【令和8年度】賃上げ促進税制完全解説|中小企業の最大活用法

この記事の結論

令和8年度税制改正で大企業向けが廃止される一方、中小企業向け賃上げ促進税制は2027年3月末まで継続。最大35%の税額控除の仕組み・計算例・申告手続きを完全解説します。

賃上げを実施した中小企業は、給与等支給増加額の最大35%を法人税から直接差し引ける。これが賃上げ促進税制の核心だ。売上5億円・給与総額1億円規模の中小企業であれば、前年比3%の賃上げを実施した場合に最大105万円の税額控除を受けられる計算になる。

令和8年度(2026年度)税制改正で大企業向けは廃止となった一方、中小企業向けは2027年3月末まで継続される。経営者の方、人事担当の方にとって、この制度を使いこなすかどうかが今期の納税額に直結する。


賃上げ促進税制で控除できる金額

令和8年度時点の中小企業向け控除率は以下のとおりだ。

条件 控除率
前年比1.5%以上の賃上げ(基本要件) 15%
前年比2.5%以上の賃上げ(上乗せ要件) +15%(計30%)
くるみん・えるぼし等の認定取得(上乗せ要件) +5%(計35%)
  • 控除の対象は「雇用者給与等支給増加額」(当年度給与総額 − 前年度給与総額)
  • 税額控除の上限は当年度法人税額の20%
  • 上限に達して控除しきれなかった場合は5年間の繰越控除が可能(赤字年度でも賃上げしていれば将来に持ち越せる)

令和8年度の変更ポイント(前年度からの差分)

項目 令和7年度まで 令和8年度以降
基本控除率(賃上げ1.5%以上) 15% 15%(変更なし)
上乗せ(賃上げ2.5%以上) +15% +15%(変更なし)
教育訓練費増加による上乗せ +10% 廃止
くるみん・えるぼし等による上乗せ +5% +5%(継続)
最大控除率 45% 35%
大企業向け 適用あり(最大35%) 廃止(2026年3月末で終了)

教育訓練費の上乗せ(10%)が廃止されたのは、会計検査院から「教育訓練費の増加額より得られる減税額のほうが大きくなる逆転現象が生じている」と指摘があったためだ。中小企業にとって最大控除率が45%→35%に下がった点は、影響として押さえておきたい。

なお、東京都独自の助成金や都のDX支援制度については、【2026年】東京都DX推進助成金|AI導入・デジタル化支援の都独自補助金まとめでまとめている。国の税制と都の補助金の使い分けを検討している方は参照してほしい。


この制度を使える企業の条件

対象となる中小企業の基本要件

中小企業向け賃上げ促進税制の適用対象は、青色申告法人であることが前提。資本金・従業員の規模は下表のとおり。

区分 要件
資本金 1億円以下
従業員数(資本金要件の代替) 1,000人以下(常時使用する従業員)
申告形態 青色申告法人(白色申告は対象外)

適用除外となるケース

下記に該当する場合は中小企業向け制度が使えない(「みなし大企業」扱い)。

  • 大規模法人(資本金1億円超)から2分の1以上の出資を受けている法人
  • 複数の大規模法人から合わせて3分の2以上の出資を受けている法人
  • 前3事業年度の所得金額の年平均が15億円を超える法人(高収益中小企業の適用除外)
  • 設立初年度、合併事業年度、清算中の法人

グループ会社など大手の傘下にある場合はまず出資比率を確認すること。


「賃上げ率2.5%以上」を達成するための実務

何を「給与等支給額」に含めるか

計算のベースとなる「雇用者給与等支給額」には、役員報酬を除いた国内雇用者全員への給与・賞与・残業代などが含まれる。社会保険料の会社負担分や退職金は含まない。

賃上げ率の計算式は次のとおり。

賃上げ率(%) = (当期給与等支給額 - 前期給与等支給額) ÷ 前期給与等支給額 × 100

注意点として、業務改善助成金などの「賃金助成」に充てるために他の者から受け取った額は、計算上の給与等支給額から差し引く必要がある。業務改善助成金との組み合わせを検討している企業は、後述する「併用パターン」のセクションを参照してほしい。

2.5%と1.5%の境界線

前年度給与総額が1億円の会社の場合、賃上げ額の目安は以下のとおり。

賃上げ目標 必要な増加額 実現する控除率
前年比1.5%以上 150万円以上増 15%
前年比2.5%以上 250万円以上増 30%
前年比2.5%以上 + 認定取得 250万円以上増 35%

250万円の増加(2.5%超え)であれば控除率は30%に上がり、法人税の控除額が2倍になる。ここは経営判断として意識する価値がある。


くるみん・えるぼし認定で控除率を35%に引き上げる

5%上乗せの対象となる認定

くるみん・えるぼし上乗せの適用パターンは2種類ある。

(1)認定を取得した事業年度のみ適用(認定取得年単発)

  • くるみん認定(次世代育成支援対策推進法第13条)
  • くるみんプラス認定
  • えるぼし認定2段階目以上(女性活躍推進法第9条)

(2)認定保有中の各事業年度に継続適用(毎期適用可能)

  • プラチナくるみん認定
  • プラチナえるぼし認定

継続的に上乗せを受けたいなら、プラチナ認定の取得を目指すのが合理的だ。

くるみん認定の主な要件(参考)

  • 「一般事業主行動計画」を策定し、都道府県労働局に届け出ること
  • 3歳から就学前の子を育てる従業員向けの短時間勤務・残業削減等の措置を実施していること
  • 育児休業取得率等の数値目標を設定し達成していること

詳細は厚生労働省「次世代育成支援対策推進法に基づく認定制度」で確認すること。くるみん認定の申請先は各都道府県労働局(雇用環境・均等部)だ。


具体的な控除額シミュレーション

ここでは3つのケースで実際の控除額を試算する(いずれも想定シナリオ)。

ケース1:給与総額1億円、賃上げ率2%(基本要件のみ)

項目 金額
前期給与等支給額 1億円
当期給与等支給額 1億200万円(+2%)
給与増加額 200万円
控除率 15%(賃上げ率1.5%以上)
税額控除額(上限前) 30万円
当期法人税額が300万円の場合、上限(20%) 60万円 → 上限には引っかからず 30万円全額控除

ケース2:給与総額1億円、賃上げ率3%(上乗せ要件)

項目 金額
前期給与等支給額 1億円
当期給与等支給額 1億300万円(+3%)
給与増加額 300万円
控除率 30%(賃上げ率2.5%以上)
税額控除額(上限前) 90万円
当期法人税額が500万円の場合、上限(20%) 100万円 → 上限には引っかからず 90万円全額控除

ケース3:給与総額3億円、賃上げ率3%+プラチナくるみん認定保有

項目 金額
前期給与等支給額 3億円
当期給与等支給額 3億900万円(+3%)
給与増加額 900万円
控除率 35%(2.5%超え30% + 認定5%)
税額控除額(上限前) 315万円
当期法人税額が1,200万円の場合、上限(20%) 240万円 → 上限240万円を控除(残75万円は翌年度以降に繰越)

ケース3では上限20%を超えるため繰越制度が活きる。5年以内に黒字が続く限り、繰り越した75万円は将来に使える。


申告手続きの全体像

賃上げ促進税制は補助金の申請とは異なる。事前に届出や審査は不要で、決算後の法人税申告時に別表を添付するだけで適用を受けられる。手順は以下のとおり。

Step 1: 賃上げの実施(事業年度中)

まず、実際に従業員の給与・賞与を前年度より引き上げることが大前提だ。「1円でも増えたら」ではなく、1.5%以上(または2.5%以上)の増加率が必要なので、期末が近づいたら給与総額の推移を確認しておこう。

Step 2: 給与等支給増加額の集計(決算時)

決算作業と並行して、前期・当期の雇用者給与等支給額を集計する。

  • 役員報酬は除外
  • 雇用安定助成金額などが含まれている場合は控除
  • 雇用安定助成金(雇用調整助成金など)は除外対象から外れるが、その他の賃金助成は控除が必要

この集計を誤ると控除額が変わってくるため、税理士との確認が推奨される。

Step 3: 別表六(三十一)の作成・添付

中小企業向け賃上げ促進税制は、法人税申告書に別表六(三十一)「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を添付して申請する。

別表の記載ミスが多い項目として、国税庁は次の点を特に注意喚起している。

  • 「調整雇用者給与等支給増加額」の計算(上限の扱い)
  • 上乗せ要件の根拠書類(認定証のコピーなど)の確認漏れ

Step 4: 確定申告書の提出(決算後2か月以内)

確定申告書の提出期限は決算日から原則2か月以内(申告期限延長を取得している場合は最大3か月)。別表と合わせて提出する。

Step 5: 繰越控除の管理(翌年度以降)

当年度に上限で控除しきれなかった場合は、翌年度以降5年間にわたり繰越控除が可能。ただし繰越控除を適用する事業年度においても「前年度比で給与等支給額が増加していること」が条件となる。


業務改善助成金との併用で賃上げの実質コストを下げる

業務改善助成金(厚生労働省)は、生産性を向上させる設備等を導入した上で事業場内最低賃金を引き上げた中小企業に対して、設備導入費用を最大600万円助成する制度だ。

補助金ナビでも詳しく解説しているので、あわせて確認してほしい。

【令和8年度】業務改善助成金 完全ガイド|3コース・最大600万円

組み合わせるとどうなるか

たとえば、業務改善助成金で生産性向上ツールを導入し、その効果として売上・利益が増加した上で賃上げを行う場合、「業務改善助成金で設備コストを軽減」→「賃上げを実施」→「賃上げ促進税制で法人税を削減」という二段階の還元が可能になる。

ただし、業務改善助成金の賃金助成分(最低賃金引き上げに直接充てる助成金)は、賃上げ促進税制の計算から除外される。具体的には、受領した業務改善助成金の額を給与等支給額から差し引いて控除対象増加額を計算することになる。

この計算は複雑なため、正確な試算は税理士・社労士に相談することを強く推奨する。


申告でよくある失敗と落とし穴

失敗1: 教育訓練費の上乗せを令和8年度以降も使おうとする

❌ 「教育訓練費を増やしたから10%の上乗せが使える」

⭕ 教育訓練費の上乗せは令和8年度(2026年4月1日以後に開始する事業年度)から廃止。令和8年度以降の申告では使えない。

3月決算法人の場合、2027年3月期(2026年4月〜2027年3月)から廃止ルールが適用される。決算時期によって適用開始のタイミングが異なるため要注意だ。

失敗2: 役員報酬を給与等支給額に含めて計算する

❌ 役員報酬を含めた全員分の給与で増加率を計算する

⭕ 「雇用者給与等支給額」は国内雇用者(役員を除く従業員)への支給分のみ。役員報酬が増えても賃上げ率の計算には算入されない。

失敗3: 採択通知を待たずに申請書を出す(この制度には採択プロセスはない)

❌ 「申請書を提出して審査を待つ」という補助金のイメージで考える

⭕ 賃上げ促進税制は確定申告の際に別表を添付するだけで自動的に適用。事前の申請・審査は不要だ。補助金と混同している経営者が意外と多い。

失敗4: 控除上限20%を把握せずに計算する

❌ 給与増加額×控除率の全額を控除できると思い込む

⭕ 法人税額の20%が上限。赤字や低税額の年度は控除が制限される。ただし繰越制度を使えば最大5年間は翌年以降に持ち越せる。

失敗5: みなし大企業チェックを忘れる

❌ 資本金1億円以下なら無条件で中小企業向け税制を使えると思い込む

⭕ 大規模法人から1/2以上の出資を受けている場合は中小企業向けの適用外。グループ内での資本関係があれば必ず確認すること。


個人事業主・フリーランスにも同制度はある?

賃上げ促進税制は法人税の控除が中心に語られることが多いが、青色申告の個人事業主も対象になる(所得税の税額控除として適用)。

ただし個人事業主の場合、「雇用者給与等支給額」とは家族従業員(青色事業専従者を除く)への給与が対象になる。経営者本人や同居の配偶者への給与は含まれない。

対象となるのは、規模として「常時使用する従業員1,000人以下」という要件を満たす個人事業主だ。法人と同様に青色申告が必須で、申告時には所得税申告書の「特例計算の明細書」に相当する書類を添付する。

実務上は従業員を雇っている事業規模の個人事業主が主な対象になる。フリーランス(一人親方・独立した専門家)のように従業員のいないケースでは適用がない点を押さえておこう。

令和9年度以降の見通し:制度はいつまで続くか

現行法では、中小企業向け賃上げ促進税制の適用期間は「令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度」とされている。3月決算法人の場合は2028年3月期(2027年4月〜2028年3月開始分)まで対象外となる見通しだ。

令和9年度(2027年度)税制改正の動向によっては延長・拡充・縮小のいずれもあり得る。例年12月下旬に与党が「税制改正大綱」を公表し、翌年3月に法律が成立するスケジュールのため、2026年末の大綱発表が次の注目ポイントになる。

「2027年3月末で終わりそうだから駆け込みで今年度に使う」という判断は合理的だが、制度が延長されるケースも多い。現時点では「継続前提で使えるうちに活用する」というスタンスが現実的だろう。

注意点:この記事は税務情報の提供のみ

本記事の内容は税制・制度の概要説明を目的とした情報提供であり、税務申告の代行・具体的な節税プランニングの提供はしていない。

実際の適用可否の判定・申告書の作成・節税計画の立案については、顧問税理士または最寄りの税理士事務所に相談すること。賃上げ促進税制は年度ごとに要件が変わるため、最新の公募要領・国税庁のウェブサイトで確認することを強く推奨する。


よくある質問(Q&A)

Q. 中小企業に該当するかどうか、どこで確認できますか?

A. 自社の定款や登記情報で「資本金1億円以下」かどうかを確認するのが最初のステップだ。ただし「みなし大企業」の判定(大規模法人からの出資比率)は登記情報だけでは判断できないため、株主名簿や持株比率も確認が必要になる。不明な場合は税理士に確認を。

Q. 賃上げをしたのに前年度比でマイナスになってしまった場合は?

A. 給与等支給額の合計が前期を下回った場合、賃上げ促進税制の適用要件(1.5%以上増加)を満たさないため控除は受けられない。退職者が多かった年など、人員変動で総額が下がることがある。制度は「全雇用者ベース」で判定するため、新入社員を採用して増やした場合でも退職者の穴を埋めなければカウントされない点に注意。

Q. 繰越控除を使うと何年後まで持ち越せますか?

A. 5年間の繰越が可能だ。ただし繰越控除を適用する各事業年度において、「その年度も前年比で給与等支給額が増加していること」が適用条件となっている。毎年賃上げを続けている会社でないと繰越が使えないため、「赤字年度でも賃上げを維持する」という経営判断とセットで考える必要がある。

Q. 個人事業主でも使えますか?給与が発生していない場合は?

A. 青色申告の個人事業主は対象だが、家族従業員以外の「他の人に支払う給与」が発生している場合に限られる。経営者本人の所得に対しては適用されない。

Q. くるみん認定を今から取ると今期から5%上乗せになりますか?

A. 「くるみん認定(通常版)」を当期中に取得した場合は取得した事業年度のみ5%上乗せが可能だ。翌年度以降は適用がなくなる(プラチナくるみんは継続適用可)。プラチナ認定の取得には通常くるみん認定取得後の実績が必要なため、すぐにプラチナを取得するのは難しい。「今期に認定を取りにいく」なら早めに都道府県労働局への申請準備を始める必要がある。

Q. 赤字の年度でも申請できますか?

A. 赤字の場合は法人税額がゼロになるため、当年度の税額控除は実質発生しない。しかし、制度上は申告書に別表を添付することで「繰越控除額」として翌年以降に繰り越す権利を確定させることができる。赤字でも申告書の別表添付は行うことを税理士に確認のうえ忘れずに。


対象制度の年度別ロードマップ(まとめ)

賃上げ促進税制は複数の規模区分があり、廃止時期が異なる。混乱しないよう全体像を示す。

対象区分 適用期間(開始事業年度) 最大控除率 教育訓練費 認定上乗せ
大企業 〜2026年3月末(終了) 廃止 廃止 廃止
中堅企業(従業員2,000人以下等) 〜2027年3月末 25% 廃止 5%
中小企業(資本金1億円以下等) 〜2027年3月末 35% 廃止 5%(継続)

3月決算法人の場合、「2026年4月〜2027年3月」の事業年度が令和8年度(改正後の初の事業年度)に該当する。申告は2027年5月ごろが期限となる。


参考・出典


AI導入と賃上げを同時に進めたい方へ

賃上げ促進税制で法人税を削減しながら、AI導入や生産性向上にも取り組む企業が増えている。「賃上げのための原資をどう確保するか」という観点では、業務改善助成金以外にも、デジタル化補助金やものづくり補助金との組み合わせが有効なケースがある。

各補助金との組み合わせについては、補助金ナビのトップページで制度一覧を確認してほしい。

どの補助金が自社に合うか分からない場合や、AI導入の計画策定についてお悩みの際は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。


免責事項

本記事の情報は2026年5月3日時点の各省庁・事務局の公表資料に基づく参考情報です。

税制・補助金の制度内容は予告なく変更される場合があります。

申告にあたっては、必ず顧問税理士および国税庁中小企業庁の公式サイトで最新情報をご確認ください。

本記事の情報に基づく申告の結果について、当サイトは一切の責任を負いません。

この記事は補助金ナビ編集部がお届けしました。

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