40時間 | 統合後20時間(50%削減) |
| 在庫管理の精度 | 欠品率4.2% | 統合在庫管理で欠品率1.5%以下 |
Step 3: jGrantsで申請書類を提出
jGrants上で申請書を作成し、上記の添付書類とともに提出する。添付ファイルの容量制限(1ファイル10MB以内)に注意。PDFに変換し、不要ページを削除してから提出すること。
Step 4: 採択通知の受領(申請締切から約6〜8週間後)
採択通知が来た後、すぐに事業を開始してはいけない。次のStep 5「交付申請」の完了後でないと、費用が補助対象にならない。この「採択≠交付決定」のミスが最も多い失敗だ。
Step 5: 交付申請(採択通知から約1〜3週間)
採択通知後、速やかに交付申請を行う。交付申請の審査を経て「交付決定通知」が届いてから、初めて発注・契約・支払いが補助対象になる。
Step 6: 事業実施(交付決定日から事業実施期間内)
第14次公募では事業実施期間の終期が2026年10月下旬(予定)と設定されている。交付決定後、この期限内に全ての発注・納品・支払いを完了させる必要がある。期間が短いため、納品スケジュールは余裕を持って設定すること。
Step 7: 実績報告と補助金の交付
事業完了後、支出した経費の領収書・納品書等をまとめて実績報告書を提出する。実績報告の審査通過後、補助金が後払いで交付される。
審査で落ちる4つのパターン
パターン1:「PMI活動」がM&A後1年を過ぎている
❌ クロージングから14か月後に「まだ統合が続いているから」と申請する
⭕ クロージング日から12か月以内に補助対象の活動を完了できるスケジュールで申請する
1年の起算点は「クロージング日(M&A最終決済日)」であり、統合活動の開始日ではない。タイミングを逃すと永久に使えなくなる。
パターン2:DDを実施していない(記録がない)
❌ 「知人の会社を引き継いだのでDDは省略した」「口頭で確認した」
⭕ 外部専門家によるDD報告書、または最低限のDD実施記録(確認日・確認事項)を用意する
DDなしのM&Aは申請資格がない。次回のM&Aでは必ずDDを実施し、記録を保存しておくこと。
パターン3:事業計画書の数値目標が曖昧
❌ 「業務効率化を目指します」「コスト削減効果が見込まれます」
⭕ 「受発注業務の処理時間を月60時間から25時間に削減(58%減)し、年間コスト削減額は約150万円と試算」
審査委員は数百件の申請書を読む。数字のない計画書は「やる気はあるが根拠がない」と判断される。
パターン4:交付決定前に発注してしまう
❌ 採択通知が届いたので、すぐにシステムベンダーと契約した
⭕ 採択通知→交付申請→交付決定通知を受け取ってから、初めて発注・契約を行う
採択通知は「補助対象になることの仮決定」に過ぎない。交付決定前の経費は一円も補助されない。
AI・DX分野での活用——何が対象になるか
M&A後のシステム統合にAI・DXツールを活用するケースが増えている。事業統合投資類型で補助対象になり得るAI・DX関連の経費の具体例を示す。
補助対象になりやすいもの(ただし、必ずPMIの目的に即した形で計画書に記載すること):
- 両社の受発注データを統合するAI-OCRシステムの導入費
- 異なる会計システムを一元化するためのクラウドERPの初期費用・構築費
- 製造ラインを統合・再編するためのFA・IoTシステムの設備費
- 両社の顧客DBを統合してCRM分析を行うためのシステム構築費
- セキュリティポリシーを統一するためのID管理・認証基盤の整備費
補助対象にならないもの(要注意):
- M&Aとは関係なく、もともと導入予定だったシステム
- 既存システムの保守・運用費(ランニングコスト)
- 汎用のPCやタブレットの単純購入(統合目的でなければ対象外)
- PMI専門家費用(事業統合投資類型では対象外)
「AI導入したいから補助金を使う」ではなく、「M&A後の統合を実現するためにAIが必要」という文脈が重要だ。この区別が申請書の説得力を決定する。
採択率を上げる事業計画書の書き方——3つのポイント
ポイント1:課題→統合手段→効果の因果連鎖を作る
採択される計画書は「なぜ統合が必要か(課題)→何を使って統合するか(手段)→どう変わるか(効果)」の連鎖が明確だ。審査委員がこの連鎖を追えるように、章立てを設計すること。
ポイント2:M&A前後の状態を具体的に描写する
「クロージング前:売り手企業はA社のERPを使用、月次決算に5営業日を要していた。親会社はBシステムを使用。データ形式が異なるため、毎月40時間の手動変換作業が発生。クロージング後:両社のERPをCシステムに統合することで、月次決算を2営業日に短縮、手動変換作業をゼロにする」——この具体性が審査評価を左右する。
ポイント3:PMIの「1年以内」を活かしたスケジュールを示す
クロージング日から1年という制限は制約でもあるが、「緊急性のある投資だ」という説得力にもなる。スケジュール表に「クロージング日(DD)、統合計画策定(MM月)、システム発注(MM月)、移行完了(MM月)、効果測定(MM月)」を明記すると審査委員の信頼を得やすい。
令和7年度補正——次回公募に向けた動きを把握しておく
2026年5月現在、令和7年度補正予算対応の事業承継・M&A補助金のページが公開されている(shoukei-mahojokin.go.jp/r7h/)。PMI推進枠の4枠体制は継続予定とされており、補助率・上限額の骨格も維持される見通しだ。ただし、次回公募の正式な公募要領は未公表の時点(2026年5月4日現在)であり、変更が生じる可能性がある。
次回公募の公募要領が公表されたら、以下の点を必ず確認すること:
- 賃上げ要件の変更有無(上限額や補助率に影響)
- 対象経費の範囲の変更(AI・DX関連の扱い)
- DDの証明方法に関する要件の変更
- 事業実施期間の設定(短い場合は発注スケジュールに注意)
次回公募を狙うなら、今からDD記録の整備とGビズID取得を進めておくことを勧める。
参考・出典
- 事業承継・M&A補助金(令和7年度補正)公式サイト——事業承継・M&A補助金事務局(参照日:2026年5月4日)
- 事業承継・M&A補助金(令和6年度補正)公式サイト——事業承継・M&A補助金事務局(参照日:2026年5月4日)
- 中小企業生産性革命推進事業「事業承継・M&A補助金」(十四次公募)の公募要領を公表します——中小企業庁(参照日:2026年5月4日)
- 中小企業庁担当者に聞く「事業承継・M&A補助金(令和6年度補正)」——ミラサポplus(参照日:2026年5月4日)
- 【14次公募】2026年 事業承継・M&A補助金を完全解説!——補助金ポータル(参照日:2026年5月4日)
PMI推進枠のどちらの類型を選ぶか、AI・DXシステム統合が対象経費になるかについて個別に確認したい場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。Uravationでは100社以上のAI導入・DX推進支援の経験をもとに、補助金と組み合わせた計画策定をサポートしています。
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この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。
免責事項
本記事の情報は2026年5月4日時点の中小企業庁・事業承継・M&A補助金事務局の公表資料に基づく参考情報です。補助金・助成金の制度内容は予告なく変更される場合があります。申請にあたっては、必ず公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。本記事の情報に基づく申請の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。
